パワーストラグル//“天雷”
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──パワーストラグル//“天雷”
上層から降下してきた巨大な何か。
「これは……!?」
それは異形の兵器だった。
五脚という奇数の脚部を備え、その脚部が支えるのは恐らくはステルス性のあるのっぺりとしたシルエットの戦車砲塔とそこから延びる様々な兵装。
「ほう。日本陸軍の空挺機械化生体だな。確か名前は────」
リーパーがそれを見て愉快そうに笑う。
「“天雷”」
その“天雷”という兵器の兵装が私たちを狙い、まずは砲塔に装備された戦車砲が火を噴きました!
「わわわっ!」
私はテレキネシスで身を守りながら、ジョロウグモ君とともに回避。
リーパーは悠然と敵の攻撃を回避して、“天雷”という兵器を眺めています。
「ツムギ。お前はここから離れておけ。激しい戦いになるぞ」
「いいえ。そういうわけにはいきませんよ。私もあなたに死なれるのは困るんですから。だから、私にできることをします……!」
リーパーが言うのに私はそう答えて、“天雷”を睨むように見る。
「そうか。いい根性だ。なら、楽しいCo-opプレイと行こうぜ」
「ええ!」
私はリーパーの言葉に頷くと同時にジョロウグモ君の上に跨った。自分の足で移動するよりジョロウグモ君に乗っていた方が早い。
“天雷”はそんな私たちに向けて今度は機関砲を照準してくる。
流石の私も機械の思考は読めないので、何が来るかは実際に来るまで分からないところがありますけどね!
「来るぞ────!」
電気の弾ける音ともに電磁機関砲が掃射され、頑丈なバンカーのコンクリートの壁や天井までもが抉られていく。
あんなのが当たったら、死体は原形をとどめていないでしょうね!
だが、私にはテレキネシスがある。テレキネシスで指向性のエネルギー場を自分とジョロウグモ君の周囲に展開させて、飛んできた機関砲弾を弾きます。
「こちらで攻撃を引き付けますので、その隙に!」
「了解だ」
リーパーは“天雷”が私を狙う中で、“天雷”への肉薄を試み、まずはその脚部をぶった斬った。横一閃に脚部を切断された“天雷”は一瞬だけバランスを崩すも、その五脚の脚部が功を成して、崩れ落ちはしなかった。
そして、さらに────。
「再生している……!?」
“天雷”の切断されたはずの脚部は急速に再生しつつあるのです!
「そうだぞ。こいつは半生体兵器だ。バイオマス転換炉による自己修復を可能にする兵器だ。これぐらいで倒れはしないとも」
こんなヤバい状況でもリーパーは子供のように笑いながら戦っている。
半生体兵器はその構造が生物の特性を取り入れており、通常の機械などと違ってバイオマス転換炉で必要なエネルギーや物質を生み出すことで、自己修復と自己増殖を可能にしている……とARデバイスには表示されています。
おぞましい話のように聞こえます。まさに生きた機械であり、生物と機械のキメラとも言える存在です。都市伝説にあるように人間の死体すらもバイオマス転換で燃料にする人食い兵器がこれなのです。
人間はいつから生物と機械の境界をなくしてしまったのでしょうか…………。
「リーパー! どうするんですか!?」
「なあに、大したことはない。再生しなくなるまで叩きのめすだけだ!」
「ええーっ!?」
リーパーはぐるりと周囲を回って“天雷”の主砲や機関砲から逃れながらも、脚部を中心に攻撃を加えていく。
そこで“天雷”は私をあまり脅威だとみなさなくなってきたのか、リーパーの方を狙い始めました。
「こっちを無視するならこっちにも手がありますよ、と!」
私は先に突入して全滅した歩兵部隊やアーマードスーツ部隊から、まだ使えそうな武器をテレキネシスで操って“天雷”を狙う。
電磁ライフルやグレネードランチャー、手榴弾などを一斉に浮かびあげて、“天雷”に向けて私はそれらを放ってやりました!
