第5話 昼・ドローン、暴走と神機能
精神的に疲れ果てて、部屋でカレーライス食べながら午後の作戦を練る。
「こういうパニックの後はカレーに限る!」
タッチパネルでポチッとした、800円のカレーライス。スプーンでカレールーをすくって、ご飯にかける。
「このルーの色!食欲そそる!」
一口食べる。
「辛っ!でも美味い!」
スパイシーな香りが、ささくれた心を少しだけ癒してくれた。口の中が熱いけど、それがいい。生きてる実感がする。
「もう二度と手動で飛ばすもんか。絶対に」
ドローンのマニュアルを隅から隅まで読み込むことにした。あんな怖い思いは二度とごめんだ。さっきのパニック、思い出すだけで心臓バクバクする。
「えーっと、基本操作、緊急時の対応、撮影モード……」
ページをめくっていくと、見落としていた項目を発見。
「自動撮影モード?」
え、なにこれ。読み進める。
「対象物を指定すると、その周りを自動で周回しながら撮影してくれる……」
「え、そんな便利な機能あったの!?」
「なんでこれに最初に気づかなかったんだ私!バカなの?!いや、バカだった!完全にバカ!」
悔しい。昨日の今日で、もっと早くマニュアルちゃんと読んでれば。朝のあのパニック、全部無駄じゃん。でも、失敗したからこそ、今これを見つけられたんだ。
カレーを一気にかき込む。辛くて涙出てきた。でもこれはカレーの辛さのせいだから。
「もう一回挑戦する!今度は絶対うまくいく!」
午後、再びドルフィン桟橋へ。ドローンとカメラ持って。今度は自信がある。マニュアルちゃんと読んだもん。
「行くよ、相棒!今度こそ!」
コントローラーの画面で桟橋をタップして、『自動撮影開始』のボタンをポチッ。
ドローンが、まるで魔法の軌道を描くように、滑らかに桟橋の周りを飛び始めた。熟練のパイロットが操縦してるみたいだ。機体が旋回する。上昇する。角度を変える。まるで生きてるみたい。
「すごっ!プロじゃん!さっきの暴走がウソみたい!」
手元の画面にリアルタイムで映像が送られてくる。錆びた鉄骨の複雑な構造、波が打ち付ける橋脚の根本、人が歩くには危険な先端部分まで。
「うわー!これこれ!こういうの撮りたかった!」
私が見ることのできない角度から、ドローンは不屈の桟橋の記憶を記録していく。その完璧な動きに、ただ見とれてた。目が離せない。
「技術の進歩ってすごいなぁ……」
モニターを見てたら、興奮しすぎて後ろに下がって、石につまずく。
「わっ!」
なんとか踏みとどまったけど、心臓バクバク。
「危なかった……コントローラー落としたら終わりだった。さっきの教訓、全然生きてない!落ち着け私!」
でも画面から目が離せない。橋脚の接合部、鉄骨の溶接跡、コンクリートの亀裂。地上からじゃ絶対見えない部分が、次々と画面に映る。
空から見下ろすと、島の形がよく分かる。軍艦に似てる。だから軍艦島なんだ。建物がびっしり密集して、まるで要塞みたい。
「これ、地上撮影だけじゃ絶対無理だった」
昨日の私には、絶対できなかった。
ドローンが一周して戻ってくる。
「おかえり!今日も……じゃなくて、今度こそ頑張ったね!えらいえらい!」
機体を撫でる。ちょっと熱い。
撮れた写真を確認。ブレもなく、完璧な重複率。
「やった!完璧!」
小さくガッツポーズ。
調子に乗って、もう一回飛ばす。今度は別の角度から。
「この角度からも撮っとこう!データは多いほうがいいよね!保険保険!」
桟橋の下側、波が打ち寄せる部分。橋脚が海水に洗われて、白い塩が固まってる。近くで見ると、緑色の藻みたいなのもついてる。
「すごい……2回も流されたのに、まだ立ってる」
3回目の挑戦。執念の三代目。この桟橋みたいに、私も諦めない。諦めないもん。
夢中になりすぎて、気づいたら2時間も経ってた。
「やば!もうこんな時間!」
真夏の太陽が容赦なく照りつける。島全体が熱を帯びて、コンクリートが熱を跳ね返してくる。空気が歪んで見える。
