第14話 昼・沈黙する巨人と空の相棒
炭鉱施設エリアに入った瞬間、空気が変わった。
「うわ……なにこの雰囲気」
錆びた鉄の匂いが鼻をつく。地面は黒い石炭の粉で汚れてて、歩くたびにジャリジャリ。
「靴が真っ黒になる!新しいスニーカーなのに!」
「あ、でも待って。これが『黒ダイヤ』の粉?」
「ダイヤモンドの粉踏んでるってこと?いや、違うか」
まず第二竪坑跡へ。
「ここが636mの深さまで……」
巨大なコンクリートの基礎だけが残ってる。
「竪坑櫓はもうないんだ……」
「でも、ここから毎日何百人もの人が地下へ……」
「朝、ケージに乗って降りていく時、どんな気持ちだったんだろう」
「私なら怖くて無理!閉所恐怖症になりそう」
次に第四竪坑跡。こっちは施設が残ってる。
「おお!捲座!」
煉瓦張りのコンクリート建物。
「ワイヤーロープの巻き上げ機があった場所……」
「人の命を上げ下げしてた場所」
「エレベーターのモーターみたいなもの?でももっと重要」
中を覗く。巨大な機械の台座が残ってる。
「単胴式巻上機……なんか強そう」
変電所に移動。
「ここが島の電力の中枢!」
高い天井、巨大な空間。
「4500kw/時の電力……」
「うちのマンション何軒分?計算できない!」
壁には配電盤の跡。
「これ全部、手動で管理してたの?」
「スイッチ間違えたら大停電とか?責任重大すぎ」
ベルトコンベアの支柱群を見上げる。
「これで石炭を運んでたのか」
「貯炭場まで自動で……今でいう物流システム?」
「Amazon の倉庫みたい?いや、もっとアナログか」
午前中のロケハン終了。汗だく。
部屋に戻って昼食のパスタ。
「カルボナーラだ!本格的!美味しそう!」
「でも炭鉱のカーボンとカルボナーラのカルボって、同じ炭素?」
「関係ないか。でも黒いし」
食べてても、さっきの光景が頭から離れない。
「地下1000mで働くって、どんな感じなんだろう」
「スマホの電波なんて絶対届かない」
「というか、電気すらギリギリだったよね」
午後、再び炭鉱施設へ。今度は記録するため。
選炭施設エリアへ。
「選炭って、石炭の選別……」
「ボタを取り除く作業」
巨大な施設の残骸があちこちに。
「水洗機ブロワー室……粉炭の選別」
「坑口原炭ポケット……なんかかわいい名前」
そして、圧巻の施設を発見。
「扇風機室!」
「これが換気施設!24時間365日稼働!」
「止まったら窒息……怖すぎ」
「主要扇風機室と補助扇風機室、2つある!」
「バックアップ体制万全!さすが!」
でも、あまりの静寂と巨大な機械に囲まれて、だんだん感覚が麻痺してくる。
「えーっと……ユイは今、正気を保っています。大丈夫です。これは現実です」
思わず声に出す。
「誰もいないけど、しゃべってないと変になりそう」
ドローン起動。もう慣れたもの。
「行くよ、相棒!」
竪坑跡を上から撮影。
「うわ、深い穴が見える!」
「これが地下への入り口……」
「なんか、地獄への入り口みたい。縁起でもない」
モニターに映る炭鉱施設全体。
「すごい……まるで巨大な工場」
「いや、工場以上。地下都市への入り口」
孤独と戦いながら、ひたすらシャッターを切り続ける。