表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/91

第52話 朝・白いワンピースと予感

十八日目の朝。


体が重い。肩が凝ってる。首も痛い。腰も痛い。十八日間の疲労が、層になって積み重なってる。


でも、慣れてきてもいる。この疲れにも、この生活にも。


LAUNDRYボックスを開ける。今日の衣装は、純白の、シンプルなワンピースだった。


そして、その横には──


「麦わら帽子!?」


麦わら帽子が置いてあった。


リボンがついた、可愛い麦わら帽子。


「白……きれい……」


手に取ってみる。


真っ白。


まるで、何か新しい始まりを予感させるような、清らかな白。


生地は薄くて、軽い。


夏のワンピース。


「……なんだろう、このチョイス」


衣装担当さんの意図は分からないけど。


私は素直に袖を通した。


鏡を見る。


「おお……きれい……なんか新鮮」


いつもと違う雰囲気。


純白の布が、私の肌を明るく見せる。


そして、麦わら帽子を被ってみる。


鏡に映る自分。


白いワンピース。


麦わら帽子。


「……あ」


気づいた。


「これって男の子が大好きな夏の女の子の衣装じゃん!」


雑誌とかで見たことある。


夏の定番。


白いワンピースに麦わら帽子。


顔が、少し熱くなる。


「な、なんでこの組み合わせ……」


でも、可愛い。


すごく可愛い。


夏の日差し。


白い衣装。


なんだか、特別な日みたい。


グンちゃんが見てる。


「グンちゃん、どう?似合う?」


「にゃあ」


「ありがとう」


朝食は、奮発して和食セット。


グンちゃん用のカリカリも忘れずに。


「今日は和食セット!この格好に和食って……なんかおしとやかなお嬢様みたいじゃない?」


ウィーンとトレーが出てくる。焼き魚の匂い。味噌汁の匂い。醤油の匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


箸を持つ。一口食べる。美味しい。


ちょっとだけ、背筋が伸びる気がする。


グンちゃんにも焼き魚をお裾分け。


「はい、グンちゃん」


「美味しい?」


「にゃあ」


食べながら、今日のスケジュール確認。


【Day18:灯台】


「灯台か……」


資料を開く。


島の南端、岩礁の頂上部、一番高い崖の上に立つ、白亜の塔だ。


読み進める。


この灯台が建てられたのは、閉山の後らしい。


炭鉱が稼働していた頃は、島全体が24時間、煌々と光を放っていたから、灯台は必要なかった。


でも、人々が去り、島が暗闇に沈んだ後、船の安全のために、この灯台が建てられた。


「島の、新しい光……素敵な話だ……」


ボトル子に話しかける。


「ねえボトル子、今日は灯台に行くよ。島の新しい光だって。そして、私は白いワンピースを着てる。なんか、特別な日になりそう」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


