肝試し//狂気と悪魔
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──肝試し//狂気と悪魔
私たちは引き続き廃業した精神病院を、悪魔の痕跡を追って調べている。
閉鎖病棟の中を見て回るが、今のところ火災の痕跡と言うのはない。
「本当にここで火災なんてあったのか?」
「そのはずなんだけどね。もうちょっと昔の記事とか調べてくるべきだったか」
リーパーは本当に退屈そうで、カンタレラさんも諦めムード。
「そうだ。ツムギちゃん、前にツムギちゃんだけに悪魔が見えたことがあったんだよね? テレパシーを使ってここにある心霊スポットを探ったりできない?」
「そうですね。試してみます」
カンタレラさんに言われて私はテレパシーで病院内を探る。
すると────。
『こっちへ来い』
そんな不気味な声がしました!
「い、今の聞こえましたか……!?」
「何も聞こえないぞ」
私が思わず尋ねるがリーパーは怪訝そうにしているだけだ。
「何か聞こえたの? どこから?」
「えっと。あれは地下の方からですね……。でも、なんだか不味そうですよ…………」
「でも、せっかくだし行ってみよう」
「うへえ」
カンタレラさんに押し切られて、私たちは閉鎖病棟の地下を目指す。
「地下に向かう階段を探さないとな」
リーパーは閉鎖病棟の1階で周囲を見渡し、地下に入れる階段を探し始めた。
「あったぞ。非常階段から行けそうだ」
「よーし。廃病院の地下ってのはなかなかなホラースポットだよ」
リーパーが見つけた階段を、カンタレラさんがタクティカルライトで確認する。
「悪魔がいると面白いんだが」
「そうだね。何か見つけないと来た意味があまりないし」
リーパーとカンタレラさんはこんなことを言っていますが、私は魔法陣以外は何もいてほしくはないのですよ~。
「焦げた臭い……」
「火事は起きていたようだな」
地下には焦げた臭いが立ち込めている。あの嫌な臭いはここから……。
「間違いなくここだよ。ここで事件が起きたんだ。さあ、魔法陣を探そう」
カンタレラさんはわくわくした様子でそう言い、私たちは地下を探る。
『こっちだ』
またあの声が……! 今度は向こうからメッセージが送り付けられています……!
「リーパー。警戒を。間違いなくここには何かがいます……!」
「了解だ。任せておけ」
リーパーは私の言葉ににやりと笑う。
『こっちへ来るんだ』
また声がする。それは奥に進むに連れて大きくなっていく。
「こっちです。声がします」
私は病室の並ぶ地下を進み、そして────。
「ここは二重に施錠されているな」
「急性期の患者を収容するための場所だね。自分や他人を傷つける恐れがある人を収容する場所」
「へえ。そこに化け物がいるかもしれない、と」
カンタレラさんの説明にリーパーがカギを破壊し、金属の扉を蹴り破る。
「こりゃ酷い」
その先にある全てが黒焦げになった光景を見て、カンタレラさんが思わずそう呟く。
ここが一番火の手が強かったのは間違いなく、当たり一面黒焦げになっていた。さらに臭いに汚物のそれが混じっている。
この施錠された空間にある病室は4つ。どれも部屋そのものにカギが外から掛けられるものだ。そのうち3つの中は外と同じく黒焦げだ。
だが、最後の部屋は────。
「あった。魔法陣だ!」
カンタレラさんがそう声を上げる。
そこには赤黒い塗料で描かれた魔法陣が存在した。部屋の中はその魔法陣が位置する壁以外は全て真っ黒に焼けている。
「で、化け物はどこだ?」
リーパーは魔法陣を眺めたのちに私の方を見てそう尋ねる。
『来たな…………』
またあのぞっとするような声がして、私は周囲を見渡す。
「ああ!」
不意に魔法陣がぐるりと揺らぎ、そこから何かが手を伸ばしてくる。
「どうしたの、ツムギちゃん?」
「出たのか?」
私が後ずさりするのをカンタレラさんとリーパーが怪訝そうに見てきたが、私はそれに答える余裕はなかった。
魔法陣から悪魔が現れたからだ。
「再び会ったな、小娘?」
それは富士先端技術研究所に現れたのと同じ悪魔────サロメだ。
「あ、あなたはどうしてここに…………」
「この門は不活性化していたが、お前が来たことで再び活性化した。驚かされた」
サロメは私の前に立ってそう告げる。
「ミネルヴァの連中にはできなかったことが、お前にはできるようだ。連中にはいろいろと与えてやったのだがな」
「あなたがミネルヴァにパラテックを……」
「パラテック、か。そう呼ばれているそうだな。人間という生き物は物事をそうやって自分たちのレベルに引き落とさないと理解できない」
パラテックはやはり悪魔が与えていたものだったんだ……!
