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第55話 朝・紙飛行機に乗せた言葉

十九日目の朝。


体が重い。肩が凝ってる。首も痛い。腰も痛い。十九日間の疲労が、層になって積み重なってる。


でも、慣れてきてもいる。この疲れにも、この生活にも。


昨日、窓の向こうに人の気配を見つけてから、世界が全く違って見えた。


「昨日……人を見つけた……」


一人じゃない。


一人じゃないんだ。


その事実が、まるで太陽みたいに、私の心を温めてくれる。


「一人じゃない……」


その事実だけで、島の灰色がかった風景が、少しだけ色鮮やかに感じられる。


不思議。


心理的なものなのかもしれないけど、本当に色が違って見える。


「色鮮やか……」


グンちゃんが、私の枕元で丸くなって眠っていた。


もふもふ。


小さな寝息を立てて。


すーすー。


「グンちゃん……」


そっと撫でた。


ふわふわ。


柔らかい毛並み。


「おはよう」


グンちゃんが目を覚ました。


のびー。


大きく伸びをする。


「にゃあ」


「おはよう、グンちゃん。よく眠れた?」


LAUNDRYボックスを開けた。


ガチャ。


今日は何が入ってるんだろう。


今日の衣装は、デニムのスカートにカーディガン。


「おお、普通!めっちゃ普通!」


昨日までの非日常的な服とは違う、普通の高校生らしい格好。


セーラー服やゴスロリじゃない。


白いワンピースでもない。


「普通の服……」


少しだけ心が落ち着いた。


やっぱり普通がいい。


着慣れた感じがいい。


「落ち着く……」


着替えた。


さっと。


動きやすい。


これなら階段も怖くない。


鏡を見た。


「いい感じ。普通の女子高生」


普通の女子高生。


いつもの私。


ミカが見たら「やっとまともな服着てる!」って笑うだろうな。


朝食のタッチパネルを開いた。


ぽちぽち。


和食セットを注文した。


グンちゃん用のカリカリも。


「今日も和食セット!」


ウィーン。壁から出てきた。焼き魚の匂い。味噌汁の匂い。醤油の匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


出てきた和食セット。


焼き魚、味噌汁、ご飯。


日本の朝ごはん。


「今日の焼き魚、いつもより美味しい気がする!」


箸で一口。


ぱくっ。


ほろほろとした身。


「美味しい……」


「誰かと一緒に食べてると思うだけで、こんなに違うんだ」


不思議。


心理効果ってやつ?


同じ料理でも、一人で食べるより誰かと食べる方が美味しい。


「不思議……」


グンちゃんにも焼き魚をお裾分けした。


ほぐして、骨を取って。


「はい、グンちゃん」


グンちゃんは喜んで食べた。


もぐもぐ。


尻尾を振ってる。


「美味しい?」


「にゃあ」


「よかった」


食べながら、私の視線は窓の向こう、彼の部屋に釘付けだった。


自然と目が行く。


「あっち……」


カーテンが、少しだけ開いている。


昨日より少し広く。


「開いてる……」


「彼、起きてるのかな……」


心臓が、ドキドキする。


スケジュール確認した。


ぽちっ。


画面に今日の予定が表示される。


【Day19:3号棟】


「3号棟……」


島岩礁の最頂部に建つ、高級職員のためのアパートだ。


課長以上の人たちが住んでた場所。


「最頂部……一番高い場所……」


でも、私の頭の中は、それどころじゃなかった。


3号棟のことなんて、正直どうでもいい。


「それどころじゃない……」


彼のこと。


「彼のこと……」


「どうしよう……なんて話しかければいいんだろう」


考えた。


でも、方法がない。


通信手段がない。


ネットは使えない。


夜の30分だけ。


「ネット、ない……LINEもない……」


大声で叫んでも、風にかき消されてしまうだろう。


距離がありすぎる。


「叫んでも届かない……遠すぎる……」


「どうすれば……」


私は、部屋にあったメモ帳を一枚破った。


びりっ。


「メモ帳……これで……」


ペンを走らせた。


さらさら。


震える手で。


「えーっと……」


何て書こう。


どう書けば。


初めて話しかける人に、何て言えば。


しかも、男の子。


「何て書けば……」


考えた。


考えた。


ペンを握りしめて。


「……よし」


『あなたは誰ですか? 私は田中ユイ。同じミッションで、ここにいます』


「これでいい……かな……シンプルすぎる?でも……」


読み返した。


うん、これでいい。


余計なことは書かない方がいい。


「うん、いい。これでいい」


そのメモを、丁寧に紙飛行機に折った。


一折り、また一折り。


「紙飛行機……」


折り方、覚えてる。


懐かしい。


小学校の休み時間を思い出す。


「小学生の時、よく作った……」


一折り、また一折り。


「こうして……こう……」


完成した。


きれいな紙飛行機。


「できた!」


きれいな紙飛行機。


バランスが取れてる。


「飛ぶかな……ちゃんと届くかな……」


ボトル子に見せた。


「ねえボトル子、見て。紙飛行機作ったよ」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


「これで、彼にメッセージ届ける。届くといいな」


グンちゃんも見てる。


じっと。


「グンちゃんも応援してね」


「にゃあ」


「ありがとう」


ロケハンのために外に出た。


心臓がバクバクしてる。


「行こう……」


心臓がドキドキしていた。


バクバク。


まるでマラソンの後みたいに。


「ドキドキする……緊張する……」


3号棟は、島で一番高い場所にあり、彼の部屋からもよく見える。


見晴らしがいい場所。


「あそこから……見えるはず……」


私は、彼が見ていることを意識しながら、わざとらしく空を見上げた。


演技。


下手な演技。


「空……きれい……」


チラッと彼の部屋を見た。


ちらっ。


さりげなく。


「見てるかな……」


そして、えいっ、と紙飛行機を投げた。


全力で。


「えいっ!」


風に乗り、紙飛行機はふらふらと飛んでいった。


白い軌跡を描いて。


「飛んだ!」


でも、ふらふら。


まっすぐ飛ばない。


風に翻弄されてる。


「まっすぐ飛ばない……」


風が強い。


めっちゃ強い。


海風が容赦なく吹き付ける。


「風……」


でも、確かに、彼のいる建物の方向へと飛んでいった。


ふらふらしながらも、確実に。


「あっちに……飛んでった……」


お願い、届いて。


「届いて……」


手を合わせた。


ぱん。


神様にお願い。


「お願い……神様……」


今日も、一人じゃなかった。


でも、ドキドキは止まらなかった。


心臓が跳ねてる。


「ドキドキ……止まらない……」


彼からの返事、来るかな。


「来るかな……来るよね……?」


期待と不安。


両方が胸の中で渦巻いてる。


「期待……不安……」


両方。


どっちも。


ごちゃ混ぜ。

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