表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/91

第29話 昼・Wikipediaという泉

昼食のカレーを食べながら、私は早速、検索窓に「軍艦島」と打ち込んだ。


「ネット解禁祝い!」


カレーをスプーンですくって、一口。


「今日はいつもよりスパイシーに感じる!」


多分、興奮してるから。


エンターキーを押す。検索結果がズラーッと出てくる。


「すごい!こんなにたくさん!」


Wikipedia、観光サイト、個人のブログ……。これまで、与えられた資料だけでこの島を理解しようとしてきた。でも、ネットには、もっとたくさんの情報があるんだ。


まずはWikipediaを開く。


「軍艦島……正式名称:端島……知ってる知ってる……」


スクロールしながら読む。


「歴史……明治時代から……人口密度、世界一!?」


カレーを食べるのも忘れて、画面に見入る。


「最盛期の人口密度は東京の9倍……すごすぎ……へぇ……閉山後、一時期は釣り人の聖地だったんだ。知らなかった……映画のロケ地にもなったことがあるの!?007?スカイフォール?見たことある!進撃の巨人!?アニメで見た!」


知らなかった情報が、次から次へと出てくる。まるで、乾いたスポンジが水を吸うように、私の頭の中に知識が流れ込んでくる。


「すごい……こんなに有名だったんだ……」


カレーを一口食べて、また画面に戻る。観光サイトも開く。


「現在は上陸ツアーがある……でも立ち入り禁止区域が多い……」


写真を見る。観光客がたくさん。


「私、今、その立ち入り禁止区域にいるんだ……貴重な体験してるのかも……」


不思議な感覚。


次は個人のブログを探す。


「軍艦島 ブログ……」


検索結果をクリック。


「軍艦島探訪記……」


写真付きのブログ。でも、観光エリアだけ。私が見てる場所とは違う。


次のブログ。


「元島民の思い出……!」


これだ。クリックする。


そこには、資料には載っていない、個人的な思い出や、日々の暮らしの細やかな描写が綴られていた。


「この神社で、七五三やったんだ……!」


今朝、私が行った神社。そっか、七五三もここで。


続きを読む。


「この狛犬の口の中に、よくセミの抜け殻を隠してたな……」


「セミの抜け殻!子供っぽい!可愛い!」


文章を読んでいるだけで、その人の人生の一部を、追体験しているような気分になる。


カレーを食べながら、どんどん読み進める。


「夏は暑くて、クーラーなんてなくて……海に飛び込んで遊んでた……冬は風が強くて、洗濯物が飛ばされた……給水制限があって、水を大切に使ってた……」


一つ一つのエピソードが、リアル。ここで、本当に生きてたんだ。


別のブログも開く。


「学校の思い出……運動会は全校生徒で……狭いグラウンドを工夫して使ってた……給食のカレーが美味しかった……」


給食のカレー。私が今食べてるカレー。


「同じカレーかな……」


そんなわけないけど、なんか繋がってる気がする。


夢中で読み漁る。気づいたら、カレーが冷めてた。


「あ、冷めてる……でも美味しい。冷めても美味しいカレー」


読み続ける。


「病院の先生が優しかった……怪我した時、先生が手を握ってくれた……市場のおじさんが、いつもおまけしてくれた……魚屋のおじさんは、威勢がよくて……」


私が想像してた通りだ。やっぱり、威勢がよかったんだ。嬉しくなる。


ネットは、知識の泉だ。そして、人の記憶の集合体でもあるんだ。


「インターネットって、すごい……」


1時間があっという間に過ぎる。


「もう1時間!?早すぎ!あー!もっと読みたかった!」


もっと読みたい。でも、接続時間終了。でも、十分。たくさんの情報を得られた。


「よし、午後の撮影頑張ろう!」


私は、午後の撮影に、新しい視点を持って臨むことができた。


カメラを持って、再び神社へ。


「地獄段……また登るのか……」


足が既に痛い。でも、行く。


今度は、元島民のブログで読んだことを思い出しながら登る。


「ここで、子供たちが遊んでたんだ……七五三で、着物着て登ったんだ……デートで、カップルが手を繋いで登ったんだ……」


階段一段一段に、物語がある。


「はぁ、はぁ、でも頑張る……」


頂上に着く。狛犬を見る。


「セミの抜け殻、隠してたんだよね……」


口の中を覗いてみる。今は何もないけど。でも、想像できる。子供が、セミの抜け殻を大事そうに持って、狛犬の口に隠す。宝物だったんだろうな。


撮影開始。でも、今日の撮影は昨日までと違う。ただ形を撮るだけじゃない。


ここで生きた人たちの物語を思いながら、シャッターを切る。


「七五三の子供たちが、ここに立ったんだ……カップルが、ここで夕日を見たんだ……家族が、ここでお参りしたんだ……」


一枚一枚に、想いを込める。これが、愛情表現なんだ。


風が吹く。気持ちいい。神様も、きっと見守ってくれてる。


「ありがとう、教えてくれて」


元島民の人たちに感謝。あなたたちの言葉が、私を導いてくれた。


撮影を終えて、部屋に戻る。


ボトル子に報告。


「ただいま、ボトル子!すごかったよ!ネットで、元島民の人たちのブログ読んだんだ!みんなの思い出が、いっぱい詰まってた。それを読んで、撮影したら、なんか違った。写真に、気持ちが入った気がする」


ボトル子は黙ってる。でも、聞いてくれてる。いつも聞いてくれてる。


今日は、特別な一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