表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/91

第28話 朝・神様の視線とネット解禁

十日目の朝。ついに二桁に突入した。


「10日目……もう3分の1だ……早いな」


体が重い。肩が凝ってる。首も痛い。腰も痛い。十日間の疲労が、層になって積み重なってる。


でも、慣れてきてもいる。この疲れにも、この生活にも。


LAUNDRYボックスを開ける。チェックのシャツとスカート。


「お、可愛い!秋っぽい!」


少しだけ秋っぽいけど、動きやすくていい感じだ。袖を通す。肌触りがいい。


ボトル子に見せる。


「ねえボトル子、今日は秋服だよ!可愛いよね」


ボトル子は笑ってる。いつもの笑顔。変わらない笑顔。


タッチパネルでおにぎり注文。鮭おにぎりと昆布おにぎり。


「10日目もおにぎり!もう、おにぎり握るプロになれるかも」


ウィーンとトレーが出てくる。焼きたての海苔の香り。温かい匂い。


でも、また完璧なタイミングだ。私が起きたタイミングで、ちょうど温かい。いつも。毎日。


まるで、全部見られてるみたい。


もぐもぐ食べながら、今日のスケジュール確認。


【Day10:端島神社跡】


「端島神社……こんな島にもあったんだ」


資料を開く。端島神社。島の頂上部、岩礁の最も高い場所に「端島神社」という神社があったらしい。炭鉱の神様と、海の神様が祀られていた、島の守り神。


「へぇ、守り神……」


写真を見る。急な石段と、その先に小さな社殿。


「階段、急そう……」


読み進める。「地獄段」と呼ばれる、島のほぼ中央を通る迷路のような階段。最低地から最高地まで蛇行しながら続く長い長い階段。子供たちの遊び場だったり、お祭りで御輿を担いで駆け下りたり。


「地獄段って名前……怖い……」


そして、神社の境内。


「島民たちの、格好のデートスポットでもあった……」


神聖な場所でありながら、人々の憩いの場でもあったんだ。


「デートスポット……いいな」


おにぎりの最後の一個を食べて、口を拭く。


「よし、行こう」


日焼け止めを塗る。虫除けスプレーもシュッシュッ。十日間で、完全にルーティン化した。カメラとドローンを準備。


ボトル子に手を振る。


「行ってきます!」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。


ロケハンのために、私は島の「てっぺん」を目指した。


「地獄段……本当に地獄みたいな名前……」


階段の前に立つ。見上げると、首が痛くなる。


「うわ、急……これ登るの……?」


深呼吸。


「よし、行くぞ」


一段、また一段。


「はぁ、はぁ……」


10段で既に息切れ。


「きつい……」


20段。


「はぁ、はぁ、もう無理……」


立ち止まって、振り返る。


「結構登った?」


まだ全然。


「うそ……まだこれだけ?マジか……」


30段、40段。


「足が……重い……」


膝が笑ってる。途中で座り込む。十日間の疲労が、足に来てる。


「休憩……疲れた……本当に地獄だ……」


でも、諦められない。


「よし、もうちょっと」


50段、60段。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


汗だく。チェックのシャツが汗でべったり。暑い。でも、登り続ける。


70段、80段、90段。


「もうすぐ……かな……」


100段。


「やっと……!」


頂上にたどり着いた。


「着いた……!」


息を切らしながら、その場にへたり込む。


「疲れた……死ぬ……」


しばらく、動けなかった。呼吸を整えて、顔を上げる。


そこには、崩れかけた鳥居と、風化した狛犬だけが残っていた。


「鳥居……」


社殿はもう、跡形もない。岩礁からはみ出すように建てられていたという神殿も、拝殿も、何も残っていない。でも、そこからの眺めは、本当にすごかった。


「うわぁ……!」


島全体が、ミニチュアみたいに見渡せる。


「すごい……全部見える……」


30号棟、65号棟、日給社宅、学校、病院。私が歩いてきた場所、全部見える。青い海が、360度広がっている。陸地が見えない。でも、美しい。


「神様って、いつもここから島を見てたんだな……」


風が、私の汗を優しく拭ってくれた。気持ちいい。疲れが、少しずつ消えていく。


「ここ、いい場所だな」


鳥居に近づく。石造り。所々欠けてる。でも、まだ立ってる。狛犬も見る。風化して、顔の細部が分からない。でも、ちゃんと狛犬だって分かる。


撮影開始。鳥居、狛犬、石段、そして眺望。全部記録する。


午前中いっぱい撮影して、部屋に戻る。階段を下りるのも大変。


「降りるのも怖い……」


一段一段、慎重に。


部屋に戻って、昼食。カレーライス。


「カレーだ!美味しそう!」


湯気が立ち上る。カレーの匂い。スパイスの匂い。温かい匂い。


でも、この部屋は相変わらず冷たい。


一口食べる。


「辛っ!でも美味い!」


食べ終わって、PCを起動すると、見慣れないポップアップが表示された。


『本日より、インターネットへの接続を1日1時間許可します。SNS等、一部サイトへのアクセスはブロックされます』


「え……ネット!?」


画面を二度見する。


「ネット!?本当に!?嘘でしょ!?」


私は震える手で、ブラウザを開いた。繋がる?繋がる?


ローディング。


「……!」


本当に繋がる……!


「繋がった!本当に繋がった!やったー!!」


椅子から立ち上がって、ガッツポーズ。


ボトル子に報告。


「ねえボトル子、ネット繋がったよ!インターネット!すごいよね!」


ボトル子は笑ってる。いつも黙ってる。でも、そこにいる。


SNSが見られないのは残念。


「インスタ見たかった……ミカの投稿見たかった……」


でも、それでも。外の世界と繋がってる。それだけで、涙が出そうになった。


「10日ぶりのネット……」


検索窓を見つめる。何検索しよう。いろんなことが頭に浮かぶ。


「とりあえず……軍艦島?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