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TMCジオフロント//夢の跡地

……………………


 ──TMCジオフロント//夢の跡地



 私たちは今現在、TMCの廃棄された地下空間にいる。


「地下鉄が作られるはずだった場所か。運び屋にとってはお宝だな」


「ですね。今も稼働している地下鉄とここが繋がっているなら、セクター1桁にも密輸ができますしね」


「ああ。そうでなくとも大井統合安全保障のドローンや衛星から逃れられる」


 TMCは空から常に見張られている。


 大井統合安全保障は大中小のドローンを常にTMC上空に飛行させている。それを使って犯罪者の追跡から交通管理まで行っているのだ。


 それに加えてTMC上空に複数の偵察衛星がある。今の偵察衛星のカメラは高度なもので、上空からでも人の顔を識別できるほどだ。


 だからこそ、こうしてTMCの地下に存在するこの空間は運び屋たちにとって何よりのものなのである。


「しかし、どこまで続いているんでしょうか……?」


「決まったルートがあるんだろう? カンタレラにルートを聞け」


「了解。まだ通信可能のようです」


 私はTMCの地下からカンタレラさんに連絡。


「無事に地下に到達しました。今は地下鉄の建設予定地みたいな場所にいます」


『凄い。都市伝説は本当だったんだね!』


「ええ。ここからどう動けばいいでしょうか?」


 私はそうカンタレラさんに尋ねる。


『まず地下鉄の駅の名前を確認できる? 新海宮駅なら予定の場所だよ』


「駅名ですか……」


 私は暗い地下の中を探る。


「あれじゃないのか?」


 リーパーは軍用の強力なタクティカルライトを取り出して、看板を照らした。


 そこには『新海宮駅』と確かにある。


「『新海宮駅』です。確認しました、カンタレラさん」


『オーケー。なら、まずは線路沿いに進んで。暫く進むと非常用のドアが見つかるから、そこまで進んでね』


「了解です」


 私たちはリーパーを先頭に地下鉄の線路沿いを歩いていく。


 ときどきネズミの鳴き声や虫が這いまわる音がかすかに聞こえていくるだけで、地下鉄の線路には人の気配などはまるでない。


「なんだか不気味ですね……」


「そうか? 脅威になりそうなものは何もいないようだが」


「誰もいないことが不気味なんですよ。大勢の人でにぎわっていたら、そこは普通の場所ですから」


「こんな場所に大勢人間がいる方が俺には不可解に思えるぞ」


「まあ、それはそうですけど…………」


 人がいない場所はお化けが出そうで怖いと言ってもリーパーは解せぬでしょう。


「それよりまだ非常用のドアってやつが見つからないぞ」


「結構歩きましたよね? そろそろじゃないです?」


「ふむ……」


 リーパーは地下トンネルの中をタクティカルライトで探る。


 すると──。


「あれか?」


 非常出入り口を示すピクトグラムが描かれたドアを発見。


 リーパーは早速ドアに近づく、それが開くかどうかを確認する。もちろん、ここを利用している運び屋がブービートラップの類を仕掛けていないかもしっかり確認した。


「オーケー。開くぞ。トラップの類もなしだ。どうする?」


「カンタレラさん。ドアを見つけました。ここを通るんですよね?」


 リーパーの報告に私はカンタレラさんに連絡する。


『うん。ドアの先にさらに地下に進む階段があるから、そこを降りていって。用心はしてね。これが噂されたのは結構昔で、今も崩れたりしてないか分からないから』


「分かりました。気を付けて進みます」


 カンタレラさんからさらに指示を受けて、私たちは扉を潜る。


 扉の先には非常階段らしきものがあり、上と下に繋がっていた。カンタレラさんは心配していたが、崩れたりしている様子はない。


「リーパー。ここから下に向かいますよ。大丈夫そうですか?」


「心配なのはガスの類だが、今のところ大丈夫そうだな」


「では、向かいましょう」


 私たちは再びリーパーを先頭に非常階段を下っていく。


 リーパーが周囲をタクティカルライトで照らすと、そこには落書きの類があった。ギャングの縄張りを示すそれとは違うが、どうやらここにも人は来ているらしい。


「TMCの地下のさらに地下か。何が待ち受けているやらな……」


 明らかにリーパーはワクワクしている様子だった。


「ちょっとした肝試しですね」


「ああ。スリリングな冒険だ」


 私の言葉にリーパーは頷き、ずっとずっと暗い地下に降りていった。


『ツムギちゃん。非常階段の傍に『大深度開発計画G-13』って表示がない? そろそろだと思うんだけど……』


「待ってください」


 カンタレラさんの言葉を受けて私たちは非常階段の周りを見渡す。


 おっと! ありました。『大深度開発計画G-13』の文字と『大東亜建設株式会社』という企業の名前が表示された看板です。


「ありました。ここにもドアがありますけど、ここを抜けるんですか?」


『そう。その扉を抜けたら、いよいよ地下都市が建設されるはずだった場所に出るはず。そこを開発していたのは今は大井の傘下に入った大東亜建設って会社で、そこを退職したって人間が地獄門の都市伝説を最初に伝えたってことになっている』


