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第32話 昼・RAW現像の覚醒

午前中のロケハンと撮影を終え、部屋に戻った。


ゴスロリドレスは、廃墟の埃をたっぷり吸って重くなっていた。さっきより明らかに重い。


「重い……なにこれ、2倍になった?埃吸いすぎでしょ……」


脱ぎたい。めっちゃ脱ぎたい。でもまだお昼。午後の撮影もある。


「午後も着なきゃいけないのか……やだ……」


ボトル子に愚痴った。


「ねえボトル子、このドレス重すぎ。マジ無理」


ボトル子は笑ってる。いつも黙ってる。でも、聞いてくれる。


「笑わないでよ……疲れるんだって……」


タッチパネルでハンバーガーを注文した。ぽちっ。


「ハンバーガー!久しぶり!」


ウィーン。壁から出てきた。湯気が立ち上る。肉の匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


出てきたハンバーガーは、めっちゃ美味しそうだった。具がぎっしり詰まってる。パティがはみ出てる。


「こんな島でハンバーガーが食べられるなんて!文明ってすごい!」


両手で持ち上げた。ずっしり。


「重い!具がぎっしり!ボリュームやば!」


一口かじった。がぶり。


「美味しい!肉厚のパティ!」


噛むと肉汁が出てくる。じゅわっと。口の中に広がる。


「じゅわっ!肉汁すごい!」


チーズがとろける。


「とろけるチーズが最高!」


レタスもトマトも新鮮。シャキシャキ。


「ちょっとだけ東京が恋しくなる味だ……」


ミカと一緒にハンバーガー食べに行ったことを思い出した。駅前のバーガーショップ。いつも混んでる店。


「ミカ、いつも『チーズ多めで!』って頼んでたな……」


「私は『ピクルス抜きで』って……」


笑いながら食べた。美味しかった。楽しかった。


「また一緒に食べたいな……」


一人でハンバーガー。美味しいけど、ちょっと寂しい。誰かと一緒に食べる方が、絶対に美味しい。


食べながら、カメラのモニターで撮った写真を確認した。ぽちぽち。


「えーっと、午前中の写真……」


スクロールしながら見る。ぽちぽち。


51号棟の内部は、光と影のコントラストがすごく激しい場所だった。明暗差が激しすぎる。


「あー、これ……うーん……」


窓から差し込む強い光と、廊下の奥の深い影。普通に撮ると、明るい部分が白く飛んでしまったり、暗い部分が黒く潰れてしまったりする。カメラの限界。


「うーん、なんか違う……白飛びしてる……」


もっと、この光と影のドラマチックな感じを、そのまま写し取りたい。目で見た通りに。


「どうすれば……もっと綺麗に撮れるはず……」


ハンバーガーを食べながら、カメラのマニュアルを開いた。もぐもぐしながらページをめくる。


「設定……設定……どこかに……」


ページをめくる。ぱらぱら。文字がいっぱい。難しい。


「保存形式……JPEG……RAW……」


「RAW……?なにそれ?」


見慣れない単語。これまで見たことない。


これまで、写真は「JPEG」という形式で保存していた。スマホの写真と同じ、一般的な形式だ。それしか知らなかった。


でも、マニュアルには、もう一つの選択肢が書かれていた。


「RAW……生、って意味?生データ?」


読み進めた。難しい言葉が並んでる。


『RAWは、センサーが受け取った光の情報を、加工せずにそのまま記録する形式です』


「加工しない……?素のまま……?」


『データは重くなりますが、後からPCで、明るさや色を自由に調整できます。これを「RAW現像」と言います』


「後から調整できる……!」


これだ……!これが欲しかった!探してたのはこれ!


「これなら、白く飛んでる部分も、黒く潰れてる部分も、後から直せるかも!」


ハンバーガーの最後の一口を食べて、決意した。もぐもぐ。ごくん。


「午後の撮影は、すべてRAWで撮る!」


でも、気になることがあった。マニュアルに書いてあった。


「データが重くなる……」


SDカードの残量を確認した。ぽちぽち。


「えーと、残り……まだ大丈夫そう」


「でも、撮影枚数は減るだろうな……いつもより少ない枚数で完璧に撮らないと……」


プレッシャー。でも、やるしかない。


「プレッシャー……でも、やる!」


やるしかない。挑戦してみる価値はある。


「よし、行こう!」


午後の撮影は、すべてRAWで撮ることに決めた。


カメラの設定画面を開いた。ぽちぽち。


「えーっと、保存形式……JPEG……RAW……」


RAWを選択した。ぽち。画面に「RAW」の文字が表示される。


「よし、設定完了!」


ゴスロリドレスの重いスカートを持ち上げながら、再び51号棟へ向かった。また階段。


「また階段……このスカートで……マジ無理……」


慎重に下りた。一段ずつ。転ばないように。


51号棟に到着。


「よし、撮影開始!」


カメラを構えた。ファインダーを覗く。世界が四角く切り取られる。


一枚一枚のデータが重いから、SDカードの残量を気にしながらの撮影になる。慎重にならざるを得ない。


「残量……大丈夫……まだ余裕ある……」


でも、ファインダーを覗く私の目は、午前中とは明らかに違っていた。集中力が違う。


瞳に、光が宿る。


「ただ写すんじゃない……光を狩るんだ……」


光の情報を、狩るように、記録していく。一枚一枚が勝負。


窓から差し込む光の筋。


「この光……綺麗……」


カシャ。シャッター音が響く。


静寂の中、その音だけが響く。


廊下が落とす影。


「この影も……深い……」


カシャ。


外壁の質感。


「波の侵食の跡……ざらざらしてる……」


カシャ。


商店の看板。


「ナショナルの看板……文字もちゃんと……」


カシャ。


一枚一枚、丁寧に。慎重に。妥協しない。


「重複率80%……でも今日は少ない枚数で……一枚一枚が勝負……」


構図を慎重に選んだ。何度も確認する。


「この角度が一番いい……いや、こっち……」


カシャ。


夢中になって撮影していた。気づいたら2時間も経っていた。時間を忘れてた。


「もうこんな時間……」


撮影枚数を確認した。ぽちぽち。


「1800枚……いつもより少ない……でも……」


でも、質はいい。自信がある。一枚一枚、魂を込めた。


「これで十分……いや、これが正解……」


満足感があった。量より質。今日はそれを学んだ。


夕方の光が、51号棟を照らし始めた。


オレンジ色の光。


建物が、黄金色に染まる。


そして、黒いドレスの私も。


美しい。


部屋への帰り道、階段を上りながら考えた。はあはあ。息が切れる。


「RAWで撮影……新しい挑戦だった……」


「でも、いい感じ……多分うまくいく……」


「PCで現像するのが楽しみ……」


部屋に戻って、ボトル子に報告した。


「ただいま、ボトル子!RAWで撮影したよ!」


ボトル子は笑ってる。いつも黙ってる。でも、そこにいてくれる。


「データ重いんだけど、きっといい写真になる……はず!」


今日も、一人じゃなかった。26番さんも、きっと見守ってくれてる。

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