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第56話 昼・写真にしかできないこと

部屋に戻って、昼食。


お腹は空いてるのに、食欲がない。


「お腹すいた……」


でも、集中できなかった。


全然。


頭の中が紙飛行機でいっぱい。


「集中……できない……」


タッチパネルでカップ麺を注文した。


ぽちっ。


適当に。


「カップ麺……」


シーフード味。


「シーフード……」


ウィーン。出てきた。カップ麺の匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


お湯を注いで3分待った。


「3分……長い……めっちゃ長い……」


待ってる間、窓の外を見た。


ずっと見てた。


「彼の部屋……」


明かりがついてる。


電気がついてる。


「ついてる……」


紙飛行機、届いたかな。


「届いたかな……」


ピピピ。


できた。


カップ麺。


蓋を開けて、ずるずるすすった。


機械的に。


「……」


味がしなかった。


何を食べてるのかわからない。


「味……しない……」


紙飛行機の行方が気になって、それどころじゃなかった。


食事どころじゃない。


「気になる……」


機械的に食べた。


すする、すする。


口を動かす。


「食べなきゃ……」


すする、すする、すする。


喉を通る。


でも味がしない。


「……」


グンちゃんが足元で見てた。


じーっ。


心配そうな顔。


「グンちゃん……」


「心配してくれてる?」


「にゃあ」


「ありがとう……」


食べ終わった頃。


昼食を終えた頃、外で、カサリ、と音がした。


何かが落ちた音。


「!」


「音!?今の音!」


慌てて立ち上がった。


ガタッ。


椅子が倒れそうになる。


「今の!」


窓に駆け寄った。


だだだっ。


全速力で。


「窓!」


窓を開けた。


ガラガラ。


勢いよく。


「開けて……」


見た。


下を見た。


地面に、私と同じ形の紙飛行機が落ちていた。


白い紙が目立つ。


「紙飛行機!」


「返事だ!」


急いで外に出た。


だだだっ。


階段も駆け降りた。


「待って!」


拾った。


震える手でそれを拾った。


手が震えて、うまく掴めない。


「震える……手が震える……」


心臓バクバク。


口の中が乾く。


「バクバク……」


開いた。


そっと。


破かないように。


「開けて……」


そっと開いた。


慎重に。


大切に。


そこには、男の子らしい、少し角張った文字が並んでいた。


力強い文字。


「文字……」


読んだ。


一字一句、確認しながら。


『佐藤健太。同じく高3。俺の担当は、レーザースキャンだ』


「佐藤健太……」


名前。


名前がわかった。


彼には名前があった。


「名前がわかった……」


佐藤健太……ケンタくん。


「ケンタくん……」


呟いてみた。


声に出してみる。


「ケンタくん……」


照れくさい。


なんか照れくさい。


知らない男の子の名前を呼ぶのが。


顔が、少し熱くなる。


「照れくさい……」


でも、嬉しかった。


めっちゃ嬉しかった。


胸がいっぱいになる。


「嬉しい……」


名前がわかった。


高3。


同じ学年。


「同じく高3……」


「同じ高校生だ……」


そして、レーザースキャン?


