第42話 夜・ボトル子と進捗報告と明日への予感
夜。お腹がすいた。今日いっぱい動いた。動いてないか頭だけ。タッチパネルでカレーライス注文。カレー!
ウィーンとトレーが出てくる。カレーの匂い。スパイスの匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
出てきたカレーライスめっちゃ美味しそう。休息日の締めはカレー!
スプーンですくって一口。美味しい!辛い!ルーが濃厚。明日からまた頑張るぞっていう気持ちになる!お肉も大きい。お肉ゴロゴロ入ってる!
もぐもぐ食べながらも私は専門書から目が離せなかった。読みたい。本を開きながらカレーを食べる。ながら食べ。ページをめくる。これも面白い。知らないテクニック、新しい発想。へぇ、そうやるんだ。私のやりたいことがこの本の中に全部書いてある。すごい、すごいよ。
カレーを食べ終わって口を拭く。ごちそうさまでした。
ボトル子に興奮気味に話しかけた。
「すごい、すごいよボトル子!」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「この本すごいんだ!もっとリアルなモデルが作れるかもしれない!もっとすごいのが!」
一人で興奮。本を見せる。
「ほらここ見て!このテクニック使えそう!」
ボトル子はにっこりと笑っている。そうだよねすごいよね。
でもふと思った。今まで私どれくらい進んだんだろう。
私はこれまで自分が作ってきた時間の化石をもう一度見返してみることにした。全部見てみよう。フォルダを開く。港、学校、アパート、発電所、給水塔、防波堤。いっぱい作ったな。一つ一つはそれなりに上手くできている。頑張った。でも島全体で見るとどうなんだろう。全体で見たら。バラバラなのかな。
私はこれまでのデータを一つのプロジェクトにまとめて統合処理をかけてみることにした。全部まとめてみよう。Reality Captureを起動。新しいプロジェクト。全てのモデルをインポート。港、学校、病院、市場。全部入れる。
ファイルが次々と読み込まれる。すごい量。全部読み込み終わった。よし統合処理。実行ボタンをクリック。処理開始。
部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。
PCがこれまでで一番大きな唸りを上げる。
「うるさっ!」
ブォォォォン!
「壊れる!?壊れないよね!?」
心配になる。頑張ってPC!ファンの音がすごい。すごい頑張ってる。プログレスバーを見る。まだ5%。遅い。これ何時間かかるんだろう。
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、時間かかりそう……」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「待つしかないよね」
椅子に座って待つ。10%。まだまだ。暇だ。椅子でぐるぐる回る。うー。目が回る。やめよ。20%。あと80%。ベッドに横になる。ちょっとだけ休憩。天井を見る。うとうとしそう。寝ちゃダメ、処理見なきゃ。起き上がる。30%。まだ。
数時間後。ようやく処理が終わった。
「終わった!」
ピコン。やった!画面を見る。どんな感じかな。マウスをクリック。
画面に現れたのは軍艦島のまだ不完全なミニチュアモデルだった。
「おお……」
島の形。
島だ、島の形になってる。
でも歯抜けだらけでまだスカスカだ。穴だらけ。あちこちに空白がある。まだまだだな。
でも確かに島の形になっている。でも島だ。軍艦島だ。
マウスでぐるぐる回す。港がある。学校もある。病院も。
感動。
私ここまで作ったんだ。
進捗を計算してみる。えーっと。全70棟の建物のうちまだ15棟くらいしか終わっていない。15棟。進捗20%ってところかな。
まだ20%。先はまだまだ長い。あと80%。でも絶望はなかった。無理じゃない。きっと無理じゃない。
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、見て」
画面を見せる。
「島のミニチュアモデルできたよ。まだ20%だけど。あと80%。うん、無理じゃないきっと無理じゃない」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「そうだよね、頑張れるよね」
私はボトル子と、そして自分自身に力強く言い聞かせた。この本棚の知識があれば。専門書を見る。残りの80%はもっとすごいものになるはずだから。もっといいものが作れる。拳を握りしめる。頑張る。
26番さんにも報告。
「26番さん、見てる?20%まで来たよ。あと80%、頑張るね」
そして、ふと思い出す。昨日の足跡。ペットボトル。
「誰か……いる……」
この島に私以外の誰かがいる。その人は誰なんだろう。明日、もっと探してみよう。いや、探さなくても、きっと。
「きっと、また会える……気がする……」
なぜかそう思った。
【残り日数:16日】
画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。
あと16日。
休息は次へのジャンプのための準備期間だ。明日からまた頑張る。もっといいものを作る。そして、もしかしたら。
「もしかしたら……その人に……会えるかも……」
おやすみ26番さん。おやすみボトル子。
今夜も一人じゃなかった。そして明日からは、本当に一人じゃないかもしれない。
静寂が、部屋を包む。