「なるほど。ということは、そろそろ…………?」


『そうなる。気を付けてね』


 私は都市伝説に確実に近づきつつあることに、背筋に冷たいものを感じた。


「ここまでは情報通りということか。楽しみになってきたな?」


「怖いやら、楽しいやら……。分かりません……」


 リーパーは冒険気分で先に進み、私はおっかなびっくりであとに続く。


「ここが地下都市が建設されるはずだった場所……」


 私たちの目の前に車道と思しき道路があり、その向こうには『目指そう、夢の未来都市! 完遂しよう、関東ダンジョン計画!』というスローガンを描いたポスターが色褪せながらも残っていた。


 その近くには『連続無事故達成日』と書かれた看板があり、その数字は『96日』となっていた。


 あとはひたすらなコンクリートの壁と金属の足場、そして放置された建築資材が存在するだけで、無機質な場所だった。


「壮大な夢物語のあとにしては随分と空しい光景だ」


「ですね。何兆円もかかったにしては、随分……」


 リーパーはそう言って周囲をタクティカルライトで照らし、私もそう呟く。


「カンタレラさん。今、ジオフロント予定地の前に入りました」


『了解。ここからが正念場だよ。まずはジオフロントにある建物の中に入らないといけない。都市伝説には秘密の入り口があるってあったけど、具体的な場所は記されてないんだ。だけど、その近くにあることは間違いないから探してみて』


「了解です。探してみますね」


 私はカンタレラさんにそう返し、周囲を探る。


「リーパー。秘密の入り口があるそうなので、それを探してください」


「そういうのは好きだぞ。どっちが先に見つけるか競争しようぜ」


「はいはい」


 リーパーはゲーム気分で周囲を探り、私も建設現場を調べていく。


 しかし、私が見た限りではここに入り口らしいものは、どこにも…………。


「あったぞ」


 そんなことを考えいたときリーパーが声を上げる。


「え! 本当ですか!?」


「これだろう?」


 リーパーが見つけたのは金属の足場の間にあった落し戸で、その落し戸から先にはしごがあり、さらにその先にはジオフロント内の建物に入るための鋼鉄製の扉が見える。


「やりましたね。これで中に入れそうですよ」


「そうだな。楽しくなってきたぞ」


 私たちはそれからはしごを下り、ジオフロント内の建物に入った。


「これは……!」


 私たちはそこで不気味なものを見つけた。


 いくつもの枯れた花束やお酒やジュースのボトルが手向けられた場所だ。


 それは事故が起きた場所などに設置される献花台のように見えたが……。


「慰霊の場、か?」


「みたいですね……」


 私たちはその周囲を探ると文字の書かれた看板を見つけた。


「……九大同時環太平洋地震ナイン・リング・ファイアとともに起きた事故の犠牲者が安らかに眠れますことを……」


「なるほど。あの地震で生じた事故の犠牲者への献花台か」


 九大同時環太平洋地震ナイン・リング・ファイア────。


 環太平洋圏であるカムチャッカ半島、関東、台北、ルソン島、クライストチャーチ、チリ中部、メキシコ中部、カリフォルニア、アラスカが一斉に大きな揺れと津波に襲われた大地震のことだ。


 このジオフロント計画が放棄された理由のひとつでもある。


「まさか地獄門ってのはこの献花台をオカルトスポットと勘違いした人が?」


「おい。それならとんだ無駄足だぞ」


 私が推測するのにリーパーは不満げだ。


 確かに慰霊の場を地獄門などと呼んでいた話だったというのは、あまり楽しくないオチでありますが……。


『ツムギちゃん。献花台は見えた?』


「ええ。まさかこれが地獄門じゃないですよね?」


『違うよ。地獄門はその先にあると言われている。あの地震で大勢が生き埋めになった、その先に……』


 カンタレラさんは静かにそう告げ、私たちはリーパーがタクティカルライトで照らすジオフロントのさらに内部に進む扉を見た。


……………………

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新連載連載中です! 「不老不死の勇者は死にたい」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
緯度35°の上空に静止衛星は飛ばせないんじゃ…… いや、軌道リングとか使えば不可能でもないのかな
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