食べ終わって、日焼け止めを塗る。


カメラとドローンを準備。


「グンちゃん、行ってくるね」


「にゃあ」


「いい子で待っててね」


ボトル子にも。


「行ってきます、ボトル子」


ロケハンのために、私は灯台へと向かった。


麦わら帽子を被る。


「よし、行こう」


外に出ると、夏の日差しが眩しい。


でも、麦わら帽子が守ってくれる。


「あ、いい……涼しい……」


日差しを遮ってくれる。


ありがとう、麦わら帽子。


純白の布に、光が反射する。


風が吹く。


裾が、ふわりと揺れる。


気持ちいい。


夏と白い衣装。


なんだか、映画のワンシーンみたい。


「私、今、どんな風に見えてるんだろう」


灰色の島。


青い海。


青い空。


その中を歩く、白い服の少女。


麦わら帽子を被った。


誰も見てないけど。


でも、なんだか特別な気分。


「あれ……遠い……」


灯台は、思っていたよりずっと高い場所にあった。


岩礁の頂上部。


島で一番高い場所。


「うわ……あんな高いとこにあるの……」


見上げる。


白い塔が、青い空を背景に、凛として立っている。


白い塔。


青い空。


青い海。


それは、どこか寂しそうで、でも、誇らしげに見えた。


「きれい……でも、登るの……?」


足元を見ると、高台へと続く階段が見える。


コンクリートの、古い階段。


手すりは錆びてる。


「うーん……登ろうかな……どうしよう……」


悩む。


この格好で、あの階段を登るのは大変そう。


汚れちゃうかも。


でも、せっかくここまで来たんだし。


「よし、登ろう!」


決めた。


カメラとドローンのケースを背負い直して、階段に足をかける。


「よいしょ……よいしょ……」


一段、また一段。


思ったより急な階段。


裾が邪魔。


「裾、踏みそう……」


片手で裾を持ち上げながら登る。


白い布が、風に揺れる。


夏の日差しが、肌に熱い。


息が切れてくる。


「はぁ、はぁ……きつい……」


でも止まらない。頑張る。


途中で振り返ると、島全体が見渡せた。


「わっ……すごい景色……」


風が吹いて、スカートが大きく揺れる。


ふわり。


まるで、空を飛べそう。


でも、まだ先がある。もうちょっと。


「あとちょっと……!」


やっと、灯台のある高台に到着。


「着いた……!はぁ、はぁ、はぁ……疲れた……」


でも、景色がすごい。


360度、見渡せる。


「すごい……!全部見える……!」


風が強い。


裾が、激しく揺れる。


髪も揺れる。


麦わら帽子も揺れる。


「わ、帽子が……」


片手で押さえる。


夏の風。


白い衣装。


灯台。


青い空。


青い海。


「きれい……」


私は、高台の上を歩きながら、いろんな角度から灯台を見る。


撮影の構図を考える。


白い塔と青い空。


コントラストが美しい。


カメラを構える。


その時だった。


ゴォォォォォ!


突風が吹いた。


「うわっ!」


麦わら帽子が、頭から飛ばされた。


「あ!帽子!」


ふわり。


麦わら帽子が、空を舞う。


「待って!」


追いかける。


でも、風が強すぎる。


麦わら帽子は、くるくる回りながら、高台の端へ。


「待ってよー!」


必死に追いかける。


でも、間に合わない。


麦わら帽子は、高台の端から、ふわりと落ちていった。


「あああああ……」


手を伸ばす。


でも、届かない。


麦わら帽子は、風に乗って、ゆっくりと下へ。


くるくる。


ふわふわ。


そして、下の方に落ちていった。


「……行っちゃった」


呆然と立ち尽くす。


「私の……麦わら帽子……」


しばらく、その場に立っていた。


風が吹く。


今度は頭に何もない。


日差しが、直接頭に降り注ぐ。


「あつっ!」


熱い。


すごく熱い。


「麦わら帽子……ありがとう……今まで守ってくれて……」


感謝の言葉を、空に向かって呟く。


でも、すぐに現実的な問題に気づく。


「……日焼けする……」


困った。


でも、撮影は続けなきゃ。


「しょうがない……頑張ろう……」


日差しと戦いながら、撮影を続けた。


そして、ふと、対岸の建物の窓に、何かがキラリと光るのを見た気がした。


「ん?」


立ち止まる。


「今……光った?」


もう一回見る。


何も見えない。


「気のせい……かな……」


でも、その光は、私の心に、小さなさざ波を立てた。


胸がざわざわする。


何か、今日、起こるかもしれない。


そんな、予感がした。


不思議な感覚。


でも、気になる。


もう一度、対岸の建物を見る。


やっぱり、何も見えない。


「まあ、いいか」


撮影を続けよう。


午前中は、高台の上から灯台の外観を撮影。


いろんな角度から撮る。


カシャ、カシャ、カシャ。


「白い塔……きれい……」


裾が、風に揺れる。


白い塔。


白い衣装。


夏の日差し。


なんだか、全部が眩しい。


でも、心の片隅で、あの光が気になってた。


「あの光……何だったんだろう……」


撮影を終えて、階段を降りる。


登りより降りる方が怖い。


「わわっ、滑りそう……」


ゆっくり、慎重に。


裾に気をつけて。


やっと下まで降りた。


「疲れた……」


少し汚れちゃった。


でも、まあいいか。


今日も、一人じゃなかった。


でも、何かが変わりそうな予感。


そんな予感がしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