愛のある生活//脱出
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──愛のある生活//脱出
乱入してきたリーパー。
彼はいきなり2体の生体機械化兵の首を刎ね飛ばすと、そのまま生体機械化兵たちと交戦を開始。
「新手だ! 迎え撃て!」
生体機械化兵たちはリーパーを狙って電磁ライフルの引き金を引く。
電気の弾ける音ともに極超音速で銃弾が飛翔し、リーパーに襲い掛かるが──。
「流石は生体機械化兵だ。楽しませてくれる!」
リーパーは放たれた銃弾を次々に叩き落としながら敵に肉薄。
「何だ、こいつは……──!?」
「3体目」
リーパーは3人目の生体機械化兵の首を刎ね飛ばし、ナノマシン入りの血液が空中に線を描く。
「弾が当たらない! どうなっている!?」
「どういう動きを……!」
やはりリーパーは特別だ。
彼は死神に避けられているかのように、死が近づかない。彼に近づく死は相手の死だけだ。
「そら、4体目。スコア更新だ」
リーパーは暴れ回り、先ほどまでは優勢だった生体機械化兵たちを蹴散らしていく。
大量の鮮血が舞い、既に彼の間合いにまで敵を収めたリーパーは敵を斬り、斬り倒し、斬り伏せ、まさに無双していた。
「畜生、畜生!」
「ラストワン」
リーパーは最後の生体機械化兵の首を刎ね飛ばし、子供のように無邪気に笑う。
「さて……。遅れて悪かったな、ツムギ」
「来てくれたなら十分です……。それにこれで一安心でしょう…………」
「それがそうでもない」
「どういうことです……?」
私が息も切れ切れに尋ねるのに、リーパーは慎重に周囲を見渡す。
「ここにいる大井統合安全保障の部隊は全滅した。そして、カンタレラに連絡したが、現在TMC内で不審なトラフィックがかなりの規模で検出されている。そしてトラフィックの発信元をカンタレラが特定した」
リーパーが告げる。
「非正規の仕事で動く民間軍事会社のものだった。さらに言えば連中は頻繁にメティス系列民間軍事会社であるベータ・セキュリティの下請けをやっている」
「やはりメティスが……。まだ襲撃が行われる可能性があるわけですね……?」
「そうだ。これからすぐに脱出してトーキョーヘイブンに戻るようにジェーン・ドウから指示を受けた。ここから出るぞ」
「了解」
私は鼻血を拭って、マグレガー博士の方を見る。
「動けますね、マグレガー博士?」
「あ、ああ。大丈夫だ。は、早く脱出しよう!」
マグレガー博士はそう言って立ち上がり、私もリーパーに続く。
リーパーは既に自分のSUVをエントランスに呼んでおり、彼は運転席に、私は助手席に、マグレガー博士は後部座席に乗り込んだ。
「出すぞ」
リーパーはSUVを急発進させて、道路に入る。
『リーパー? 聞こえる?』
「聞こえてるぞ、カンタレラ。どうした?」
『現在、TMCの航空管制に乱れが生じている。あちこちでドローンがクラッシュしている状態。それに紛れて敵がドローンを飛ばしている可能性もあるから警戒してね』
「分かった。どうにか切り抜けるさ」
この状態で敵のドローンまでとは。
「まあ、でも相手の狙いは分かっていますから、いきなり対戦車ミサイルで攻撃されることはないと思いますよ」
「どうしてだ?」
「敵の狙いはC-REAです。敵はマグレガー博士と同じ経験をして、同じデータを得ている彼女を強奪することでマグレガー博士の研究成果を盗むつもりです」
「なるほど。そいつは考え付かなかったな。ユニークな話だ」
私の言葉にリーパーがにやりと楽しげに笑う。
「ともあれ、敵もマクレガーの頭の中身を強奪するのが無理だと分かれば、やはり対戦車ミサイルを叩き込んできかねない。警戒は続けるぞ」
「了解です」
私たちは警戒を強めたまま、高速道路でトーキョーヘイブンを目指す。
「後方から不審な車両です。リーパー、警戒を!」
「ああ。任せておけ」
私は高速道路を後方から猛スピードで追い上げてくるSUV4台を確認。
リーパーはさらに速度を上げて、高速道路を駆け抜けようとする。
しかし────。
「やはり敵ですよ、あれ!」
SUVから武装した兵士が身を乗り出し、私たちの車両に向けて発砲を始めました!
