第3話 SDカード、逆さまの関係(改訂版)
## Day 1 - 夜
夕食後、もう一度マニュアルと向き合う。
「フォトグラメトリの基本...」
さっきよりは、少し理解できる気がする。
「要は、いろんな角度から撮って、コンピューターが立体にするのか」
簡単に言えば。
ふと、引き出しを開けてみる。
「あ」
SDカードが大量に。
『512GB』って書いてある。
「これ、予備?」
数えてみる。20枚。
「こんなにいる?」
カメラ確認。今入ってるSDカード、まだ全然余裕ある。
「ま、いっか」
カメラの設定、もう少しいじってみる。
「画質設定...JPEG?RAW?」
マニュアル確認。
『RAW推奨:後から調整可能』
「らう...?生?」
よくわからないけど、RAWに設定。
「あれ?」
SDカード取り出そうとして──
「出ない」
なんか引っかかってる。
「えい!」
力入れたら、ポンッて飛び出した。
「あぶな!」
拾い上げて、新しいSDカード入れようとする。
「入らない...」
ガチャガチャ。
「なんで!?」
1分格闘。
「あ」
向き逆だった。
「はずかし...」
誰も見てないけど、顔が熱い。
ちゃんと入れ直して、試し撮り。
部屋の中を適当に。
パシャ、パシャ、パシャ。
「お、サクサク撮れる」
液晶で確認。
「RAWって、ファイルでかっ」
1枚50MBもある。
「512GBでも...1万枚くらい?」
十分か。
PCに取り込んでみる。
「おそ」
RAWファイル、転送に時間かかる。
待ってる間に、部屋を改めて観察。
天井の黒い点、やっぱり気になる。
立ち上がって、手を振ってみる。
「見てる?」
反応なし。
「見てるなら、返事してよ」
シーン。
「...きも」
PCから音。転送完了。
Reality Capture、もう一回挑戦。
部屋の写真30枚で試してみる。
処理開始。
今度は5分かかるらしい。
「やば、汗だく」
今日一日でかなり汗かいた。
「シャワー浴びよ...」
ユニットバスに入る。
「えっと...」
シャワーカーテンない。
「床びしょびしょになるじゃん」
でも、他に方法ない。
服脱いで、ふと気づく。
「着替え...ない」
制服しかない。
「まさか、このまま寝るの?」
とりあえずシャワー。
「お湯出る!」
しかも温度調整できる。
「あ、シャンプー良い匂い」
確認すると、某高級ブランド。
「なんで風呂だけ豪華なの」
体洗って、ふと不安になる。
「これ...カメラないよね?」
天井確認。黒い点はない。
「...たぶん大丈夫」
シャワー終わって、タオル巻いて部屋に戻ると──
「え?」
部屋の隅に、見慣れないボックスがある。
『LAUNDRY』
「洗濯...ボックス?」
その上の棚に、紙袋が置いてある。
紙袋の中には──
「パジャマ!?」
薄いピンクの、普通のパジャマ。
しかもサイズぴったりっぽい。
「いつの間に...」
それより、もっと気になるものが。
紙袋に入っていた、小さなカード。
『衣装交換システムのご案内』
読んでみる。
『毎晩、洗濯ボックスに着用済みの衣類を入れてください。
翌朝、新しい衣装を提供いたします。
※下着も含めて全て新品です
※サイズは自動調整されています』
「自動調整って...」
気味悪いけど、システムとしては合理的。
「つまり、毎日新しい服がもらえるってこと?」
制服を洗濯ボックスに入れてみる。
ゴトン。
中に落ちる音。開けようとしても、開かない。
「一方通行なのね」
新品のタグ付きパジャマを着る。
「肌触り良い...」
下着も新品。
「毎日新品って...お金かかりすぎじゃない?」
でも、ありがたい。
ドライヤーはやっぱりない。
「髪、タオルドライで我慢」
ピーン。
処理完了。
「お」
画面見る。
「おおお!」
部屋の形になってる!
壁も、机も、ベッドも。
穴は開いてるけど、さっきの3つの点よりずっといい。
「やった...できた...」
小さいけど、確実な一歩。
思わず画面に向かって──
「見て!できたよ!」
誰もいない。
「...うん、独り言やばい」
でも、嬉しい。
ベッドに横になりながら、洗濯ボックスを眺める。
「明日の朝、どんな服が来るんだろ」
期待半分、不安半分。
「まさか変な服じゃないよね...」
もう一度、タッチパネル確認。
『残高:42,500円』
「明日から節約しよ...」
ベッドに入る。
清潔なパジャマ、ありがたい。
天井の黒い点が、じっと見下ろしてる気がする。
「おやすみ...」
ふと、洗濯ボックスの上を見る。
「明日の朝、ここに新しい服が...」
なんだか、プレゼントを待つ子供みたいな気分。
電気消す。
PCのLEDだけが青く光ってる。
換気口から、かすかに機械音。
波の音。
そして、静寂。
「...さみしい」
いつもなら、この時間──
友達とLINEして、
推しの配信見て、
明日の予定確認して。
「みんな、今何してるかな」
私がいなくなったこと、気づいてる?
でも、考えても仕方ない。
【残り日数:29日15時間23分】
長い初日が、終わろうとしている。
明日は、もっとうまくできるはず。
「がんばろ、私」
静かな波音を聞きながら、いつの間にか眠りに落ちた。
夢の中で、誰かが優しく言った。
「いいスタートよ」
白衣の女性の声だったような、そうでないような。
朝になれば、洗濯ボックスの上に新しい服が届く。
どんな服だろう。
普通の服だといいな。
まさか、メイド服とかじゃないよね。
...ないよね?