どれもあまり効果はなかったのですが、“天雷”は突然の不意打ちに混乱している。
「ナイスだ、ツムギ」
リーパーはそう言って“天雷”の砲塔に向けて飛び上がる。
「あばよ、ブリキ缶!」
そのまま“鬼喰らい”の刃が砲塔を真っ二つにし、制御系もろとも引き裂かれた“天雷”は崩れ落ち、衝撃で武装が暴発して爆発していく。
ドーンと衝撃波が響いたのを最後に、エレベーターエリアは静まり返った。
「大ボス撃破だ。ハイスコアだぞ」
爆発で生じた噴煙の中から何事もなかったかのようにリーパーが姿を見せ、私はリーパーの無事に安堵の息をついた。
「やりましたね、リーパー」
「お前もいいアシストだったぞ。かなり楽しめた」
「さいですか」
リーパーはよくこんな命がけの戦いを楽しむなんてことができるものです。
「しかし、“天雷”を送り込んでくるとはな。2050年に部隊配備が始まった最新型だぞ。日本陸軍と海軍の少数の部隊にしか配備されていないはずだが」
「クーデターは本気だったということでしょう。あれに突破されていたら、バンカーはひとたまりもなく落ちてしまったはずですよ」
「かもな」
そこで興味を失ったのか、リーパーは適当な生返事を返すだけ。
「これで仕事は完了、ですかね?」
「さあ? 俺としてはもっと続いてくれてもいいが」
「私がごめんですよ」
それから私たちはバンカーの警備を1時間ほど続けたが、さらに新手が訪れることもなく、静かに時間が過ぎていった。
それからしばらくした時だ。
『たった今、同盟派閥のクーデターは失敗に終わったと保安部から連絡があった。同盟派閥は降伏しつつある。このバンカーにも要人を送迎するための応援が向かっているそうだ。やったな!』
広瀬さんからそう連絡があり、私はふうと息を吐いた。
「だそうです。仕事は完了ですね」
「いや。どうにも妙な感じがする。まだ戦いが終わった感じじゃない」
「え……?」
リーパーはそこで不意に空気を入れ替え、真剣な表情を浮かべる。
エレベーターエリアに止まっていたエレベーターが動き出し、上層へと向かい始めるのをずっとリーパーは見ていた。
そして、次にエレベーターが降下してきたとき、そこにいたのは意外な人物だ。
「ジェーン・ドウ?」
そう、何故か彼女が武装した大井統合安全保障のコントラクターたちと一緒に、この地下バンカーを訪れたのである。
「リーパー、ツムギさん。要人の警護、ご苦労様でした」
「クーデターは終わったと聞きましたが……?」
私は何も言わないリーパーの方を横目で見ながらジェーン・ドウに尋ねる。
「ええ。現在、クーデターを試みた同盟派閥のメンバーは保安部によって拘束されつつあります。彼らも抵抗を諦めて降伏するか、国外への逃亡を始めました」
「だが、完全に終息したわけじゃない。だろ?」
ここでリーパーはにやりと笑ってそう尋ねる。
「相変わらず鋭いですね。その通りです。同盟派閥は現在、トーキョーヘイブンに立て籠もっています。それならば奪還すればいいのですが、問題は──」
ジェーン・ドウが僅かに眉間にしわを作る。
「彼らが統一ロシアから流出した1発の戦術核とともに立て籠もっているということです。それらが炸裂すればトーキョーヘイブンは全滅。優秀な科学者たちを我々は失う上に、TMCにも被害が生じてしまいます」
「せ、戦術核!?」
核爆弾と一緒にTMCの重要施設であるトーキョーヘイブンというアーコロジーに立て籠もっているとは……!
「そこであなた方にはこれからすぐにトーキョーヘイブンに飛んでもらい、戦術核を無力化するとともにトーキョーヘイブンを奪取していただきます」
「そ、そ、そんな無茶苦茶な!」
「リーパーはやる気満々ですよ?」
私が抗議するのにジェーン・ドウはリーパーの方を見る。
「いいぞ。任せておけ」
「リーパー! 本気ですか!?」
「ああ。至って本気だぞ」
ああ。そうでした。この人はそういうのが大好きなのでした……。
「では、早速トーキョーヘイブンに向かってください。核爆弾が炸裂しないことを期待しています。科学者にも、あなた方にも死なれるのは損害です」
ジェーン・ドウはそう言い、私たちに仕事を与えたのでした……。
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