TMCコネクション//テロ計画
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──TMCコネクション//テロ計画
私とリーパーは無事に目標のヤクザである無道会を殲滅し、セクター4/2のいつもの喫茶店でジェーン・ドウと落ち合った。
「ご苦労様でした。こちらでも無道会の壊滅を確認しています」
ジェーン・ドウはどうやってそれを確認したかまでは説明しなかったが、私たちにぱちぱちと拍手を送った。
「さて、ついでに頼んでおいた情報の方はどうですか?」
「これだ」
リーパーがジェーン・ドウに向けてヤクザの脳埋め込み式デバイスから抽出したデータを送る。
このデータは既にカンタレラさんにも送られており、そちらでもミネルヴァに関係してものがないか、解析を行ってもらっている。
「素晴らしい成果です。満足できるものですよ」
ジェーン・ドウはそう言って優雅な仕草でコーヒーを口に運ぶ。
「このデータの分析は誰かに任せてるのでしょう?」
「鋭いな」
「これぐらいは予想できます。なので、こちらとして解析しておいた情報をそちらに送っておきましょう」
え? もう解析できたんです? 早い……!
「やつらはミネルヴァの次の仕事に協力するつもりだったようです。そして、ミネルヴァが企てていたのは、TMC自治政府に対する攻撃です」
「TMC自治政府への攻撃?」
ジェーン・ドウの言葉にリーパーも私も首を傾げる。
TMCには確かにTMCの行政を担当する自治政府が存在する。とはいっても、この国の民主主義はとうの昔に死んでおり、自治政府は完全に大井の傀儡だ。そこにさほどの価値があるとは思えない。
「もちろんこれを攻撃して何か意味があるのかと疑問に思うでしょう。しかし、我々大井としては傀儡であったとしても、TMC自治政府を攻撃されるのは困るのです。それは我々がTMCの治安を維持できていないと証明することに繋がりますので」
TMC自治政府は大井がバックについているから、それを下手に攻撃されると大井の安全保障能力に疑問が生じるというところなのでしょうか?
「近いうちにこれに関する仕事を回すことになるでしょう。ですが、今回はここまでです。改めてご苦労様でした」
そう言ってジェーン・ドウは私たちに報酬を送金して手を振った。
私たちは喫茶店を出るとリーパーのSUVに乗り込む。
「今度はTMC自治政府に対するテロ、ですか。どうなると思います?」
「ジェーン・ドウが言うようにTMC自治政府があっけなく攻撃されて壊滅したりすれば、大井の評判に傷がつく。しかし、今の状況でそんな些細なダメージを狙って攻撃を行うというのはどうにも妙だ」
「ミネルヴァへの共同戦線として大井とメティスが同盟しているならば、確かに評判なんて狙ってもしょうがないんですよね」
今やミネルヴァは大井とメティスによって分割されようとしている。彼らにとっては存亡の危機である。
ここで行うべきは生き残りのための重要な一手であり、今さら大井の評判を落とすことを狙うしょうもないことではないはずなのだが……。
「まあ、俺たちは仕事をやるだけだ。大井のことは大井の連中が考えればいい。所詮、俺たちは大井の飼い犬だからな」
「それもそうですね。偉い人が考えてくれるでしょう」
リーパーや私があれこれ考えても意味はありません。
「それよりカンタレラのところに行くか? やつにも情報の分析を依頼している」
「そうしましょう。何かわかるかもです」
そういうわけで私たちはカンタレラさんのマンションを目指した。
カンタレラさんのマンションに到着すると早速彼女の部屋へ。
「リーパー、ツムギちゃん。面白い情報をくれたね」
「もう解析できてるんですか?」
「ある程度はね。データの破損もあるし、旧式ながら暗号化されてたけど、なんとか分かるようになったよ」
「凄いですね!」
流石はカンタレラさんです!
「分かった情報は? ジェーン・ドウのやつはそのデータからTMC自治政府へのテロが計画されていると言っていたが」
「それもある。ミネルヴァは無道会の協力を得てから、TMC自治政府を攻撃する計画を立てていた。この計画が今も動いているかは微妙だけど。だって無道会はあんたらが殲滅しちゃったしね」
「だな。駒が足りなくなっているだろう」
ミネルヴァのテロはあくまで無道会の協力が前提だ。その無道会がいなくなった今において同様に計画が実行可能かは微妙なところ。
「ただ他にもミネルヴァに関する情報はある。ミネルヴァが何を見返りに無道会から協力を引き出したのかと言えば、それはパラテックの提供なんだよ」
「パラテックを…………!」
ミネルヴァはどのようなパラテックを無道会に提供しようとしたのだろうか?
「そう、ミネルヴァは無道会に例のゾンビウィルス──ベルセルク・ウィルスとΩ-5インプラントを提供するつもりだったらしい。無道会はそれを人身売買で手に入れた人間に使って、と」
「へえ。あのゾンビを作るウィルスとそれをコントロールするツムギの頭に入っているのと同じインプラントがセットか。それは愉快なことになりそうだったな。惜しいことをしちまった」
「あんたって男は……。あたしはあんたらが事前に阻止してくれて助かったと思ってるけどね」
リーパーはもう1回ゾンビアポカリプスで遊びたかったようですが、私もカンタレラさんももうごめんです。
「で、だよ。ミネルヴァはもはや隠すことなく、パラテックを取引材料にしているみたいだから、無道会の代わりにテロを実行する人間を探しだすかもしれない。ミネルヴァの技術は六大多国籍企業だって欲しがるものだから」
「そうですね。ですが、ミネルヴァの長期的に目指している、本当の目的は何なんでしょうか? それがずっと疑問だったんです」
カンタレラさんの言葉に私はそう尋ねる。
「ミネルヴァの目的、か…………。単なるマッドサイエンティストって線も一応は考えられるけど、そう単純じゃないよね」
「ええ。金銭的な目的でもないような気がするんです。金銭的な利益が目的ならば、もっと大々的にパラテックを宣伝して、その技術を普及させ、自分たち自らメガコーポとして君臨すればいいんですから」
「それもそうだ。となると…………?」
「覚えていますか。サロメって悪魔の件。彼女は自分が移動できるポータルを確保しようとしていた。そして、そのサロメは恐らくミネルヴァにも関係している。彼女がパラテックをミネルヴァに提供しているのが事実ならば?」
「まさか目的は地獄門を開くこと? それもこれまで見てきたもの以上のそれを?」
私の考察にカンタレラさんがぞっとした様子で答える。
「デカい地獄門を、か。そいつは愉快そうだ。悪魔と戦うのは楽しかったからな。それにステージもSFとホラーな雰囲気があって、俺好みだ」
「さいですか」
マイペースと言えばマイペースなリーパーの意見を私たちは聞き流す。
「これ以上はあたしたちにも調べる手段がない。ジェーン・ドウ辺りから情報が回ってくるのを待つしかないね」
「ええ。これまでの反応を見たところ、ジェーン・ドウも地獄門が存在するのを快くは思っていません。あれは明確に大井にとっての不利益だと認識しています。きっと何かあれば仕事が回ってくるはずです」
カンタレラさんが肩をすくめ、私はそう希望的観測を述べた。
「じゃあ、この仕事は正式にこれでお開きだな。今度の仕事で何か分かれば、お前にも伝えておく、カンタレラ」
「そうして。新情報には期待してるから」
リーパーはそう言ってカンタレラさんの部屋を出て、私も続いた。
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