第53話 昼・窓の向こうの存在
部屋に戻って、一旦休憩。
「疲れた……」
グンちゃんが出迎えてくれた。
「にゃあ!」
「ただいま、グンちゃん。よしよし」
足にすり寄ってくる。
昼食のタッチパネルを開く。
サンドイッチ注文。
「サンドイッチ!たまにはパンもいいね!」
ウィーンとトレーが出てくる。パンの匂い。ハムの匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
出てきたサンドイッチ。
三角形に切られてる。
ハムとレタスのシンプルなサンドイッチ。
一口かじる。
「美味しい……パンがふわふわ……逆に新鮮!シンプルだけど美味しい……」
グンちゃんも欲しそうに見てる。
「グンちゃんも食べる?」
ハムを少しあげる。
グンちゃんは喜んで食べる。
「美味しい?」
「にゃあ」
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、さっき光が見えたんだ。対岸の建物で。何だったんだろう……気になる」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
あの光が、頭から離れない。
気になる。
食べ終わって、口を拭く。
「よし、午後も頑張ろう」
午後は、ドローンを使った上空からの撮影だ。
「ドローン飛ばそう」
そして、麦わら帽子のことを思い出す。
「麦わら帽子……落ちちゃったんだよね……残念……」
でも、拾いに行く時間はない。
午後も、また高台まで登る。
「また登るのか……2回目だよ……そして今度は帽子なし……」
重い足取りで階段を上る。
よいしょ、よいしょ。
裾を持ち上げて。
日差しが、直接頭に降り注ぐ。
「あつい……帽子がないと……こんなに暑いんだ……」
麦わら帽子の偉大さを、改めて実感する。
でも、午前中より少し楽になった気がする。
「あれ?慣れたかも。体力ついた?」
さっきより息切れしない。
「意外といけるじゃん、私」
高台に到着。
風が強い。
裾が、激しく揺れる。
ドローンを準備する。
コントローラーを握って、スイッチオン。
「よし、上がれー!」
ドローンが上昇する。
ウィーンという小さなモーター音。
どんどん高く上がっていく。
「すごい……高い……」
モニターを見る。
灯台が小さくなっていく。
もっと高く。
もっと。
「もっと上!」
灯台の高さを超えた。
さらに上へ。
「うわ……すごい景色……」
モニター越しに見える景色。
島全体が見渡せる。
港、学校、病院、アパート群。
「私が撮影してきた場所……全部見える……きれい……」
感動。
夢中でシャッターを切った。
いろんな角度から。
そして、撮影の途中、もう一度、あの対岸の建物に目を向けた。
「あの建物……」
南部プールのすぐ横にある、私と同じような、コンクリートの建物。
その、窓。
さっき、光った気がした、窓。
「あそこで光ったんだ……」
私は、ドローンのカメラをそちらに向けた。
ズームする。
窓が大きくなる。
そして、息を呑んだ。
「……は?」
窓の向こうに、人が、いた。
「人……!人間!?」
心臓が、バクバクする。
私と同じくらいの歳の、男の子。
彼も、こちらを見ていた。
手には、私が見たこともないような、ゴツい機械を持っている。
三脚に乗った、大きな機械。
「え……生きてる人間だ!」
驚きと。
恐怖と。
そして、それを上回る、とてつもない喜び。
私は、一人じゃなかった!
「一人じゃなかった!」
この島に、もう一人、いたんだ!
しかも、同じくらいの年の、男の子。
心臓がバクバクする。
手が震える。
顔が、熱い。
でも、嬉しい。
「嬉しい……!」
私は、思わず、大きく手を振った。
「おーい!」
両手を大きく振る。
白いワンピースの袖が、風に揺れる。
見えるかな。
遠いけど。
彼も、こちらを見ている。
一瞬、驚いたように目を見開いた。
でも、やがて、ぎこちなく、手を振り返してくれた。
「振ってくれた!振り返してくれた!嬉しい!」
涙が出そうになる。
嬉しくて泣きそう。
心臓が、ドキドキする。
なんだろう、この気持ち。
嬉しいのと、恥ずかしいのと、緊張と。
全部混ざってる。
私は、もっと大きく手を振った。
彼も振り返す。
「本当に人間だ!生きてる!」
しばらく、お互いに手を振り合った。
風が吹く。
スカートが揺れる。
夏の日差し。
青い空。
そして、遠くの窓の向こうの、男の子。
「人がいた……本当に……人がいた……」
胸がいっぱい。
嬉しくて、嬉しくて。
でも、なんだか恥ずかしい。
顔が熱い。
なんで?
今日も、一人じゃなかった。
本当に、一人じゃなかった。
もう一人、この島に、人がいたんだ。
「もう一人……いたんだ……!」
心臓が、まだドキドキしてる。
なんだろう、この気持ち。




