TMCから愛を込めて//混沌が始まり、終わる
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──TMCから愛を込めて//混沌が始まり、終わる
私たちはリーパーを先頭に謎の武装勢力と民間軍事会社の戦闘が繰り広げられている裏口に向かっている。
銃声が近づくたびに激しくなり、激戦が展開されているようだ。
「ツムギ。お前はユージン・ストーンのお守りに徹しろ。障害は俺が排除する」
「任せていいんですね?」
「俺が期待を裏切ったことがあるか?」
「一応ありませんね」
リーパーは常に危険を突破してきた。
チャイニーズ・マフィアだろうと、民間軍事会社であろうと、脅威は常に突破してきた。実績は確かだ。
「そろそろだぞ」
そうリーパーが言い、私たちはエリュシオンのホテルスタッフが逃げたホテルのバックヤードに入る。
裏口まではすぐだ。
『──……撃て、撃て! 連中を突破させるな! ここで食い止めるぞ……──』
『──……どこの連中だ? エリュシオンに仕掛けるとはどうかしている……──』
交戦中の民間軍事会社のコントラクターたちの思考を私は盗み見る。
「絶賛交戦中のようですが、警備の民間軍事会社側も敵の正体が分かっていないようです。どこの連中なんでしょう?」
「さあ? 今はどうでもいいだろう。この手の謎解きはアクションの最中にするものじゃない。敵が敵だと分かればそれでいい」
「まずは生き残れ、と」
リーパーが言うことももっともです。
死んでしまっては相手の正体が分かっても意味がありません。
「さあ、戦場に突入だ」
リーパーはバックヤードの扉を蹴り破り、裏口に出た。
そこはまさしく戦場でした。
破壊された警備ボットの残骸が散らばり、バックヤードにあったコンテナなどで作られた急ごしらえの陣地から民間軍事会社の警備ボットとコントラクターたちが銃撃を繰り返している。
その銃口の先にいるのが所属不明の武装集団だ。
彼らの方は装甲が施されたSUVなどの車両を盾に銃撃を繰り広げており、その中には大口径の電磁ライフルを装備する生体機械化兵らしき人間も混じっていた。
電気の弾ける音とともに大口径ライフル弾が飛翔し、エリュシオンのコンクリートの外壁が爆破して砕ける。
「ほう。米軍の口径25ミリ電磁ライフルだな。今のは徹甲炸裂焼夷弾。どうやら元アメリカ海兵隊の連中がここにもいるのかもしれない」
「うへえ。あまりいい知らせではありませんね」
「そうか? やりがいがある敵だろう。攻略が考慮されていないなら別として、難易度は高すぎることはない」
「はあ。私はのんびり遊べるゲームが好きですねっと!」
私の方に飛来してきた銃弾を私はテレキネシスで受け止めて逸らす。
「リーパー。急いだ方がいいです。このままではユージン・ストーンどころか、私たちまでハチの巣ですよ」
「ああ。ここをすり抜けるぞ」
リーパーは仕込み杖から超高周波振動刀を抜き、裏口に面した業者用のゲートに向かう。だが、そこにたどり着くには謎の武装勢力の陣取る場所を突破する必要がある。
まさに銃弾が飛び交う戦場を進み、敵を倒して、ゲートを抜けるのだ。
「しっかりついてこいよ、ツムギ!」
「了解」
リーパーは飛び出し、私はユージン・ストーンを連れて続く。
「何だ、あいつらは!?」
「IDは敵じゃない! 招待客だ! 撃つな、撃つな!」
幸い、警備側の民間軍事会社は私たちを依然として客と認識しており、私たちは背後から銃弾を浴びるようなことはなかった。
「あれはユージン・ストーンだぞ! どうしてここにいる!?」
「目標を発見、目標を発見! やつを狙え!」
武装勢力側の狙いはやはりユージン・ストーンであるらしく、銃撃の矛先はすぐさまユージン・ストーンに向けられた。
「ツムギ、ユージン・ストーンを殺させるなよ」
「任せておいてください」
私はユージン・ストーンを狙う銃弾を受け止め続けては逸らす。銃弾は明後日の方向に向けて飛び、ユージン・ストーンはその様子を興味深そうに眺めていた。
「ほう。これはまさかパラテックか?」
ユージン・ストーンの口から洩れたのはパラテックという言葉。
「知ってるんですか?」
「今は生き残ることを考えるべきだと君の相棒は言っているが」
「そうですね。あとで好きなだけ質問させてもらいますよっと!」
私は無数の銃弾をそらし、そらし、そらし、弾く。
「いいぞ。このまま突破する────!」
リーパーは戦場を駆け抜けて、謎の武装勢力の方に突っ込んだ。
「なあっ! こいつは────」
「まずはワンキル!」
リーパーは謎の武装勢力が盾にしているSUVのボンネットに飛び乗り、そこから身をかがめて斬撃を繰り出した。
斬撃は敵の頭を鼻から上において刎ね飛ばし、頭部に移植されていたインプラントが剥き出しになった状態で敵は倒れる。
「サイバーサムライかっ!?」
「目標を変更! 近接してきたサイバーサムライを排除しろ!」
謎の武装勢力はその狙いをユージン・ストーンからリーパーに変更。
しかしながら、いつものリーパーマジックで彼を狙う銃弾は彼を掠めすらしない。
「元海兵隊にしてはお粗末な射撃だな?」
リーパーは不敵ににやりと笑い、次の獲物を狙う。
