第27話 夜・賑わいの再構築と日常への渇望
シャワーを浴びる。
「あー気持ちいい!さっぱり!」
今日も汗だく。パーカーが汗でびっしょり。
「洗濯よろしくお願いします……」
LAUNDRYボックスに放り込む。もう慣れた。明日の朝にはきれいになって戻ってくる。不思議なシステムだけど、ありがたい。
髪を洗う。シャンプーのボトルを慎重に扱う。
「慎重に……慎重に……今日は落とさない!」
成功。でも、髪を洗ってたら、やっぱりシャンプーが目に入る。
「痛っ!……もう驚かない。毎日恒例」
水で流す。もう慣れた。体を洗って、さっぱり。
シャワーから出て、タオルで髪を拭きながら、今日の夕食メニューを確認。
「唐揚げ定食……やった!唐揚げ!大好き!」
タッチパネルをポチッと押す。ウィーンとパネルが開いて、唐揚げ定食が出てくる。きつね色のカリカリ唐揚げが5個、キャベツの千切り、ご飯、味噌汁。完璧なラインナップ。
油の匂い。揚げたての匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
「きつね色!カリカリ!肉がぎっしり詰まってそう!」
箸で一個持ち上げる。ずっしり重い。
「重い!これは期待できる!」
一口かじる。
「あっつ!熱っ!」
慌てて口をパクパク。でも止められない。
「熱いけど美味しい!じゅわっと肉汁が溢れる!最高!」
レモンをかけるか悩む。いつもの悩み。
「レモンかける派?かけない派?……まあ、どっちも美味しいよね」
半分だけレモンかける。
「これで両方楽しめる!天才かも!」
レモンありも美味しい。レモンなしも美味しい。どっちも正解。
「人生、選択肢があるって素晴らしい!」
唐揚げでエネルギーを補給して、満足。
「よし、PC作業頑張ろう!」
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、今日のデータ処理するね。見てて」
ボトル子と十円玉とビー玉が並んでる。私の大切な仲間たち。変わらない笑顔と、小さな記憶のかけら。
今日のPC作業は、市場の「賑わい」をどう再構築するか、がテーマだ。
「ただの廃墟を記録するだけじゃなくて、賑わいを感じさせたい」
部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。
データをPCに取り込んで、記憶の紡績開始。
Align Images、Create Model、Simplify、Unwrap、Texture。もう慣れた工程。サクサク進む。
PCがうなり始める。ブゥゥゥン。
「よし、よし。もうベテランの域に達してきた!」
処理が終わって現れた時間の化石は、がらんとした通路だった。
「……寂しい」
マウスでぐるぐる回す。確かに形は記録できてる。壁も、地面も、ちゃんと再現されてる。でも、賑わいが感じられない。
「これじゃダメだ。もっと、当時の雰囲気を出したい」
そこで、私はあることを思いついた。
「そうだ、屋台を……想像で作ってみよう!」
屋台の台座のデータから、形を推測して、簡単な屋台のモデルを付け加えてみる。Blenderを起動して、基本的な箱を作る。
「えーっと、この台座の上に……屋台の屋根があって……」
マウスで形を作っていく。四角い箱に、ちょっと傾斜のある屋根をつけて。
「こんな感じ?簡単だけど、屋台っぽい!」
看板もつけよう。看板の跡から、文字を復元してみる。
「『魚』って読めたから……魚屋さんだ」
手作業で文字を入れる。フォントは……明朝体がいいかな。
「『魚』……よし、完成!」
もちろん、全部私の想像だ。本当にこうだったかは分からない。でも、そうやって手を加えていくと、がらんとしていた空間に、少しずつ、かつての賑わいの気配が戻ってくる気がした。
「おお、いい感じ……雰囲気出てきた!」
調子に乗って、他の屋台も作る。
「ここに魚屋さん、ここに八百屋さん、ここに肉屋さん……」
想像で作っていく。簡単なモデルだけど、それっぽく見える。
「これは……想像力の勝利だ!」
完成したモデルを、ボトル子に見せた。
「見て、ボトル子。これが、端島銀座だよ」
屋台が並ぶ市場の通路。がらんとしてた空間が、今は活気で溢れてる……気がする。
「賑やかだったんだよ、きっと」
それは、ただの記録じゃない。私の想像力が加わった、新しい「記憶」の形。
「フォトグラメトリって、こんなにクリエイティブなことができるんだ……」
技術と、想像力。その二つが合わされば、消えてしまった時間を、もう一度呼び起こすことができるのかもしれない。
「すごい……私、何か新しいことしてる気がする」
夕食後、解説資料を読んで、市場では新鮮な魚が豊富に手に入ったことを知った。
「魚は豊富……でも、野菜は貴重品だったって」
対岸から船で運んでくるから、値段が高かった。
「そっか、島だもんね。畑ないもんね。当たり前か」
急に、お母さんが作る野菜たっぷりのお味噌汁が飲みたくなった。
「お母さんの味噌汁……」
キャベツ、玉ねぎ、にんじん、大根。いつも野菜いっぱい入ってる。
「当たり前のように毎日食卓に並んでた……」
あの温かい味。優しい味。お母さんの味。
「飲みたい……」
胸がキュッとなる。目がじんわり熱くなる。
「お母さん、元気かな……心配してるかな……」
きっと心配してる。毎日泣いてるかもしれない。
「ごめんね、お母さん……もうすぐ帰るからね」
涙が出そうになる。目を拭く。
「ダメダメ、泣いちゃダメ。泣いたら止まらなくなる」
深呼吸。落ち着け、私。
この島での生活は、今まで気づかなかった「普通」のありがたさを、一つ一つ私に教えてくれる。
「普通って、すごいことなんだ」
毎日ご飯が食べられる。家族がいる。友達がいる。
「全部、当たり前じゃないんだ」
早く帰りたい。でも、この島のことも、もっと知りたい。心の中で、二つの気持ちが綱引きをしてた。
「矛盾してるよね……でも、両方本当の気持ち」
【残り日数:21日】
画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。
「あと21日……もう9日も経ったんだ。30%終了……計算合ってる?まあいいや」
私の30日間は、ただのサバイバルじゃない。
「過去と対話する、特別な時間なんだ」
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、私、頑張ってるよね?」
黙ってる。でも、そこにいてくれる。いつも、そこにいてくれる。
「そうだよね、頑張ってる。ありがとう」
十円玉も触る。ビー玉も触る。
「みんなのおかげで、頑張れてる」
ベッドに入る前に、もう一度完成したモデルを見る。
「端島銀座……」
想像で作った屋台が並んでる。
「本当はどうだったか分からない。でも、私の想像は、きっと間違ってない」
おやすみ、端島銀座。おやすみ、ボトル子。おやすみ、ビー玉と十円玉。
ベッドに入る。目を閉じる。
今日も、一人じゃなかった。
静寂が、部屋を包む。




