第59話 昼・不安と決意の間で
部屋に戻って、昼食。
「お腹すいたー!」
タッチパネルでカップ麺を注文。
塩味。
「カップ麺!塩味!」
ウィーン。出てきた。カップ麺の匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
お湯を注いで3分待つ。
待ってる間、ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子……ケンタくん、効率悪いって言ったんだよ。むかつく……でも、ちょっと心配してくれてるのかな……」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
ピピピ。
できた!
蓋を開けて、ずるずるすする。
塩味。
いつもの味。
「ケンタくんと競えるなんて……嬉しい……」
もぐもぐ食べる。
グンちゃんが見てる。
「グンちゃん、見てる?ありがとう」
「にゃあ」
食べ終わって、今日の撮影データを処理した。
「よし、データ処理しよう!」
部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。
日給社宅の屋上農園の跡。
子どもたちの夢の跡。
2号棟の鉄扉。
67号棟のX階段。
全部、丁寧に。
Align Images、Create Model、Simplify、Unwrap、Texture。
いつもの工程。
「処理中……」
待ってる間、グンちゃんを撫でる。
「よしよし……」
グンちゃんはゴロゴロ言う。
「可愛いね」
ピコン。
処理完了!
「できた!」
画面を見る。
うん、いい出来。
3つの建物、それぞれの個性が出てる。
でも、時間がかかった。
ケンタくんの言う通り、効率は悪い。
私は、今日のデータを、またグンちゃんに託すことにした。
「グンちゃん、お願い」
USBメモリを首輪に結ぶ。
「よいしょ……ケンタくんのところまで、届けてくれる?」
グンちゃんは、「にゃあ」と鳴いた。
「ありがとう。気をつけてね」
グンちゃんが出発した。
窓から見送る。
暗闇の中に消えていく。
「気をつけて……見えなくなった……」
待つ。
不安になってきた。
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子……私、本当に間に合うのかな……効率悪いって……ケンタくん、レーザーで速いし……私……間に合うのかな……」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「でも、やるしかないよね。頑張るしかない」
しばらくして、グンちゃんが帰ってきた。
「にゃあ!」
「グンちゃん!おかえり!」
駆け寄って、抱き上げる。
「ありがとう!」
首輪を見ると、メモがついてる。
外して、開く。
読む。
『遅くても、いい。君のペースで。それが、君の強みだから』
「!」
目を見開く。
「私のペース……私の……強み……」
胸がじんと熱くなる。
「ケンタくん……優しい……嬉しい……」
涙が出そうになる。
でも、泣かない。
私は、窓の向こうの明かりを見つめながら、小さく呟いた。
「ありがとう、ケンタくん……私、頑張るよ」
ボトル子に報告。
「ねえボトル子、ケンタくんが応援してくれた。優しいよね」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
グンちゃんも見てる。
「グンちゃんもありがとう」
「にゃあ」
私は、これまでの進捗を確認してみた。
「進捗……確認しよう……」
全70棟の建物のうち、完成したのは約25棟。
進捗率、35%。
残り10日で、あと45棟。
「……厳しい」
正直に言って、かなり厳しい。
「かなり……厳しい……」
でも、冷静に考えてみる。
「待って……全部の建物を内部まで完璧にフォトグラメトリするのは……無理だわ……」
最初の約束を思い出す。
"それなり"に残す、だった。
「そういえば……"それなり"って言ってたよね……外観をメインにして、主要な建物だけ内部も……そうすれば完成できる!」
現実的な判断。
完璧を求めすぎていた自分に気づく。
「外観メイン! 主要建物は内部も!これなら間に合う!」
拳を握りしめる。
「絶対……やり遂げる……!」
今日も、一人じゃなかった。
そして、支えてくれる人たちがいる。
それが、力になる。




