パブリックエネミー//エージェント-27U
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──パブリックエネミー//エージェント-27U
私とリーパー、佐伯さんは毒ガスのある場所に近づいてる。
「慎重に頼むぞ。エージェント-27Uは触れれば死ぬ」
「分かってるさ」
先頭を進むリーパーに佐伯さんが警告し、リーパーは適当に頷いている。
問題の廃工場は表の入り口にはシャッターが下ろされていて、入れないようになっていた。そして、シャッターから佐伯さんが見つけた工場における不審な点が見られた場所までは僅かに離れている。
「ツムギ。中の様子は把握できるか?」
「待ってください」
私はリーパーに求められてテレパシーで中の様子を探った。
『──……クソ。どうなっているんだ。さっき出ていった連中はどうなった……──』
『──……お前らがちんたらしているせいで、大井が気づいたんだ……──』
『──……俺たちのせいにしようってのか。この使えない傭兵が……──』
むむむ? 何やらテロリストたちは言い争っているようですね?
「リーパー。相手は内輪もめの真っ最中のようです」
「なら、奇襲し放題だな。行くぞ」
リーパーはそう言ってシャッターを“鬼喰らい”で引き裂き、蹴り破ると廃工場の内部に突入。
「て、敵だ!」
「迎え撃て!」
中にいたのは先ほどの強化外骨格を装備したパトリオットの連中とは違う、軽装──というか、ほとんど一般人の格好をした男女でした。
恐らくは彼らが“箱舟の同盟者”とやらなのでしょう。
彼らは旧式の自動小銃などを構えてリーパーに向けて発砲。
「ぬるすぎるな」
リーパーは不満げに銃弾を叩き落とし、ずんずんとテロリストの方に進んでいく。
「近寄らせるな!」
「こ、殺せ!」
リーパーに応戦するテロリストたちはコンテナのようなものを守っており、私はその方向に注意を向ける。
『──……こうなったらここで使うしかない……──』
『──……馬鹿なことをいうな。俺たちまで殺す気か……──』
『──……どうせ殺されるくらいなら道連れだ……──』
おおっと! 不味い感じですよ!
「リーパー! 敵は道連れを狙ってここで毒ガスを使うつもりです!」
「へえ。意外に覚悟が決まってるんだな」
「そんなこと言っている場合ですか!」
リーパーは感心などしていますが、それどころではないのですよ!
「ま、毒ガスで殺されるってのも面白くない。さくっと制圧するか」
「援護しますから毒ガスの確保を!」
私はまともな装備などもっていないテロリストたちを薙ぎ払い、リーパーはコンテナに向けて突撃。私もこのままリーパーを援護するためにコンテナの方に進んだ。
コンテナの中は小さな実験設備のようになっており、ガラス張りの窓の向こうに防護服を着た人間が2名いて言い争っている。
先ほど傍受した思考の人間でしょう。
「佐伯さん。あの部屋から出さなければ毒ガスは問題ないですか?」
「ああ。あれはちゃんとした軍用の移動実験室だ。ちゃんとした気密性が守られているから、中でゼータ・ツー・インフルエンザが漏れたって大丈夫だ」
「なら──! リーパー! ドアを塞いでおいてください!
私は窓から見える光景でドクロのマークがついた容器に集中する。
そして、その容器をわざと破壊した。容器が割れ、中から僅かに緑色の煙が漏れ出てくる。それを見た実験室内のふたりの人間が慌て始め、実験室から出ようとするが、そこにはリーパーがいる。
「残念だったな。そいつと心中してくれ」
リーパーは実験室の扉を足で押さえて封鎖し、ふたりの人間は外に出ることができず、中でもだえながら倒れていった……。
「非常時とは言え、ちょっと残酷なことをしてしまいましたね…………」
「気にするな。相手はあの毒ガスで何万人も殺そうとしていたんだからな」
「そうなんですけど……」
自業自得と言ってしまえばそれまでだ。だが、それでも毒ガスで殺す必要はあっただろうかと少し悩んでしまう。
あのままでは私たちまで道連れにされたと考えれば正当化できるだろうか?
