第38話 昼・波のエフェクト
部屋に戻ってまずシャワー。5分走っただけなのに汗びっしょり。運動ってこんなに汗かくんだ。髪を洗おうとしてシャンプーのボトル取る。今日は落とさなかった。
「よし、成長!」
でも髪を洗ってたらやっぱりシャンプーが目に入る。
「痛っ!毎日恒例!」
もう驚かない。水で流す。ルーティン。
シャワーから出てタオルで髪を拭く。さっぱり。昼食のタッチパネルを開く。カップ麺。シーフード味注文。運動の後は塩分が欲しくなるよね!
お湯を注いで3分待つ。湯気が立ち上る。シーフードの匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
カップ麺のフレーバー全制覇しそう。待ってる間ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、5分で限界だった……」
ボトル子は笑ってる。いつも黙ってる。でも、聞いてくれる。
「笑わないでよ。本当にきつかったんだから」
ピピピ。できた。蓋を開けてずるずるすする。美味しい。塩分が体に染み渡る。シーフードの匂い。イカとエビの味。これでシーフード、カレー、塩、3種類目だ。
もぐもぐ食べながら考える。体力のなさを痛感した。東京でいかに運動不足だったか思い知らされる。学校まで自転車。体育はサボり気味。休日は家でゴロゴロ。そりゃ体力ないよね。
最後の一口まで食べてスープも飲む。ごちそうさまでした。
そしてあのペットボトルのことが頭から離れない。誰のだろう。新しい。中身も半分残ってる。最近誰かがここにいた?スタッフ?それとも。怖い。
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、他に誰かいるのかな……」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「分からないよね……」
でも考えてても仕方ない。午後は防波堤の撮影だ。気持ちを切り替える。カメラを持って再び防波堤へ。
「よし、行こう」
午後の防波堤。
どこまでも続く灰色のコンクリートの壁。長い。正直撮りどころが難しい。単調な風景がずっと続いているだけだ。どこを撮ればいいんだろう。
壁を撮る。カシャ。単調すぎる。角度を変えて撮る。カシャ。やっぱり単調。どうすればこの壁の力強さが伝わるんだろう。
私はカメラを構えたましばらく海を眺めていた。
青い海。
白い波。
風が強い。
ザッパーン。
大きな波が防波堤にぶつかり白い飛沫を上げた。
「!」
その瞬間。
「……これだ」
波。波が防波堤にぶつかる瞬間。これを撮ろう。
私は波が防波堤にぶつかる瞬間をひたすら撮り続けることにした。カメラの設定を変える。高速シャッター。シャッタースピードを上げる。これで一瞬を切り取れる。
波を待つ。ザッパーン!カシャ!撮れた!モニターを確認。白い飛沫が完璧に止まってる。
「すごい……!」
時間が、止まってる。
動くはずの波が、静止してる。
また波が来る。ザッパーン!カシャ!もう一枚!
砕け散る波の形は一つとして同じものはない。全部違う。それはまるで生き物のようだった。波って生きてる。
防波堤はただの壁じゃない。常にこの獰猛な波と戦い続けている。戦士なんだ。戦ってるんだずっと。そう思うと単調に見えたコンクリートの壁が急に表情豊かに見えてきた。
「頑張ってるんだね……」
壁を撫でる。ざらざらした感触。
「ありがとう……」
その時、手に何か違う感触。
「あれ?」
よく見ると、コンクリートの下から古い石組が見えてる部分があった。
「これが……天川工法の石組……!」
近づく。触る。冷たい石。
表面がザラザラしてる。石と石の間に、固まった接合剤らしきものが見える。これが天川?
「これが明治時代の……」
カメラを向ける。カシャ。石組を撮る。カシャ、カシャ。
コンクリートで補強されてるけど、その下には明治時代の石組がちゃんと残ってる。100年以上前の技術が今もここにある。
「すごい……残ってる……」
石を一つ一つ撮影する。カシャ、カシャ。
この石たちが、何度も何度も台風と戦ってきたんだ。壊されても、また組み直されて。
「ずっと戦ってきたんだね……」
胸が熱くなる。
夢中で撮影を続ける。波、波、波。石組、石組。カシャ、カシャ、カシャ。いろんな形の波。高い波、低い波、斜めから来る波。全部違う。面白い。
気づいたら2時間も経ってた。もうこんな時間。撮影枚数を確認。3200枚。すごい量。でも充実感がある。いい写真撮れた。
波の写真を一枚一枚見返す。どれも違う。全部いい。この波の写真を3Dモデルに加えたい。でもどうやって。波は動いてる。フォトグラメトリは静止してるものしか3Dにできない。後で考えよう。
部屋への帰り道、階段を上りながら考える。防波堤すごかった。波と戦ってる。守ってくれてたんだ島を。感動が残ってる。
部屋に戻ってボトル子に報告。
「ただいま、ボトル子!波の写真いっぱい撮れたよ!」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「見せてあげるね」
カメラのモニターをボトル子に見せる。
「ほら、この波すごいでしょ?この波も。どれも違うんだよ」
ボトル子は笑ってる。いつも黙ってる。でも、そこにいてくれる。
「そうだよね、すごいよね」
今日も一人じゃなかった。