「ミネルヴァは安定した門の構築にずっと時間をかけていたが、お前はそれをもたらせる可能性がある」
「門を構築してどうするつもりです?」
「当然、自由に行き来するだけだ。私のような存在になると通常の不安定な門では、この世界に安定して存在することができないのでな」
「自由に…………」
ジェーン・ドウは言っていた。地獄の門は侵略のための手段だと。
「お前には価値がある。私とともに来い」
そう言ってサロメが手を伸ばしてきた。白い手が私を掴もうとする。
ダメだ。地獄の門を安定化させたりしてはいけない。こんな化け物がこの世界にあふれかえるようになってしまったら……!
「なるほど。そこにいるのか」
不意にリーパーがそういう声が聞こえたと思った次の瞬間、サロメが伸ばしていた手が“鬼喰らい”の刃によって切断された。
「リーパー! あなた、見えて……?」
「いや。見えないが、気配は感じるし、お前の視線を追えば位置も分かる」
本来、リーパーには見えないはずのサロメをリーパーは捉えていた!
「さて、再び悪魔を斬らせてもらおう」
リーパーは見えないはずのサロメを完全に捉えており、その首に向けて“鬼喰らい”を振った。
一閃────。
サロメの首が刎ね飛ばされ、地面に落ちる。血は流れない。
「ほう。こいつ……妙な感じがすると思っていたが…………」
地面に落ちたサロメの首がそう告げる。
「ツムギ。悪魔は死んだか?」
「いえ。生きています」
「手ごたえはあったがな…………」
リーパーはそう呟く。
「お前とその男とはまた会うことになるだろう。ではな────」
サロメはそう言い、溶けるようにして門の中に吸い込まれて行った。
「ねえねえ!? 何がどうなっているの!?」
「悪魔は消えました……。いなくなったんです……」
カンタレラさんにはいきなり私が独り言を喋り始めたと思ったら、リーパーが“鬼喰らい”を抜いてと意味不明だったと思います。
「何か悪魔と喋った?」
「ええ。ミネルヴァにパラテックを与えたのは悪魔だと。そう言っていました」
「そうか……」
私が説明するのにカンタレラさんは魔法陣を眺める。
「つまり、これがあれば悪魔が召喚できるってこと?」
「どうでしょう。悪魔──サロメはこれは不活性化した門だと言っていました。私たちに反応して活性化したとも」
「ふむ。不活性化していた門か。やっぱり火災は地獄の門の影響……?」
「そこまでは聞けていませんが、彼女は地獄の門を安定化させるのが目的のようでした。普通の門ではサロメはこの世界に安定して存在できない、と」
「門を安定化させる。地獄とこの世界を繋いでしまうってことか」
この前の富士先端技術研究所の件を見る限り、それは決していい結果にはならないことは間違いない。
「これ以上化け物や悪魔がでないなら、ここにいてもしょうがないな」
「ですね。これ以上ここにたら藪蛇になるかもです。帰りましょう」
リーパーはもう悪魔が出てこないことにがっかりし、私がそう言って私たちは地下から地上に出て、カンタレラさんの車に戻った。
「噂は本当だったって電子掲示板のみんなに教えとかないと」
「場所はぼかした方がいいですよ。うっかり門が開いたら困ります」
「う~ん。残念だけどそれもそうか。地球が滅んじゃ困るもんね」
私たちはそんなやり取りをしながら、TMCへと戻る。
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