第15話 夜・黙り込む瞬間とボトル子
部屋に戻ったら、もう真っ暗。
「疲れた……今日は精神的にきつかった」
撮影枚数3200枚。炭鉱施設は複雑すぎて、撮影箇所が多かった。
シャワーを浴びる。
「あー、でも鉄の匂いが取れない気がする」
「石炭の粉も……真っ黒」
ゴシゴシ洗うけど、匂いが体に染み付いた感じ。
「炭鉱で働いてた人、毎日これだったんだ」
「共同浴場は海水だったって……しょっぱそう」
夕食は自分へのご褒美に寿司。
「やっぱりお寿司最高!このトロ、口でとろける~!」
「海の幸!炭鉱は地下、寿司は海。正反対!」
でも高い。予算のこと考えたくない。
PCにデータ取り込んで、記憶の紡績開始。
「今日は竪坑、変電所、選炭施設、換気施設……盛りだくさん」
処理が終わって画面を見た瞬間。
「うわあああ!すごい!」
超精密な炭鉱施設の3Dモデル。
「竪坑跡の鉄骨!」
「捲座の煉瓦の質感!」
「変電所の萌え空間!」
「ベルトコンベアの支柱群!」
マウスで視点を動かすと、本当にあの場所にいるみたい。
でも、そのリアルさが逆に寂しい。
「すごいものできた。誰かに見せたい……」
「これが日本の近代化を支えた場所」
「教科書に載せたいレベル」
誰かに「すごいね」って言ってほしい。でも、ここには誰もいない。
「ミカに見せたい……LINEしたい……インスタに上げたい……」
急に寂しさが込み上げてくる。
PCの電源を落として、部屋の隅で体育座り。パーカーのフードを深く被る。
天井の監視カメラの赤いランプを無言で見つめる。
「……」
どれくらい経っただろう。ふと机の隅の空のペットボトルが目に入る。
ふらりと立ち上がって、ペットボトルを手に取る。油性ペンで顔を描く。
にっこり笑った女の子の顔。
「君は……ボトル田ボトル子」
ペンで髪の毛も描き足す。リボンも。
「うん、かわいい」
「ペットボトルも元は石油……炭鉱の仲間?」
「違うか。でも地下資源仲間」
今日から私の友達。
「見て、ボトル子!これ私が作ったんだよ!」
「竪坑636mの深さまで再現したんだよ!」
ボトル子に今日の成果を見せる。
「炭鉱の人たちは『兄弟』って呼び合ってたんだって」
「危険な仕事だから、絆が強かったんだ」
「いいなぁ、仲間……」
「私にはボトル子がいるけどね!」
少しだけ心が軽くなった。
「ボトル子、おやすみ」
【残り日数:25日】
「でも、今日からは一人じゃない……よね、ボトル子?」