パブリックエネミー//グレーゾーン
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──パブリックエネミー//グレーゾーン
私たちは情報屋から得た座標に向けて進んでいる。
ジェーン・ドウから事前に言われていた通り、この辺りはコリアン・ギャングの縄張りだ。それが分かるようにあちこちにどのギャングの縄張りかを示す落書きがされているので、把握することができる。
「こっちだな」
無人タクシーに指示を出し、佐伯さんが助手席からコリアン・ギャングの縄張りを見渡していく。
「一応待ち伏せの類に警戒しておきたい。お前たちのお仲間のハッカーに連絡を」
「ああ。待ち伏せているのが、どこのどいつかも調べてもらおう」
と、ここでリーパーがカンタレラさんに連絡。
「カンタレラ。今、セクター13/6のこの座標を目指している。この付近に妙な連中がいないか調べてくれないか?」
『了解。任せておいて』
カンタレラさんは早速座標周辺の画像とトラフィックを分析してくれた。
『オーケー。物騒な連中がいるよ。強化外骨格を装備して、電磁ライフルを抱えた連中。装備的にはアメリカ軍のそれだけど、当然ながら正規軍の装備の方法ではないね』
「トラフィックを傍受できないか?」
『やってるところ。こいつらがどんな回線を使っているか突き止めないと』
リーパーが求めるのにカンタレラさんがあれこれを手を回してくれる。
『よし。連中が使っている通信衛星を特定した。こいつらの正体は…………』
「どうした?」
『わお。ジェーン・ドウの読みは正しかったね。武装した連中の所属が判明。パトリオット・オペレーションズだよ』
「やはりそうなるか」
まあ、これにはあまり驚きはありません。これまで様々な情報が彼らの存在を示唆してきましたから。
「テロリストの方はどうですか? “箱舟の同盟者”で間違いなく?」
『うん。間違いなし。連中は今車両を準備している。移動するつもりかも』
「不味いですね」
ジェーン・ドウはセクター13/6での被害は許容したが、テロリストたちはここから移動するつもりだ。そうなると他のセクターでも被害が出てしまいます。
「リーパー。急ぎましょう」
「ああ。飛ばせ、このポンコツ」
リーパーは後部座席から運転ボットを蹴り、運転ボットはタクシーを加速させる。
『間もなくドローンで確認できている敵の警戒ラインに接触』
「さあ、戦闘開始だ」
リーパーはにやりと不敵に笑ってそう言い、遠くから響いてきた電気の弾ける音と同時に私を引っ張って車から飛び降りた!
タクシーは運転ボットごと銃弾に貫かれて大破。
佐伯さんは何とか車を降りて私たちとともに遮蔽物に隠れる。
「クソ。敵に気づかれている」
「なあに、問題はない。さっさと片付ければいいだけだ」
リーパーはそう言い、私たちを狙っている狙撃手がいる中を堂々と通りに出た。
すぐさま電気の弾ける音が聞こえて銃弾が極超音速で飛来するが、リーパーはあっさりとそれを“鬼喰らい”で叩き落として前進する。
『──……なんだ、あの野郎? 銃弾を叩き落としやがったってのか……──』
『──……サイバーサムライの可能性がある。警戒しろ……──』
私は広範囲にテレパシーを広げ、敵の通信を傍受。
その中から私は化学兵器に関する情報を探る。
『──……まだガスは移動させられないのか……──』
『──……安全を確保してからだ。自分たちまで死にたくないだろう……──』
オーケーです。敵はまだ化学兵器を移動させていません。
「佐伯さん。化学兵器はこの辺りのどこに?」
「待ってくれ。機材が搬入された痕跡から分かるはずだが……」
私はリーパーが表で暴れ始めたところで、佐伯さんに衛星やドローンの画像を見せて、どこに化学兵器があるのかを尋ねる。
「ここだな。この建物だ。間違いない」
そこで佐伯さんはこの近くにある廃工場を指さした。
「リーパー! この廃工場まで前進しましょう!」
「ああ。分かった。俺が道を作る。ついてこい」
リーパーはそう言って突き進み、私と佐伯さんも遮蔽物に隠れながら前進。
『──……畜生。連中、ガスの場所を目指しているぞ……──』
『──……なら、叩きのめせ……──』
リーパーが前進してくる中で、敵も迎撃に踏み切ったようであり、小型のドローンが飛来するとともに強化外骨格で武装した兵士たちが通りに出現。
「射撃開始!」
兵士たちも遮蔽物を利用しながらリーパーを狙って射撃を始めました!
