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パブリックエネミー//セクター4/2

……………………


 ──パブリックエネミー//セクター4/2



「楽しいお出かけの最中の呼び出しとなってすみません」


 ジェーン・ドウは一応そう謝ってくれた。


「ですが、あなた方に仕事(ビズ)があります。今度はリーパー、あなた好みの仕事(ビズ)となります」


「ほう?」


 リーパーが早速興味を持ち、子供のように目を輝かせる。


「何せ今回の仕事(ビズ)はテロリスト狩りです」


 ジェーン・ドウはあっさりとそう言い放った。


「テロリストとは穏やかではないですね……」


「ええ。暴力に訴えれば世界は変わるという短絡的ではた迷惑な連中ですからね。この手の連中はいつの世も他人に盛大な迷惑をかけて満足しているようなどうしようもない連中です」


 まあ私も久しぶりにジェーン・ドウに心から納得しました。


 前世を含めてテロリストの思想に納得することはありませんでしたし。


「どんな連中だ? 大井が標的になっているなら、いろいろとあるだろう?」


「我々の調査で明らかになったのは、環境テロリストである“箱舟の同盟者”という連中です。この環境テロリストは大井が世界各地で行っている開発に反発し、これまでも各地でテロや誘拐を起こしてきました」


 そこでジェーン・ドウから問題のテロリストの情報が共有される。


 “箱舟の同盟者”というテロリスト集団の情報だ。


 昔から活動しているテロ組織らしく、世界保健機構(WHO)によるゼータ・ツー・インフルエンザの積極的防疫計画であるシルバーライト作戦に対するテロなどから経歴が始まっている。


 他にもインドにおける原発占拠事件や大井のレアアース鉱山開発に対するテロなど、ずらずらと罪状が並んでいく。


「とんでもないテロリストですが、よく今まで壊滅しませんでしたね……」


「それはそうでしょう。彼らは環境テロリストという名の、どこぞのメガコーポの破壊工作員です。昔からこの手のテロリストは自分が信じているもののためではなく、スポンサーから資金を得るためにテロを繰り返していたのですから」


「うへえ」


 要は環境の保護とかは本当はどうでもよくて、大井の事業を妨害したいって人からお金を貰うのが大事ってわけですか…………。


 確かにお金がなければテロもできませんしね。


「現在、保安部はこの“箱舟の同盟者”によるテロ計画を掴んでいます。当初、彼らの目的は大井エネルギー&マテリアル本社に対する爆弾テロと思われていのですが、どうやらそれが違うようなのです」


「連中は何をするつもりなんだ?」


「化学テロです」


 ジェーン・ドウはとても物騒な言葉を平然と述べた。


「TMCの中心部にてエージェント-27Uという毒ガスを流布する計画が進行中であると掴みました。これは複数の情報源から確証が得られた情報である他──」


 少し嫌そうにジェーン・ドウが続ける。


「メティスからの情報提供で得られたことです」


「メティスが……?」


 意外な単語に私は思わず声に出てしまった。


「ええ。メティスから、です。彼らとの関係改善は進みつつあるということですよ」


「対ミネルヴァの共同戦線ってのは本気なのか?」


「少なくとも上は本気ですね」


 リーパーがあまり興味もなさそうに尋ね、ジェーン・ドウも適当に返した。


「ともあれ、テロは阻止しなければなりません。我々は保安部も動員して対テロ作戦を展開中です。それにあなた方も加わってもらいます」


「オーケー。スリルがありそうな仕事(ビズ)は歓迎だ」


 リーパーはこういうのにはご機嫌でしょうね。


「作戦について説明する前にエージェント-27Uについて簡単に説明しておきましょう。これはナノマシンを含む神経ガスです」


 ジェーン・ドウがそういうのと同時に、私たちのデバイスにエージェント-27Uなる毒ガスの情報が送られてきた。


 何でも皮膚からも浸透する他、一般的な防護マスクなども効果的ではなく、それに加えて除染が非常に困難だとか。


 悪魔が考えたみたいな代物ですね…………。


「これが厄介なのは曝露した場合に有効な解毒剤が存在しないことです。曝露はそのまま死を意味します。人体に対する作用の段階でことごとく従来存在する解毒剤を無力化している設計のためです」