「佐伯。これで問題がないかチェックしてくれ」
「ああ。あとはすぐにジェーン・ドウに連絡した方がいい。専用の装備がなければ、このコンテナは地獄を呼ぶぞ」
リーパーが言い、佐伯さんは何かの機材を持ち出して周辺にエージェント-27Uが漏洩していないかの検査を始めた。
「ジェーン・ドウ。毒ガスは制圧完了だ。テロリストもほぼ全員くたばった」
『ご苦労様です。すぐに専門の部隊を派遣するので、そのまま現場を制圧し続けておいてください』
「了解」
そしてリーパーが私の方を見る。
「パトリオットの連中を何人か殺さないでおいた。話を聞きたいんだろう?」
「ええ。そうしたいですね」
「なら、連れてくる」
リーパーはそう言って一度廃工場の外に出ると、ずるずると2名の男を引きずってきた。彼らは負傷し、動けずにいるが生きてはいる。
「よう。お前らはパトリオット・オペレーションズの連中だな?」
「くたばれ、イエロー」
リーパーが尋問を始めるのにパトリオットのコントラクターが唾を吐く。リーパーはそれを躱して、鬼喰らいの柄でコントラクターの顔面を殴った。
「お前らが生きてここから出られるかは提供する情報次第だ。ツムギ!」
私はリーパーに呼ばれてコントラクターの傍に行く。
「あなた方はミネルヴァという組織について知っていますか?」
「知るか」
心を読む。
『──……どうしてこいつはミネルヴァを知っているんだ。どういうことだ……──』
嘘をついている。彼らはミネルヴァについて知っている。
「今回の攻撃もミネルヴァの指示ですか? エリュシオンを襲撃したように」
「何を言って…………!」
心を読む。
『──……どうしてしそんなことまで……!? こいつらの狙いは毒ガスじゃなくて俺たちだったのか……──』
エリュシオンのことも知っている。これはミネルヴァからの指示だ。
「リーパー。パトリオットは間違いなくミネルヴァと通じているようです」
「ふうん。なら、今回の仕事の目的は?」
リーパーはそう男たちに尋ねる。
『──……俺たち雇われの下っ端が知るわけねえだろ。知っているのはウルフ中将くらいじゃないのか……──』
ふうむ。ウルフ中将と言うのは、確かパトリオット・オペレーションズの最高経営責任者ですね。
「彼らはこれは本当に知らないようです」
「そうか。で、どうする?」
「ジェーン・ドウに引き渡しましょう。私たちが手を下す必要はないです」
「それもそうだな……」
リーパーにしては珍しく殺意は抑えめです。
私たちがそうやっている間に廃工場の前に大井統合安全保障のパワード・リフト機が着陸し、そこから物々しい防護服姿のコントラクターたちが降りてくる。
「エージェント-27Uはどこだ!?」
「あのコンテナの中だ! 機動実験室の中に漏洩しているから警戒してくれ!」
「了解!」
それから慎重にコンテナの周りが気密性のあるシェルターに囲まれ、除染が開始されるのを私たちは見届けた。
「ジェーン・ドウの傭兵だな? ジェーン・ドウからセクター4/2のいつもの場所に来いという伝言を預かっている。パワード・リフト機で送ってやるよ」
「そいつはありがたいね」
大井統合安全保障のコントラクターはリーパーにそう言い、私たちはパワード・リフト機の方に向かう。
「待ってくれ! 伝言を頼まれてくれるか!」
と、ここで佐伯さんが慌てて走ってきてそう言う。
「どんな伝言ですか?」
「ジェーン・ドウに仕事は果たしたから恩赦の方を、と」
「分かりました!」
私は佐伯さんからそう伝言を承ると、パワード・リフト機でセクター4/2に向けて飛び去った。
パワード・リフト機の窓から荒れたTMCセクター13/6の街並みが見え、それがぐんぐんと遠ざかっていく。
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