ワイルドファイア//帝都生化技研
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──ワイルドファイア//帝都生化技研
私たちは引き続き帝都生化技研に対する作戦を展開中だ。
「いいか。隠密重視だぞ、隠密」
「分かってるよ」
「どうもあんたからは嫌な予感がする」
初対面のミノカサゴさんでもリーパーのろくでもない癖は伝わっているらしい。やはり傭兵と言う同業として雰囲気で分かるんでしょうね……。
「さて、うちのハッカーが無人警備システムを一時的に停止させる。その間に突入だ」
「了解。静かにやろうぜ」
ミノカサゴさんがそう言い、リーパーが先頭を進む。
物資搬入用の裏口にも警備ボットなどが配置されており、無人警備システムにリンクしたそれが油断なく周囲を見張っていた。
「無人警備システム、ダウンまで3カウント」
ミノカサゴさんが合図し、リーパーと私は身を低くして備える。
「3」
物資搬入用の裏口には無人警備システムだけが配置さており、パトリオットのコントラクターたちはいない。
「2」
裏口の出入り口は施錠されているようには見えない。入り込めそうだ。
「1」
念のためにテレパシーで広範囲を索敵するが、裏口に警戒している人間はおらず。
「無人警備システム、ダウン」
一斉に警備ボットが動きを止め、カメラやドローンなども停止する。
「突入開始だ」
リーパーが先頭に立って一気に駆け抜け、ミノカサゴさんと私が続く。
あくまで隠密をやる気はあるようで、リーパーは猫のように無音で研究所内に侵入。ミノカサゴさんと私も続き、今のところ気づかれていません。
「やつの居場所はこっちだ」
リーパーは既に見取り図が完全に頭に入っているようで、全く迷うことなく、複雑な作りの研究所内を駆け抜けていく。
私もテレパシーで周囲を索敵して支援です。
『──……全く人使いが荒いぜ。俺たちは雑用係じゃないってのに……──』
『──……文句言うなよ。今日は要人がくるんだから、ウルフ中将も俺たちが役立ってるってアピールしたいのさ……──』
『──……気持ちは分かるけどなあ……──』
おっと! 不味いです。こっちの方にパトリオットのコントラクターらしき人間が近づいてきていますよ。
「リーパー。敵です。次の角を曲がった先」
「任せろ。始末する」
私の報告にリーパーはにやりと笑って、“鬼喰らい”を手にすっと角を曲がる。
その先にはゴミ箱を抱えた2名のパトリオットのコントラクターがおり、リーパーが突然現れたのに目を丸くする。
しかし、それも一瞬のこと。リーパーはすぐさま2名の首を刎ね飛ばした。
「へえ。あんた、ポン刀下げてたから、もしやとは思っていたけどサイバーサムライなのか?」
「残念だが連中のように体は弄ってない」
「冗談だろう?」
「どう思う?」
リーパーがにやりと笑うのにミノカサゴさんは鼻で笑った。信じてない感じです。
「本当ですよ。リーパーは無改造です」
「マジか。まあ、仕事に支障がなければどうでもいいがね」
私が言ってもミノカサゴさんは信じてなさそう。
「こっちだ。死体が見つかる前にとっとと片付けよう」
引き続きリーパーが先頭で進むが────。
「待て。止まれ」
不意にミノカサゴさんがそう言う。
「どうした?」
「無人警備システムをジャックしているハッカーからの報告だ。問題の黒沢バレリアとベルセルク・ウィルスの方向に物々しい一団が近づいていると」
「ほう。敵が襲撃に気づいたか?」
「いや。その様子はない。お嬢ちゃんが言っていたように要人が来ているのかもしれないね、これは」
リーパーが尋ね、ミノカサゴさんが推測。
「もっと通信を傍受してみます」
私はそう言ってテレパシーによる盗聴範囲を拡大。
『──……ネテスハイム博士。ここでの研究は順調です。例のプロダクトについても試験結果は良好で、近々実戦テストを予定しております……──』
『──……ベルセルク・ウィルスは我々にとって強力な一手になる。今や大井とメティスの両社が我々を脅かしているのだから、迅速な実用化が必要だ……──』
『──……理解しております。しかし、ウルフ最高経営責任者はどのようにお考えなのですか……──』
『──……彼は我々の方針に異論を持っていない……──』
ネテスハイム…………?
帝都生化技研の研究者だろうか? それにしては大井とメティスの脅威を危惧しているようですが……?
『──……我々はミネルヴァにとって最善の選択をせねば……──』
!? ミネルヴァ……!
「リーパー。要人は恐らくミネルヴァの大物です」
「へえ。それは興味深いな」
「ええ。できれば話をしたいですね。無理にとは言いませんが……」
この状況だ。無理は言えない。
私たちが優先すべきはまずは生き残ることであり、次に無事に仕事を成功させること。それ以外はよほどの余裕が生まれない限り、やるべきではない。
「因縁ありげだね」
「大丈夫ですよ。迷惑はかけません」
「そうしてくれると助かるよ」
まして今は無関係であるミノカサゴさんも一緒なのだ。彼女を私の我がままで危険にさらすわけにはいかない。
「で、どうする? 蹴散らすか?」
「奇襲に成功すればどうにか行けるかもしれないけど、リスクはデカい」
「しかし、このままここでぼーっと待ってれば敵も無人警備システムがジャックされていることに気づくだろう」
「それもそうなんだよね。あー、クソ!」
ミノカサゴさんが悩みに悩んで悪態をつく。
「あんたを当てにさせてもらうよ。やろう」
「オーケー。任せておけ。大暴れしてやろう」
というわけで、結局隠密はなしになりました。
「無人警備システムで撹乱し、一気に突っ込む。俺が暴れ回って、殺し回るから、ツムギとミノカサゴはお土産を最優先で確保しろ」
「了解です」
ある意味ではプランBです。リーパーが暴れ、私たちはお土産を確保するという。
「しかし、やばいよ。結構な大所帯だ。生体機械化兵は混じっていないみたいだけど」
「安心しろ。全部こっちで引き付けてやる」
「いいや。最初はあたしも援護する一応ね」
リーパーは楽しそうなのにミノカサゴさんがそう首を横に振る。
「そう言えばミノカサゴさんは武器を持ってないみたいですけど……」
「あたしはニンジャだからね。得物は見せないようにしてるのさ」
「ニンジャ……」
ニンジャとは日本の忍び…………が語源になっている暗殺者のことだ。
高度な機械化やサイバネ技術で身体を強化した暗殺者のことであり、サイバネアサシンとも呼ばれている。
本来のニンジャという意味合いはほとんどなく、前世でニンジャを知っている私のような人間はちょっと笑ってしまいそうになるのが難点。
「では、向かうとしよう」
私たちはネテスハイム博士なる人物を護衛するパトリオットのコントラクターたちが進む廊下の方に向かう。彼らの向かう先がお土産である黒沢バレリアとベルセルク・ウィルスがある場所だ。
私たちは無人警備システムが制圧されているうちに仕事を終わらせるため、駆け足で急ぐ。
接敵までは5分程度だ。
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