汗だく。パーカーが肌に張り付いて気持ち悪い。首筋から汗が流れてく。
「暑すぎ!脱水症状になる!」
でも充実感がある。今日のデータは完璧。昨日の失敗があったから、今日の成功がある。失敗って、無駄じゃないんだ。
地上からの撮影も追加で。昨日学んだ重複率80%を守って、慎重に。橋脚の根本、階段の一段一段、手すりの錆。細部まで丁寧に。
「これだけ撮れば大丈夫」
ドルフィン桟橋は、合計365枚。
「次は海底水道取込口だ!」
桟橋のすぐ近くの堤防部分に、大きく口を開けた穴がある。近づいてみると、思ったより深い。
「うわ、結構デカい穴……」
解説によると、元々は野菜船の荷揚げに使われてた船着場だったらしい。でも、やがて使われなくなって、昭和32年に海底水道が完成した時、この穴から水道管を島内に引き入れたんだって。
「国内初の海底水道……すごいよね」
穴を覗き込む。中は暗い。懐中電灯ないし、どうしよう。
「カメラの露出上げればいいか」
設定をいじって、明るさを上げる。ファインダー越しに見ると、穴の中の構造がぼんやり見えた。
「お、見える!」
穴の周囲から撮影開始。正面、左右、上から。可能な限りの角度で。
「でも中が暗すぎる……」
ドローンで中を撮影できないか考えたけど、狭すぎて無理そう。ぶつけたら本当に終わる。
「外側だけでも完璧に撮ろう」
堤防の上に登って、上から撮影。穴の形がよく見える。丸じゃなくて、ちょっと歪んでる。
「こっちからも、こっちからも……」
海底水道取込口は、合計50枚。少ないけど、これが限界。
「よし、完璧!」
桟橋を振り返る。
「ありがとう。あなたたちの執念、ちゃんと記録したから」
小さく手を振って、部屋に戻る。
足取りは軽い。
階段を上りながら考える。
「朝は暴走させて、泣きそうになって、でも諦めなかった」
「マニュアル読んで、自動撮影モード見つけて、成功した」
「私、成長してる?してるよね?」
部屋に戻って、冷房の効いた部屋で一息。
「あー涼しい!生き返る!天国!」
とりあえず水をがぶ飲み。喉がカラカラだった。
シャワー浴びる前に、データをPCに転送開始。
「415枚……多い!でもいいデータ!」
転送待ちの間、着替えてシャワー。
「あー気持ちいい!汗と潮の匂いが取れる!」
髪を洗って、体を洗って、さっぱり。タオルで髪を拭きながら、鏡を見る。
「日焼けした?ちょっと赤い?」
でも、昨日より目が輝いてる気がする。鏡の中の自分が、ちょっと違って見える。
「私、やれてるじゃん」
小さくガッツポーズ。ミカに見られたら絶対笑われる。
部屋に戻ると、データ転送が完了してた。
「よし、記憶の紡績、始めよう!」
でもその前に、お腹すいた。めっちゃ空いた。
タッチパネルで夕食を選ぶ。
「今日は何にしよう……」
メニューを見てたら、新しい項目が追加されてる。
『本日のおすすめ』焼き魚定食(800円)
「お、安い!これにしよう!健康的だし!」
でも、胸の奥に小さな違和感が引っかかる。なんで、メニューが増えてるんだろう。
ポチッ。
出てきた焼き魚定食は、シンプルだけど美味しそう。ご飯に味噌汁、焼き魚、小鉢がいくつか。
「いただきます!」
焼き魚の皮がパリッとしてて美味しい。ご飯が進む。
「やっぱり和食落ち着く~。心が浄化される~」
食べながら、今日の成果を振り返る。
「朝は失敗して、でも諦めなかった」
「昼はマニュアル読んで、新しい方法を見つけた」
「そして成功した」
一口ずつ味わいながら、噛みしめる。魚の身がふっくらしてる。
「ドルフィン桟橋は2回流されても3回目を作った」
「私も、1回失敗したくらいで諦めない」
お箸を置いて、窓の外を見る。夕焼けに染まる海。オレンジ色が綺麗。
「明日も頑張ろう」
残高37,850円。まだ大丈夫。
食事を終えて、いよいよPC作業。今日の成果が、どんな形になるのか。楽しみで仕方ない。
余韻を噛みしめながら、静かに立ち上がる。
「さあ、記憶の紡績、本格始動!」