「そいつはいいな。スリル満点だ」


仕事(ビズ)を割り振った私が言うのも何なのですが、あなたはもうちょっと危険に対する危機意識を持った方がいいですよ、リーパー」


 リーパーの余裕の笑みにジェーン・ドウが白い目で彼を見る。


「そもそもそんなに危険な毒ガスがどこから流出したんですか?」


「アメリカです。アメリカ陸軍が研究目的で保有していたものが、10日前反連邦主義者の襲撃を受けて流出しました」


 ここでジェーン・ドウが少し間を置く。


「ここで興味深い組織の名前が出てきます。その反連邦主義者の民兵に軍事訓練を施していたのは誰だと思います?」


「知らん」


「覚えているかは存じませんが、パトリオット・オペレーションズです」


 ああ! ミネルヴァに関係していた民間軍事会社(PMSC)


「じゃあ、この件の背後にもミネルヴァが……?」


「可能性としてはなきにしもあらずというところですね。ミネルヴァもまた大井に対して敵意を持つ理由がありますから」


 それに、とジェーン・ドウが続ける。


「“箱舟の同盟者”はこれまで爆弾テロや誘拐、暗殺などは行ってきましたが、大規模な化学テロを計画したのはこれが初めてです。加えてそのような初心者にとって、エージェント-27Uは簡単に扱える毒ガスではありません」


「誰かが入れ知恵しているってわけか。そいつがミネルヴァか、パトリオットか」


「いずれにして死んでもらうだけです。昔から言うでしょう。『テロリストとは交渉しない』と」


 ジェーン・ドウはコーヒーを味わいながらそう言った。


「では、いよいよ作戦を説明しましょう」


 そして、またジェーン・ドウから情報が送られてくる。


「複数の情報源から“箱舟の同盟者”たちはセクター13/6に潜伏中であると分かっています。あなた方には化学戦の専門家とともに連中の隠れ家を探ってもらいます」


「もし、毒ガスが漏れたら?」


「セクター13/6で被害が生じる分には一向に構いません。あそこの住民がいくら死のうと我々にとっては打撃はないも同じですから」


「うへえ……」


 セクター13/6は確かにどうしようもないスラムで、住民のほとんどが犯罪者だったりしますけど、ここまで明白に見捨てられるとは…………。


「そもそも毒ガスが漏れたら俺たちもお陀仏だろ。最初から漏らす気はない」


「それを期待していますよ」


 リーパーが鼻を鳴らしてそう言い、ジェーン・ドウはたんぱくにそう言った。


「現地の情報ですが、コリアン・ギャングの縄張りです。まだ連中がテロリストに手を貸しているという確証はありませんが、警戒は怠らないように。いざとなれば敵対する人間は全て殺害して構いません」


 富士先端技術研究所のときには誰も殺さないことにこだわったジェーン・ドウですが、今回はやたらと大雑把な指示を出しています。


「化学兵器を確保したら、あとはこちらに任せてください。こちらで処理します。作戦は以上ですが、何か質問は?」


「化学戦の専門家とやらはいつ落ち合えばいい?」


「彼はセクター12/5に潜伏中です。そこで合流してください」


「了解」


 リーパーは作戦が頭に入ったのか頷く。


「それではあなた方の健闘を祈ります」


 いってらっしゃいというようにジェーン・ドウは手を振った。


 私とリーパーは喫茶店を出てSUVに乗り込む。


「リーパー。もし、テロリストの仲間にミネルヴァかパトリオットの関係者がいたらですが──」


「ジェーン・ドウは殺せと言ったが、少しばかりその前にお喋りしても怒られはしないだろう。尋問の時間は作る」


「ありがとうございます」


 リーパーは私が言いかけたことを続け、私は安心した。


 今は自分の命に係わる問題としてΩ-5に関する情報が少しでもほしい。


 この仕事(ビズ)で何か情報が得られるだろうか…………?


……………………

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― 新着の感想 ―
毒ガスにエージェント○○って名前つけるのアメリカっぽいなー
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