表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/91

第35話 昼・空からの視点と防空壕の発見

シャワーを浴びて、着替えて、さっぱり。


「あー気持ちいい!水ありがとう!」


水に感謝する日が来るとは思わなかった。


部屋に戻り、昼食の天津飯を食べる。


「やった!天津飯!」


タッチパネルから出てきた天津飯、めっちゃ美味しそう。ふわふわの卵に、あんかけがとろーり。


湯気が立ち上る。卵の匂い。甘酸っぱい匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


「ふわとろの卵!最高じゃん!」


箸で卵をすくう。とろとろ。一口。


「美味しい!ふわふわの卵と、甘酸っぱいあんが絶妙!」


ご飯と一緒に食べる。口の中で卵とあんとご飯が混ざり合う。


「最高!幸せ!」


食べながら考える。


「中華の才能、あるんじゃない?この監禁部屋のシェフ。誰が作ってるのか分からないけど、美味しい。ありがとう、シェフ」


毎回美味しいご飯が出てくる。それも、当たり前じゃないんだよな。


食べ終わって、口を拭く。


「よし、午後はドローン撮影だ!」


ボトル子に話しかける。


「ねえボトル子、これからドローン飛ばすよ。見守っててね」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


カメラとドローンを持って、再び貯水タンクへ。


「また階段……」


チャイナドレスのスリットを気にしながら、慎重に下りる。もう慣れた。


「パカパカする……でも、もう気にしない!」


開き直った。誰も見てないし。監視カメラは見てるけど。


貯水タンクの前に立ち、ドローンを起動する。


「よし、飛ばすよ!相棒!」


まずは、自動撮影モードで、建物の周りをぐるりと撮影させる。


「自動撮影モード、起動!」


画面をタップ。ドローンは、完璧な軌道を描きながら、滑らかに上昇していく。


「行った……すごい……毎回思うけど、すごい」


手元のモニターに、空からの映像が送られてくる。高度が上がるにつれて、視界が広がる。


「島が……全部見える!」


これまで私が見てきたのは、地上からの、虫の視点だった。でも、空からの鳥の視点は、全く違う景色を見せてくれる。


青い空。


青い海。


灰色の島。


そして、島の中に立つ、赤い点。


私だ。


アパート群が、まるでミニチュアの模型みたいだ。


「可愛い!ミニチュアみたい!ジオラマみたい!」


その間を縫うように、自分が歩いてきた道が見える。あの階段も、地獄段も、全部。


「あ、あれ私が歩いた道!毎日歩いてる道!」


感動!鳥肌立った!


自動撮影だけでは、建物の上部や、複雑な配管の部分が撮りきれない。


「これじゃ足りない……もっと細かく撮らないと」


私は、意を決して、手動モードに切り替えた。


「手動モード……」


2日目のこと思い出す。ドローンを暴走させて、海に落としそうになった。あの時の恐怖。


「あの時は怖かった……泣きそうになった。というか泣いた。でも、今は違う。大丈夫。今の私なら、できる!」


深呼吸。空気を吸い込む。吐く。


「よし、行くぞ!」


ゆっくりと、慎重に、スティックを操作する。2日目の時のようなパニックはない。ドローンは、私の指の動きに、素直に反応してくれた。


「おお、動いた!言うこと聞いてくれる!」


建物の上部に、そっと近づける。


「もうちょっと……もうちょっと……慎重に……」


モニターを見ながら、慎重に。屋上の構造物、錆びた手すり、配管の接続部分。


「見える!すごい!こんな細かいところまで!」


肉眼では見えなかったディテールが、はっきりとモニターに映し出される。


配管の部分も撮影。複雑に絡み合った配管。水を島中に届けるための血管。


「こっちも……一つ一つ、ちゃんと撮れてる!パイプ、錆びてるけど、まだ形残ってる」


30分ほどかけて、建物全体を撮影。上から、横から、斜めから。


「よし、完璧!今日もバッチリ!」


ドローンを降ろす。着陸成功。スムーズ。


「やった!」


拳を握りしめる。


「やった!私、やった!成長してる!」


私は、空と友達になれた気がした。最初は怖かった空が、今は味方だ。


空から見た世界。


美しい。


「ドローン、ありがとう!相棒!」


撮影を終え、ふと貯水タンクの麓にある、口を開けた暗い穴に気づいた。


「あれ……穴?なにあれ?」


近づいて見る。コンクリートで固められた入口。


「これ……防空壕?資料に書いてあったかも」


暗い。中が見えない。怖い。でも、気になる。すごく気になる。


懐中電灯を取り出す。いつも持ち歩いてるやつ。


「入ってみよう……怖いけど」


恐る恐る、中に入る。チャイナドレスの薄い生地を通して、ひんやりとした湿った空気が肌に伝わる。


「寒っ!急に温度下がった!」


暗い。懐中電灯の光だけが頼り。壁に光を当てる。


「怖い……」


奥へ進む。足元が滑りそう。水たまりがある。


「気をつけないと……滑る」


壁を手で触りながら、慎重に。ひんやり。湿ってる。冷たい。


その奥で、私は、古びた三脚を見つけた。


「え?三脚?」


近づいて見る。錆びた金属製の三脚。カメラ用だ。


「これ……カメラの三脚……誰のだろう?まさか……」


そして、その横の壁には、チョークで書かれたような文字が。


『光ガ足リナイ』


「!」


心臓が止まりそうになる。鼓動が急に速くなる。


「これ……No.26さんの、メッセージだ!26番さん……」


彼は、ここでも、光と戦っていたんだ。暗い防空壕。光が入らない。


「光が足りない……暗い防空壕。光が入らない。撮影、大変だったんだ……」


胸がキュッとなる。壁に手を触れる。冷たい。


暗闇の中、懐中電灯の光だけが、文字を照らす。


『光ガ足リナイ』


その文字が、泣いているように見える。


「ここで、苦労したんだね……一人で……」


涙が出そうになる。目頭が熱い。


「私、頑張るね。あなたの分まで。26番さんの分まで」


三脚を見つめる。


「持って帰ろうかな……」


でも、やめる。手を止める。


「ここに置いておこう。26番さんの痕跡。大切にしないと。ここに残しておかないと」


これは、彼がここにいた証。消しちゃいけない。


防空壕を出る。外の明るさが眩しい。目が痛い。


「明るい!太陽の光がありがたい!」


青い空。


眩しい光。


空に向かって報告。青い空に向かって。


「26番さん、見てた?私、ドローン操縦できるようになったよ!成長したよ!手動でも飛ばせるようになった!」


部屋への帰り道、階段を上りながら考える。


「26番さんも、ここで頑張ってたんだ。一人で。私も頑張らなきゃ。負けてられない」


部屋に戻って、ボトル子に報告。


「ただいま、ボトル子!26番さんのメッセージ見つけた……『光ガ足リナイ』って書いてあった。苦労してたんだね……でも、諦めなかったんだよね」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


今日も、一人じゃなかった。26番さんも、一緒にいる。ずっと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