「レーザースキャン……」


昨日調べたやつ。


あの技術。


「昨日のやつ……」


やっぱりレーザースキャンなんだ。


「やっぱり……」


部屋に戻った。


だだだっ。


走って。


「調べよう……もっと詳しく……」


グンちゃんに報告した。


抱き上げて。


「グンちゃん!返事来た!」


「にゃあ!」


「佐藤健太って言うんだって!」


「ケンタくん!」


「にゃあ」


「同じ高3!同じ高校生!」


嬉しい。


嬉しすぎて、グンちゃんをぎゅっと抱きしめた。


でも、気になることがあった。


「レーザースキャン……」


私は、午後の撮影そっちのけで、ネットに繋いだ。


ルール違反かもしれないけど、知りたい。


「もう一回調べよう……」


昨日も調べたけど、もう一回。


詳しく。


もっと詳しく。


「詳しく……」


検索した。


ぽちぽち。


キーボードを叩く。


部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。


対象物にレーザーを照射して、その反射で、精密な3Dデータを作成する技術。


高速で正確。


「精密な3Dデータ……」


フォトグラメトリよりも、ずっと速くて、正確。


圧倒的に。


「ずっと速くて、正確……」


「……ずるい」


思わず、声が漏れた。


小さく。


「ずるいよ……」


私が何百枚も写真を撮って、苦労して作っているものを。


汗だくになって。


「何百枚も……汗だくになって……」


彼はもっと簡単に……。


機械が自動で。


「簡単に……ピピッて……」


「ずるい……」


いや、でも。


「でも……」


写真には、写真の良さがあるはず。


レーザーにはない何かが。


「写真の……良さ……私にしかできないこと……」


「よし、午後は頑張ろう」


グンちゃんに話しかけた。


「行ってくるね、グンちゃん」


「にゃあ」


「負けないからね」


「にゃあ」


「絶対負けない」


午後の3号棟の撮影。


「3号棟……」


建物に入った。


ガチャ。


重いドアを押し開ける。


「中……」


階段を上がった。


一段ずつ。


「最頂部まで……」


息が切れた。


はあはあ。


運動不足を実感。


「はあ、はあ……」


「高い……めっちゃ高い……」


でも、上がった。


負けない。


途中で諦めない。


「もう少し……もうちょっと……」


最上階に到着した。


はあはあ。


汗が額を伝う。


「着いた……」


「うわ……」


そこは、他のアパートとは明らかに違う、格調高い空間だった。


全然違う。


広い。


「格調高い……」


3K。


8畳に6畳が2つ。


広々としてる。


「広い……めっちゃ広い……」


30号棟の6畳一間とは全然違う。


比べ物にならない。


「全然違う……こっちは高級……」


そして、島内初の室内風呂を見つけた。


「室内風呂……」


狭いけど、確かにある。


浴槽がある。


「ある……」


コンクリート製の浴槽。


冷たそう。


「コンクリート……」


手で触れた。


ひんやり。


やっぱり冷たい。


「冷たい……でも、これがあるだけで、特別だったんだ……贅沢……」


窓から外を見た。


視界が開ける。


「わあ……」


眺望が抜群だった。


めっちゃいい。


息を呑む景色。


「すごい……」


島全体が見渡せた。


建物も、海も、全部。


「島全体……」


海も。


空も。


地平線まで。


「全部……見える……」


「ここが、一番高い場所……」


資料を思い出した。


書いてあったこと。


「若者のデートスポット……」


デートスポット。


その言葉が、胸に響く。


デート。


恋人たち。


手を繋いで。


「デート……」


屋上に上がってみることにした。


「屋上……行ってみよう……」


階段を上がった。


よいしょ。


最後の力を振り絞って。


「よいしょ……」


屋上に出た。


ガチャ。


ドアを開けて。


「わあ……」


本当に、島で一番高い場所だった。


周りに遮るものがない。


「一番高い……」


360度、全てが見渡せた。


パノラマビュー。


「全部……」


風が強い。


めっちゃ強い。


髪が乱れる。


「風……」


でも、気持ちよかった。


爽快。


「気持ちいい……」


ここで、若者たちがデートしていたんだ。


手を繋いで。


「デートスポット……手を繋いで……」


どんな話をしてたんだろう。


将来の話?


結婚の話?


二人だけの秘密の話?


「どんな話……」


夕暮れ時、ここで夕日を見たのかな。


「夕日……きれいだっただろうな……」


二人で、肩を寄せ合って。


「肩を寄せ合って……」


私も、いつか、誰かと……。


「私も……」


ケンタくんと……?


「ケンタくん……?」


顔が、熱くなる。


「な、何考えてるの私!」


頭を振る。


ダメダメ。


でも、想像しちゃう。


「想像……しちゃう……」


ここで、二人で、夕日を見て。


手を繋いで。


「手……繋いで……」


どんな感じなんだろう。


恋人って。


デートって。


「恋人……デート……」


雑誌とかで見たことあるけど。


実際は、どうなんだろう。


ドキドキするのかな。


「ドキドキ……」


今もドキドキしてる。


想像だけで。


「想像だけで……ドキドキ……」


私は、いつも以上に丁寧に撮影した。


負けたくない。


ケンタくんに。


「丁寧に……一枚一枚……」


居室の壁紙の跡。


誰かが選んだ模様。


カシャ。


シャッター音が響く。


「この壁紙……誰かが選んだんだ……」


床に残る畳の跡。


四角い跡が残ってる。


カシャ。


「畳……日本家屋……」


窓枠の木の質感。


経年劣化した木目。


カシャ。


「木の感じ……ちゃんと……」


室内風呂の浴槽。


コンクリートの冷たさ。


カシャ。


「全部撮る……全部記録する……」


レーザーには、この生活の温もりは出せないはずだ。


数字じゃない何かが。


「温もり……」


これは、写真にしかできないこと。


「写真にしかできない……」


負けたくなかった。


技術で負けても、想いでは負けたくない。


「負けたくない……」


そんな気持ちが、私を突き動かしていた。


「突き動かす……」


一枚一枚、魂を込めた。


シャッターを切るたびに。


「魂……」


カシャ、カシャ、カシャ。


「絶対、負けない……」


撮影の途中、押し入れの奥に古い写真を見つけた。


埃まみれの。


「あれ?これ……」


埃をかぶった写真。


色あせてる。


セピア色に。


「写真……」


手に取った。


そっと。


大切に。


「見てみよう……」


見た。


目を凝らして。


そこには、家族の笑顔が写っていた。


お父さん、お母さん、子供たち。


「家族……」


父、母、子供たち。


みんな笑ってる。


幸せそうに。


「みんな笑ってる……幸せそう……」


この部屋で、家族が暮らしていたんだ。


笑って、泣いて、怒って。


「家族……」


きっと、この室内風呂に喜んで。


子供たちが「やったー!」って。


「喜んで……やった!って……」


この眺望を誇りに思って。


「見て!すごいでしょ!」って。


「誇りに……すごいでしょって……」


この島で、幸せに暮らしていたんだ。


確かに。


「幸せに……」


写真を見つめた。


じっと。


時間を忘れて。


「……」


この島の暮らしには、確かに人の温もりが存在したんだ。


数字じゃない、人の温もりが。


「温もり……あったんだ……」


撮影した。


この写真も。


カシャ、カシャ。


「これも記録する……」


全部記録する。


忘れちゃいけない。


「全部……残す……」


今日も、一人じゃなかった。


そして、ライバルができた。


競える相手が。


「ライバル……」


ケンタくん。


「ケンタくん……」


負けない。


「負けない……」


でも、心のどこかで。


「でも……」


デートスポットで、二人で夕日を見る想像をしてる自分がいた。


「想像……しちゃう……」


恋に恋する。


そういうことなのかな。


「恋に……恋する……」

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