「へえ。なかなかに楽しめそうだな」
リーパーはそう言うと一気に加速し、まずは手前にいた最初の兵士の首を刎ね飛ばした。ナノマシン混じりの人工血液が舞う中で、リーパーは次の獲物へと突撃する。
「私は狙撃手を片付けますか、と」
先ほどからリーパーを狙っていた狙撃手の位置は、カンタレラさんが掴んだ衛星の画像で分かっている。さほど偽装もしていない敵の狙撃手は、古いマンションの屋上からリーパーに電磁ライフルを向けていたのだ。
私は敵の狙撃手の様子を衛星の画像で把握しながら、装備していた手榴弾のピンをこっそりと抜く。
ドンッと爆発音が響き、狙撃手は吹き飛んだ。
「リーパー! 狙撃手は片付けました!」
「上出来だ、ツムギ。俺も負けてられないな」
リーパーはやはり楽しそうに笑いながら次々に現れる兵士たちを斬り倒してく。
袈裟懸けに斬って足払いをしてトドメを刺す。
首を刎ね飛ばし蹴り倒す。
突きを入れて喉を正確に貫き刃を抉って引き抜く。
どれも鮮やかすぎるほどに洗練された動きで、ずっと見てしまうほどだ。
「何だ、何なんだ、こいつは!」
「畜生、畜生! 重火器を使え! なぎ倒せ!」
パトリオットの兵士たちは混乱し始め、後方から別の兵器が現れる。
「くたばりな、イエローモンキー!」
そうやって侮蔑とともに現れたのは大型の強化外骨格で、装甲でがっりと覆われた代物だ。アーマードスーツほど洗練されたものではなく、DIY感は否めないが、それでも十分な脅威です!
さらにそれがガトリングガンで武装しているのですから…………。
「おっと中ボスってところか? 楽しめるといいんだがな」
リーパーはそう言って大型強化外骨格の兵士の方に向かって行く。
「ミンチにしてやるよ!」
ガトリングガンが火を噴き、リーパーを狙う。
大口径のガトリングガンはこのセクター13/6にある古い建物ぐらいならばあっさりと破壊して遮蔽物を失わせてしまいます!
「ちょっとばかり動きが鈍いな」
リーパーはあっさりと大型強化外骨格の攻撃を回避しながら、徐々に距離を詰めていく。ガトリングガンは破壊を振りまくが、リーパーにはかすりもしない。
「あの男、サイバーサムライなのか?」
「いいえ。ただの死神ですよ」
佐伯さんがリーパーの戦いぶりに信じられないという顔をしているが、私の方はもうだいぶ慣れたものです。
「そろそろ片付けるか」
リーパーはガトリングガンで必死に弾幕を張る大型強化外骨格に肉薄していき、次の瞬間にはその死角に潜り込むと強化外骨格を纏った兵士の首を装甲ごと一閃。
ぼとりと首が地面に落ち、制御を失った大型強化外骨格が暴走して、周囲に銃弾をばらまいたのちに崩れ落ちた。
「オーケー。中ボス撃破」
リーパーが大型強化外骨格を撃破したのちに、私も他の動けない兵士たちを屠っていく。周囲に散らばった金属片を使って、彼らの首などを引き裂き、血の海に沈めていく。
「片付いたようだな」
「まだ仕事は終わってないですよ。私たちの仕事は毒ガスを確保することがメインですから」
「ああ。そうだったな。さっさと確保してしまおう」
リーパーはそう言って佐伯さんが見つけた廃工場の方に進む。
「しかし、民間軍事会社がテロの支援とは…………」
「こいつらはグレーゾーンを生きている連中だ。メガコーポにも、テロリストにも、犯罪組織にもこういう連中は必要になる」
「そういうものですか」
リーパーが説明するのに私はただ頷いたのだった。
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