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第51話 夜・一人じゃない、ということと新しい軍手

夜。お腹がすいた。


「今日も疲れた……」


タッチパネルで夕食注文。


冷凍チャーハン。


ウィーンとトレーが出てくる。チャーハンの匂い。ご飯の匂い。卵の匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


レンジでチンするだけなのに、出てきたチャーハンはいい匂い。


レンジで温める。


チン。


「できた」


スプーンですくって、一口。


「美味しい!パラパラご飯が最高!卵もふわふわ……ネギもいい感じ……本格的な味じゃん!」


もぐもぐ食べる。


グンちゃんも見てる。


「グンちゃんも食べる?」


少しだけお皿に取る。


グンちゃんは食べてくれた。


「美味しい?」


「にゃあ」


ボトル子に話しかける。


「ねえボトル子、今日いろいろあったよ。31号棟、崩れてた。でも、古い資料見つけた。グンちゃんと景色も見た。先生たちのこと、考えた。充実してた……かな……」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


チャーハンを食べ終わって、PC作業開始。


部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。


今日の撮影データを処理する。


13号棟の、泥だらけの内部。


そして、高解像度で撮影した、古い資料の文字。


一つ一つを、丁寧に時間の化石タイム・フォッシルに落とし込んでいく。


Align Images、Create Model、Simplify。


いつもの工程。


処理が進む。


待ってる間、グンちゃんが、私の膝の上に乗ってきた。


「わっ、乗った!」


そして、丸くなった。


温かい。


ゴロゴロという、心地よい振動が伝わってくる。


「気持ちいいの?」


グンちゃんの頭を撫でる。


グンちゃんは、もっとゴロゴロ言う。


可愛い。


「……ありがとうね、グンちゃん」


君がいてくれて、よかった。


君がいなかったら、私は、31号棟の崩落に、もっと打ちのめされていたかもしれない。


一人じゃない。


その実感が、私を強くしてくれていた。


グンちゃんを見る。


目を閉じて、眠ってる。


可愛い寝顔。


ふと、昼間のことを思い出す。


31号棟の崩落現場。


瓦礫を眺めている時。


その中に、真新しい軍手が一組、落ちていた気がする。


「軍手……?」


確かに、あった。


新しい。


誰かが、最近、ここで作業でもしたんだろうか。


あのペットボトルといい。


この軍手といい。


この島には、私以外にも誰かが……?


背筋がゾクッとする。


でも、証拠がない。


見間違いかもしれない。


グンちゃんを撫でる。


「グンちゃん……」


「にゃあ」


小さく鳴く。


でも、すぐまた眠る。


不安だけど、今は考えないようにしよう。


グンちゃんがいる。


ボトル子もいる。


大丈夫。


処理が終わった。


ピコン。


「終わった」


画面を見る。


13号棟の3Dモデル。


古い資料の文字も、くっきりと再現されている。


マウスでズームする。


文字が大きくなる。


『……我々の歴史を、後世に伝えるものである』


最後のページに書かれていた言葉が、くっきりと見える。


胸に響く。


「うん。伝えるよ」


私は、膝の上の温かい重みを感じながら、静かに誓った。


26番さんの想いも。


この古い資料に込められた想いも。


全部、私が未来へ届けるんだ。


拳を握りしめる。


グンちゃんが、私の決意を感じたかのように、「にゃあ」と鳴いた。


「応援してくれてる?ありがとう、グンちゃん」


ボトル子にも報告。


「ねえボトル子、今日もいい仕事できたよ。古い資料、きれいに記録できた。これで、後世に残せる」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


【残り日数:13日】


画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。


あと13日。


嵐の夜を越えて。


31号棟の崩落も見た。


でも、私は立ち上がった。


私の覚悟は、また一つ、固まった。


グンちゃんを見る。


まだ膝の上で眠ってる。


でも、その温かさが、私を支えてくれる。


おやすみ、26番さん。


「おやすみ、ボトル子」


「おやすみ、グンちゃん」


三人に、おやすみを言う。


グンちゃんは、私の腕の中で、小さく「にゃあ」と鳴いた。


嬉しい。


今夜も、一人じゃなかった。


温かい。


本当に、温かい夜。


静寂が、部屋を包む。

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