第18話 夜・仕事のできる女と母の顔
部屋に戻ったら、もうヘトヘト。
「疲れた……死ぬ……」
今日の夕食は、すき焼き。
「すき焼きだ!甘辛いタレ!お肉!白滝!」
「すき焼きって、なんで『すき』なんだろう」
「好きだから?鋤で焼くから?」
箸でお肉をつまんで、生卵にチョン。
「とろ~り!うまっ!」
「卵かけご飯の進化系!」
でも勢いよく食べすぎて、タレが飛ぶ。
「あっ!また服に!」
「ワークジャケットのポケットに入った!」
「ポケット多すぎて、どこに飛んだか分からない!」
PCにデータ取り込んで、記憶の紡績開始。
「選炭施設、ドルシックナー、ボタ捨て跡……」
処理待ちの間、ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子!今日もすごかったよ!」
「巨大な目玉を撮影したんだ!」
「ドルシックナーっていうんだけど、知ってる?」
「知らないよね、私も今日初めて知ったし」
ボトル子はにっこり笑ってる。
処理終了。画面に選炭施設の3Dモデルが現れる。
「完璧!」
ドルシックナーの円形が完璧に再現されてる。
「放射状の仕切りも!」
「本当に目玉みたい!」
「31号棟のコンベア跡も!」
「ボタ捨てトンネルの入り口も!」
拳を握りしめる。
「6日目にして、もうプロ級!」
「いや、まだまだか」
「でも確実に成長してる!」
考えて、試して、乗り越えた。
「よし、今日の私は仕事できる女!」
胸を張ってボトル子に宣言。
夕食後、解説資料を読み返す。
「炭鉱で働く人の家族……」
「夫が地下1000mで働いてるって、どんな気持ち?」
「毎日無事を祈ってたんだろうな」
お母さんの顔が浮かぶ。
「お母さん、パートで疲れてても、笑顔で『おかえり』って」
「この島のお母さんたちも、きっと同じ」
「女の人って強い」
「私も強くならなきゃ」
PC作業終えてベッドに入ろうとしたら、足首が猛烈に痒い。
「痒っ!なにこれ!」
見ると赤くぷっくり腫れてる。
「スプレーしたのに!」
「ここの虫、最強すぎ!」
「炭鉱の人たちも虫に悩まされてたのかな」
「地下にも虫いたのかな」
「いや、地下は虫より危険なガスが……」
掻きむしりたいけど我慢。
「掻いちゃダメ、掻いちゃダメ……」
結局掻いちゃう。
「あー!掻いちゃった!」
「意志弱すぎ!」
【残り日数:24日】
カウントダウンの数字を見る。
「24日……ちょうど80%終了」
「いや、20%か。計算苦手」
「でも、なんとかなりそう」
「炭鉱施設も記録できた」
「私、歴史的な仕事してる」
「ボトル子もそう思うでしょ?」
強がりを言いながら、でも少し自信がついてきた自分を感じる。
「明日も頑張るぞ!おやすみボトル子」