ふーん、ウィッチじゃん。
オレは世界を救う勇者だ。
魔王を倒すべく、剣を振るってきた。
今回は、この塔にいる魔王のしもべを倒しに来た。
「よくきたな、勇者よ」
声が聞こえ、カツカツと足音が響いた。
そこには、小さな女の子が立っていた。
サラッとした白い髪に黒い魔導具、魔法の杖。
——ふーん、ウィッチじゃん。
「魔王様の誇り、魔女の誇りにかけて、お前を倒す!」
魔女は杖を構えた。
よく見ると、魔道具はお腹が見えていた。
すべすべとしてそうで、小さなへそがくっきりと見える。
——ふーん、エッチじゃん。
「どうした、構えないのか? ならばこちらから行くぞ!」
魔女の怒涛の攻撃が始まる——。
「はて、いま何時だったかな?」
腕時計を確認する魔女。
ふーん、ウォッチじゃん。
「動くな、絵が描けぬではないか!」
鉛筆を握ってオレを見つめる魔女。
ふーん、スケッチじゃん。
「体格差がありすぎじゃろ!」
オレを見上げる魔女。
ふーん、ミスマッチじゃん。
「らせん階段』『カブト虫』『廃墟の街』『イチジクのタルト』『カブト虫』……」
ふーん、プッチ神父じゃん。
ジョジョ第6部のラスボス。
「新作のバッグが百万円!?高すぎるぞ!」
ふーん、グッチじゃん。
高すぎてオレも買えません。
「プリンが食べたいのぉ。皿に出すか!」
ふーん、プッチンじゃん。
プッチンプリンは人類のロマン。
「六王銃でも使おうかの〜」
ふーん、ロブ・ルッチじゃん。
指銃好きだったな〜めっちゃマネした。
「WBCの観客席にいた芸人」
ふーん、ロッチ中岡じゃん。
あれ切り抜かれてたの草。
「新作のゲームが多すぎて人生が狂ったぞ!」
ふーん、Nintendo Switchじゃん。
ティアーズオブザキングダム面白すぎ。時間が溶ける。
「火を付けていいか?」
ふーん、マッチじゃん。
火の用心。
「ご飯は便所で食べるとするかの……」
ふーん、ボッチじゃん。
やめてください心にきます……。
「魔女の誇りにかけて、お前を倒す!」
ふーん、ウィッチじゃん。
そしてきみはエッチじゃん。
「なぁ、ちょっといいか?」
魔女の怒涛の攻撃に、オレは手を挙げた。
「なんじゃ? さてはもう降参か——」
「きみのこと、めっちゃ好きだわ」
「え?」
固まる魔女。みるみるうちに顔が赤くなる。
ふーん、かわいいじゃん。
「正直、魔王とかどうでもいい。キミと一緒に過ごしたい」
「ま、待て! 貴様は世界を守るために戦っているのではないのか!?」
「そうだったよ。でも、今変わった」
オレは剣を捨て、魔女の前に立った。
「キミと一緒にいられるなら、世界なんてどうでもいい」
「だ、だいたんなプロポーズだな……」
「返事は?」
顔を赤くする魔女は、上目遣いでオレを見る。
ふーん、かわいすぎるじゃん。
「……どうしてもか?」
「どうしても」
一呼吸置いて、魔女はうなづいた。
「とっ、友達からならっ……いいぞ」
ふーん、最高じゃん。
こうしてオレは魔女と恋に落ちた。
魔王のこととか世界のこととか、どうでもよかった。
オレたちは世界の端で静かに暮らした。
魔女との暮らしは幸せだった。
ときには喧嘩もしたけど、そのたびに仲直りをした。
そうして少しずつ、彼女の良いところを知っていった。
のちに世界は魔王に支配された。
勇者であるオレを恨む声が世界中から上がったらしいが、どうでもよかった。
この人のいる場所が、オレにとっての『世界』だから。
「ご飯、できたぞ。はよう食え」
「ありがとう。ねぇ、ちょっといい?」
「なんじゃ? あぁ、醤油はそこの棚に……」
「これ」
オレは彼女に結婚指輪を差し出した。
色々と考えたが、やっぱりいつもの日常に渡したかった。彼女がいつも作ってくれる手料理が、オレは大好きだった。
「これからもずっと一緒に、ご飯を食べたい」
魔女はぱちぱちとまばたきをして、顔を赤くした。
「わたしも……お前とずっといたい」
「指輪、はめるね」
「うん……」
彼女の薬指に指輪を付ける。
美しいダイアモンドがきらめいた。
オレたちはほほえみ合い、キスをした。
唇を離すと、魔女は言った。
「まさかこんなことになるとはな……びっくりだ」
「オレもだよ。人生何が起こるかわからないね」
「あぁ、でも幸せだ……愛してるぞ、夫よ」
「オレも。愛してるよ、奥さん」
オレたちはもう一度、熱いキスをした。
ふーん、マリッジじゃん。




