第11話 昼・100年前の海と空からの視点
島の南端への道は、昨日までとは違う雰囲気。生活の痕跡がそこら中に。
「あ、電信柱が倒れてる……」
歩いてたら朽ちた電信柱につまずく。
「わっ!危ない!」
「割れた植木鉢……朽ちたベンチ……なんか切ない」
そして目の前に現れた30号棟。
「でっか!写真より全然でかい!」
立方体みたいな巨大な建物。圧倒的な存在感。
「これが1916年製……107年前の建物が、まだ立ってる」
建物の南西側に回る。
「ここが一番風雨を受ける場所……『船のブリッジ』にあたる部分か」
「だから頑丈に作ったんだ」
「こんにちは、30号棟さん!今日一日、よろしくお願いします!」
自然と挨拶が出た。風が吹いて、建物のどこかでカタカタ音がする。
「お、返事してくれた?ありがとう!」
午前中は建物の周りをぐるぐる歩き回ってロケハン。
「ロの字型っていうけど、外からじゃ立方体にしか見えない」
「中に入らなきゃ」
入り口を探して中へ。薄暗い。
「うわ、ひんやり……でも湿ってる」
光庭を発見。真ん中にぽっかり空いた四角い空間。
「これが光庭!上まで吹き抜けてる!」
「階段が光庭の周りをぐるぐる回ってる!」
歩き回りすぎて、もう汗だく。
「やっぱり黒ジャケ暑い!死ぬ!」
部屋に戻って昼食のラーメン。
「汗だくになった後のラーメン最高!濃いスープが染みる~!」
午後、再び30号棟へ。まずは外観から撮影開始。
「記憶の狩猟、スタート!」
カシャカシャとシャッター切りまくる。そして、いよいよ建物の中へ。
薄暗い階段を上る。一歩踏むたびにコンクリートの粉がパラパラ。
「うわ、崩れてる!107年前の建物だもんね」
2階の部屋を覗く。六畳一間。
「狭っ!ここに家族で?!」
「かまどの跡がある!ここで料理してたんだ」
「流しも小さい……」
3階、4階と上がっていく。
「4階は食堂があったんだよね……あ、広い部屋!」
「ここで組の人たちが一緒にご飯食べてたのか」
壁をよく見る。
「あった!本当に貝殻!」
崩れた壁から、小さな貝殻のかけらが顔を出してる。
「これが高浜の砂浜の貝殻……100年前の海の記憶」
指で触る。ざらざらする。
「すごい……ロマンがある」
さらに上を見ると、鉄筋が剥き出しになってる部分が。
「これ、ワイヤーロープ?太い!」
「炭鉱の巻き上げ機で使ってたやつが、この建物の骨になってるんだ」
最上階の7階まで上る。階段きつい。
「はぁ、はぁ、7階建てにエレベーターなしとか、昔の人体力ありすぎ!」
屋上への階段を発見。階段室がない、むき出しの階段。
「これ、雨の日ビショビショじゃん!」
屋上に出る。
「うわ!見晴らし最高!」
「あ、これ煙突の跡?かまどの煙突が屋上まで伸びてたんだ」
「手すりの柱も残ってる」
資料を思い出す。
「戦時中はここに速射砲があったって……」
「平和な住宅が、戦争の最前線になってたなんて」
光庭を上から見下ろす。
「完璧なロの字!きれい!」
「でも、この『ロの字』構造、上から見ないと分からないな」
ドローン取り出して、自動撮影モード起動。
「よし、飛ばすよー!」
光庭の真上からゆっくり上昇。モニターに映る30号棟の形。
「うわー!本当に立方体!でも真ん中に四角い穴!」
「ドーナツというより、サイコロに穴開けた感じ!」
夢中で撮影してたら、足元に何かキラッと光るもの発見。
「ん?なにこれ?」
拾い上げてみると、ビー玉だった。
「きれい!青い渦が入ってる!」
「100年前の子供の宝物かな……」
ジーンズのポケットにそっとしまう。
夕方、オレンジ色の西日の中で夢中で撮影。
「この光、最高!100年前の建物が黄金色に!」