「ひいいっ!」
ガンガンとリーパーのSUVの防弾ガラスに銃弾が命中しては激しい音を立てて、マグレガー博士が身を低くして悲鳴を上げる。
「このまま振り切るのは難しそうだな。ツムギ、少しハンドルを代われ」
「え? ええ? ええええー!?」
「早くしろ」
リーパーは私にハンドルを握らせると運転席側の扉を開いた。
「そら! ハイスピードアクションの時間だ!」
リーパーはそのまま運転席から飛び出して、後方を走っている敵の車両のボンネットに乗り移ったーっ!?!?
「まずはひとつ!」
リーパーは“鬼喰らい”の刃をSUVのフロントガラスから運転席と助手席に向けて振るって車両を横に裂く。
鮮血がフロントガラスに噴き出し、真っ赤に染まったフロントガラスの車両は蛇行しながら後方に流れていった。
そこでリーパーはさらに別の車両に乗り移り、攻撃を実行する。
「か、彼は何をしているんだ…………?」
「私が聞きたいですよ!」
リーパーは正気ではありません!
そして今の私は運転席に座り、必死に車を運転している。
足がアクセルとブレーキに届かないので両方のペダルはテレキネシスで操作し、後方で暴れているリーパーを回収するために速度を緩やかに落としていく。
「ははっ! これでみっつ!」
既にリーパーは3台の車両を撃破しており、最後の1台の撃破に向かっていた。
しかし、相手の車両もただではやられまいとリーパーがボンネットに乗っている車両に向けて体当たりしようとしている。
車のタイヤがアスファルトを刻み、猛スピードでリーパーの乗っている車両に向けて敵の車両が急接近していく。
このままではリーパーは弾き飛ばされて、道路に転落してしまいます!
「ラストワン、と」
しかし、リーパーは全く焦る様子もなく、勢いを付けて大きくジャンプし、接近した敵の車両のルーフに向けて飛び、“鬼喰らい”をルーフから運転席に向けて突き立てましたよ!?
運転手が脳天から貫かれて車両が蛇行を始め、リーパーはさらにそのまま助手席にいる人間も引き裂くと、私が接近させたリーパーのSUVに飛び乗ってくる。
「片付いたぞ」
リーパーはSUVのルーフから中に入ってきた。
「あんなの正気じゃありませんよ、リーパー!」
「そうか? しかし、ステージクリアだぞ」
リーパーは何食わぬ顔をしてそう言い、運転席に戻る。
確かに敵は撃破され、私たちはトーキョーヘイブンに順調に逃走中だ。
『リーパー! 今、TMCの航空管制が復旧したけど無許可の自爆ドローンが飛んでる! そっちを既にロックオンしてるみたいだから何とか振り切って!』
「なかなか飽きさせないでくれるじゃないか」
リーパーはカンタレラさんの言葉に楽しそうに笑っていた。
本当にこの男はぎりぎりの極限が大好きなのだ。どうかしてるってレベルで死が自分に迫るのを楽しんでいる。
そして、その死をねじ伏せることに快楽を得ている。
ですが、流石のリーパーでも飛んでくる自爆ドローンを迎撃するのは無理です。
「私の出番ですね」
私は助手席の窓から空を見上げる。
空から急速にこちらに向かっている小さな点を私は認識。
あれが自爆ドローンですね。ならば────。
「落ちろ」
私はテレキネシスで自爆ドローンを掴み、そのまま地面に叩きつけた。
自爆ドローンは車両がいない高速道路の地面に叩きつけられて、大爆発した。
「ひゅう! やはりお前は面白いぞ、ツムギ」
「はいはい。ですが、今日はもう私は動けません……」
私はそのまま能力の使い過ぎで激しい疲労と頭痛に襲われ、意識を手放した──。
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