ワイルドファイア//偵察
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──ワイルドファイア//偵察
ミノカサゴと名乗った女性は座っていた椅子から立ち上がると、私たちの方に歩み寄ってきた。
「一応今回の仕事の認識を確認していいか?」
「もちろんです」
ミノカサゴさんはそう求め、私は頷く。
「目標は帝都生化技研の研究者で、殺しではなく拉致が目的。間違いないな?」
「ありません」
「そして、やつが研究しているウィルスについて強奪を実行」
「その通りです」
ミノカサゴさんがひとつずつ確認していくのに、私が頷く。
「オーケー。ちゃんと仕事の目的は共有しているらしい。ジョン・ドウ、ジェーン・ドウの類から違った命令を受けていて、現場でそれが分かったって話になると不味いからね」
どうやらこの手の仕事には慣れているらしく、ミノカサゴさんはそう言って安堵していた。
「裏切ったり、裏切られたりするのは確かにごめんだな」
そこでリーパーが私の方に視線を向ける。
私はミノカサゴさんの思考を読んでおり、彼女が別の目的を持っていないことを確認しているので、リーパーの視線に頷いて返す。
「じゃあ、早速殴り込むか」
「待ちな。そりゃ不味いよ。こっちの情報だと研究所には民間軍事会社の連中が警備についている。パトリオット・オペレーションズって連中だ」
「ああ。大した相手じゃない」
リーパーは何度もパトリオット・オペレーションズと交戦して、彼らを撃破しているだけあって余裕の態度です。
「随分と大口叩くね。だが、一緒にやるからにはこっちの意見も聞いてもらうよ。まずは偵察からだ。帝都生化技研ってところはそこそこの広さなのに、こっちはそこに3人で突入しようってんだからね」
ミノカサゴさんは慎重な人のようです。
正直、リーパーとどっちが頼りになるかというとミノカサゴさんの方ですよね……。リーパーはいつもドーンと入って、バーッとやるぐらいの大雑把な作戦しか立ててくれませんから……。
「リーパー。偵察からやりましょう。念のためです」
「まあ、たまにはそうやってのんびりやるのもいいかもな」
私もリーパーを説得し、まずは偵察という路線が決定した。
「じゃあ、出発だ。運転はあんたに任せていいかい?」
「いいぞ」
ミノカサゴさんはリーパーにそう言って、私たちはリーパーを先頭に外に出る。
それからSUVに乗り込み帝都生化技研を目指した。
「この手の仕事の経験は?」
SUVの中でリーパーがミノカサゴさんに尋ねる。
「あるよ」
「へえ。じゃあ、これまで経験した仕事の中で一番危険だった仕事ってのはあるか?」
「そうだね。樺太の旧ロシア海軍の地下原潜基地から脱出する仕事が一番危なかったかね。オホーツク義勇旅団と日本海軍特別陸戦隊に挟まれてさ。危うくミンチにされるところだった」
「なら、かなり腕が立つみたいだな」
「そこそこだ」
ミノカサゴさんはリーパーに煩わしそうにそう返していた。
「偵察って具体的にはどうします?」
「マトリクスからとドローンを利用したものの2段構えだ。突入ルートと脱出ルートはしっかりさせておきたい。警備の規模も分かれば文句なしだ」
「マトリクスから……。ハッカーに当てが?」
「ある。もう仕事を任せているから、あとで情報を共有しよう」
「手際がいいですね」
ミノカサゴさんは頼りになりそうです!
「ところで、ちびっ子。あんたの役割は?」
「私はリーパー同様にドンパチと、それから情報収集を」
「へえ。小さいのに頑張ってるね。偉い、偉い」
ミノカサゴさんがそう言って私の頭を撫でる。犬猫の扱い…………。
「そろそろ到着するぞ」
リーパーがそう通達し、私たちの間に緊張感が生じた。
SUVはゆっくりと速度を落とし、リーパーは窓の外を見ながら車を止めた。
「あれが帝都生化技研だ」
帝都生化技研はセクター9/7というあまり治安が良くない場所でありながら、そこそこの規模の研究施設だった。
「うちのハッカーから研究所の見取り図が来た。共有する」
ミノカサゴさんがそう言って私たちと研究所の見取り図を共有。
「ふん。正面はやはり無人警備システムが山のようにあるな。で、問題の黒沢バレリアの居場所だが」
「ここにP4レベル実験室がある。問題のベルセルク・ウィルスがそれなりに危険なものならば、ここで扱ってると思う。ただ、そこに同時に黒沢バレリアがいるという保証はないな」
「結局は研究室内を探し回ることになるのか」
「待て。うちのハッカーが無人警備システムへの侵入を試みている」
ミノカサゴさんの雇ったハッカーは研究所の無人警備システムへの侵入を試みているらしい。もし、それが成功すればベルセルク・ウィルスの場所も黒沢バレリアの居場所も分かりますね!
「オーケー。侵入に成功。内部の情報が来たぞ」
おお! これで仕事の難易度が下がりましたよ。
「クソ。旧式の無人警備システムみたいだな。生体認証スキャナーが部分的にしか機能していない。一体どこにいやがる…………」
ミノカサゴさんは愚痴りながらも無人警備システムで目標を捜索。
「掴んだ。やつの居場所はここだ」
「P4レベル実験室がある棟と同じ建物の部屋だな」
「ああ。あとはドローンで上から様子を見よう」
そう言ってミノカサゴさんは外に出るとキャリーバッグを開く。
その中には軍用グレードのクアッドロータードローンが収まっていた。
「それっと」
ミノカサゴさんは操作デバイスにBCI接続すると、ドローンを飛ばす。
「映像を共有してくれ」
「あいよ」
私たちにも情報が送られてくる。空から見た帝都生化技研の映像だ。
「物騒なもので武装した狙撃手がいるな。口径30ミリの対物電磁ライフルか」
「ああ。パトリオットの連中は結構な武装をしているぞ」
私には武器の種類などはそこまで分からないので、ドローンで掴んだ位置にいるパトリオットのコントラクターたちの思考を盗聴しておこう。
『──……定時連絡。異常なしだ。何も起きてない……──』
『──……今日は気合を入れておけ。要人が来るんだからな……──』
『──……分かってる、分かってる。全く忙しいぜ……──』
何やら愚痴っていますが、要人とは…………?
「リーパー。敵は研究所に要人が来ると話してします」
「ふん? 要人が来る、か。また愉快なときにタイミングがあったな」
「愉快じゃありませんよ……」
私にとって不愉快ですらあります!
「ちびっ子。あんたも敵の通信をハッキングしたのかい?」
「そんなところです。ある程度、通信情報は掴めますから頼りにしてください」
「そりゃあいいね」
私の活躍にミノカサゴさんも満足げ。
「そろそろ作戦を立てようぜ」
リーパーはそう言って見取り図を開く。
「今回は黒沢バレリアとベルセルク・ウィルスってお土産を安全に外に連れ出す必要がある。というわけで、隠密は必要だろう。最短距離で、密かに入って密かに拉致」
「異議なし。なら、突入ルートはこんなもんかね」
リーパーが示した作戦方針にミノカサゴさんが突入の場所を決定。それは資材搬入用の裏口付近にある警備の手薄な場所だ。
「オーケー。万が一の場合のプランBだが、隠密が失敗した場合は俺が暴れ回って陽動を行うから、その間にお土産を運びだせ。ツムギはミノカサゴと一緒に行動しろ」
「大丈夫ですか?」
「問題ない。それにこれはプランBだ」
リーパーはそう言っていますが、この人わざとプランBを発動するようなことはないですよね……? ちょっと心配です…………。
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