次の獲物の首が飛び、その次は袈裟懸けにばっさりと、さらにもうひとりが首を突きで貫かれて倒れる。さらに1体、2体、3体と次々に敵がリーパーの刃の餌食になった。
「ははっ。そろそろかなりのキルストリークが狙えそうだな」
リーパーは楽しげに笑い、子供のように殺しに夢中になっていた。
「リーパー! もう十分です! 逃げますよ!」
「分かった、分かった。先に行っていろ。すぐに追いつく」
リーパーはそう言いながらも戦場を離れようとしない。
「絶対に分かってませんよね? 行きますよ、ほら!」
「そう急かすなよ……。ここからが面白いっていうのに……」
私はそんなリーパーの背広の裾を掴んで引っ張り、リーパーはようやく撤退を開始。
私たちがゲートを抜けるとそこに1台のバンが駆けこんできた。
「ジェーン・ドウの使いだ! あんたがリーパーか!?」
「そうだ。遅いぞ」
「すまん、すまん! 早く乗ってくれ!」
私たちはやってきたバンの扉を開け、まずはユージン・ストーンを乗せ、それから私とリーパーが乗り込んだ。
「出すぞ!」
それからバンは急発進して、エリュシオンから離れていく。
「ジェーン・ドウ。ユージン・ストーンは無事確保できた」
『ご苦労様です、リーパー。しかし、エリュシオンは凄い騒ぎになりましたね……』
「俺たちのせいじゃない」
『分かっています。今のところ我々の関与は発覚していません。問題ありません』
ジェーン・ドウからそう連絡があった。
『ユージン・ストーンはそのまま運転手に任せていいです。あなた方は撤退してください。あとはこちらの問題です』
「了解」
リーパーはジェーン・ドウの言葉に頷く。
「さて、撤退命令が出たが聞きたいことがあるんだろう、ツムギ?」
「ええ。ユージン・ストーンはパラテックについて、そしてミネルヴァについて知っています。そのことを聞き出しておきたいですね」
私はリーパーに向けてそう言い、ユージン・ストーンを見る。
「10分だ。10分で聞けるだけのことを聞け」
「分かりました」
リーパーはそう言い、私は頷く。
「ユージン・ストーン。あなたはミネルヴァとパラテックについて知っていますね。知っていることを教えてください」
「ふむ。君自身、都市伝説以上にパラテックについて知っているようだね」
「ええ。この身をもって知っています」
ユージン・ストーンが決して焦った態度ではないのには感心した。彼は捕虜になっても冷静にしている。
流石はメティスの工作担当官です。
「質問に対する答えだが、私はある作戦においてミネルヴァについて調べていた。というのもミネルヴァには我々の研究者や技術者が企業亡命した可能性があるからだ」
「メティスの技術者が?」
「そうだ。我々は消えた研究者の足取りを追ってTMCにたどり着いた。我々は問題の研究者たちがミネルヴァと呼ばれる組織に企業亡命し、彼らに我が社の技術を漏洩させた可能性を強く疑っている」
テレパシーでユージン・ストーンの思考は盗み見ているが、彼は嘘をついていない。
「メティスのどのような技術が漏洩したと?」
「奇妙に聞こえるかもしれないが、私には理解できない技術だ。オカルト染みたものだよ。そう、化学式や数式の話ではなく、人の革で装丁された魔導書に記されたルーン文字がどうのこうのと」
「…………冗談ではなさそうですね」
「分かるのかね?」
「ええ」
ユージン・ストーンは本気で言っている。魔導書云々の話を。
「素晴らしいな。それがミネルヴァの生み出したものか。上が気にするのも分かる。上手くいっていれば、その技術は我々のものだったかもしれないとなるとな」
「メティスはパラテックについてどれだけの知識があるのですか?」
「知らないよ。私が魔法使いに見えるかね、お嬢さん? アーサー王に仕えた予言者や、またはキングス・クロス駅から特別な列車で行ける学校に通って魔術を学んだような人間に私が見えるかね?」
「だが、あなた方はそういう知識を扱っていた」
「一部の人間が、だ。メティスという企業を全体としてみれば我々は決してオカルトに本気になったりしていない。それが事実だ」
ユージン・ストーンの言っていることは全て事実で、彼はそれ以上のことを知らないのは間違いなかった。
「ツムギ。10分だ」
「分かりました。行きましょう」
リーパーに促され、私たちは停車したバンから降りる。
「予想外の収穫だったな」
「ええ。まさかメティスが…………」
メティスはパラテックを知っており、それどころかパラテックの出所は彼らである可能性すらある。
「どうやらこれから進展がありそうじゃないか」
「そう願いたいですね」
今回の仕事は最初はパラテック絡みではなかった。
あくまで仕事の目標は工作担当官であるユージン・ストーンの拘束であり、その目的は産業スパイの元締めを叩くことだ。
「さて、ジェーン・ドウから早速呼び出しが来てる。行くぞ」
「了解」
私たちがバンを降りたのは、真っ暗な寂れた住宅街で街灯が点滅している。
今の私のような状態だ。
私の辿る道も暗く、街灯は頼りにならない。
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