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TMCから愛を込めて//脱出

……………………


 ──TMCから愛を込めて//脱出



 突如として現れた武装集団。


「ショータイム」


 リーパーは仕込み杖から抜いた超高周波振動刀を構えて突撃。


「クソ。護衛(エスコート)がいる。情報と違うぞ」


「構わん。排除すればいい」


 突進するリーパーに向けて武装集団は一斉に発砲。


 サプレッサーの極限まで抑制された銃声がかすかに響く。


「やらせませんよ」


 私は武装集団の放った銃弾を受け止め、静止させる。


「いいぞ、ツムギ。ナイスアシストだ」


 リーパーは獰猛に笑い、最初の犠牲者に斬りかかった。


「ぐあっ……!」


「こいつ、サイバーサムライか……!」


 リーパーの生身とは思えない動きを前に武装集団に混乱が生じ、彼らはじりじりと後退し始めた。


「騒ぎを大きくすると脱出が難しくなりますから慎重にですよ、リーパー!」


「分かってる。静かに片付けるさ」


 軽い返事とともにリーパーは次の獲物を狙う。


「ぐうっ……!」


「畜生。マンダウン、マウンダウン!」


 超高周波振動刀が躍るように舞い、獲物を屠る。


 刀身がバックヤードのLEDライトの明かりを反射して煌めき、ナノマシン混じりの鮮血がその刀身の動きに沿って宙を飛ぶ。


 襲撃者たちには運がなかったとしかいいようがない。


 彼らが踏み込んだとき、既に彼らはリーパーの間合いに捉えられていたのだ。こうなっては銃火器のアドバンテージはほとんど存在しない。


「クソ、クソ。やってやる……! やってやるぜ…………!」


 ここで武装集団のひとりが短機関銃を捨て、腰からナイフを抜いた。男がナイフの柄を構えるとブンッと音がする。


 なるほど。超高周波振動ナイフですか。


「──へえ。面白そうなやつがいるな」


 案の定と言うべきか、リーパーがそのナイフを構えた男に興味を示す。


「くたばりやがれ、サイバーサムライ……!」


「おいおい。お互いにそう簡単にくたばったら楽しくないだろう?」


 リーパーは突き出されたナイフを軽く身を捻って躱し、その回避の動きを生かして回し蹴りを男の胴に叩き込んだ。


「クソ。こいつ、遊んでいるつもりか……!」


「イエス。結構楽しめてるぞ」


 ええ。リーパーは遊んでいる。


 彼の思考を読めば、そこにはいつもと同じ原始的な獣の本能が存在し、それに共鳴するように歓喜の感情が沸き起こってきている。


 それ以外、彼は何も考えていない。


「舐めやがって……!」


 ナイフを構えた男はこれ以上付き合ってられるかとばかりに猛攻に出る。


 突き、薙ぎ、払い、超高周波振動ナイフを巧みに操ってリーパーに挑む。


 しかし────。


「段々と動きが鈍ってきたな。これぐらいでもうお終いか?」


 リーパーは最小限の動きで、それら全ての攻撃を回避したばかりか、余裕の笑みまで浮かべていたのだ。


「クソ、クソ、クソ……!」


「それなりだな。楽しかったぞ」


 リーパーはそう言うと相手が焦って攻撃を繰り出したのをナイフごと弾き飛ばし、カウンターとして相手の喉に刃を突き立て抉るようにして抜いた。


「げぼっ……」


 ナイフの男は気泡の混じった血を漏らしながら地面に崩れ落ちる。


「次だ」


 リーパーはたじろぐ4名の男たちを見渡してそう宣言。


「怯むな。近接されなければ敵ではない」


「排除しろ」


 男たちは再びリーパーに銃口を向けて発砲しようとするが、そうはさせません。


「ていっ!」


 私はバックヤードにあった刃物を男たちに突き立てる。


 確実に相手を屠るため喉を狙った私の攻撃を前に4名の男たちは一瞬で片付けられた。全員が泡立った血を口と喉から流して、地面に倒れる。


「ははっ。こいつはいいな。やはりお前は面白いぞ、ツムギ」


「はいはい。今は仕事(ビズ)に集中を」


 リーパーは楽しそうですが、今はまずユージン・ストーンを連れて、ここから脱出することが最優先事項です。


「この業務用エレベーターで下まで行きましょう」


「待て。業務用エレベーターの下の出口で待ち伏せされていないか確認する」


 私が急かすのにリーパーはそう言い、まずはカンタレラさんが乗っ取っているエリュシオンの無人警備システムで業務用エレベーターの下層での出口を確認。


「おっと。さっきの清掃スタッフに偽装した連中がいるぞ」


「この連中、何者なんでしょう?」


「確かめてみるか」


 リーパーは床に倒れ、血の海に沈んでいる襲撃者たちの清掃服を脱がすと、そこに入れ墨を見つけた。


 その入れ墨は────。


「イーグル・グローブ・アンカー、か」


 白頭ワシ、地球、錨。そのような意匠の入れ墨が、男たちの皮膚にあった。


「これはどういうことなんですか?」


「こいつらが現役のアメリカ海兵隊員か、あるいは元海兵隊員ってことだ」


「海兵隊ですか……」


「しかし、元海兵隊員が民間軍事会社(PMSC)に転職するのは珍しくない。こいつらもどこかの民間軍事会社(PMSC)の雇われかもしれないな」


「問題はこいつらも、このユージン・ストーンを狙っていたということですね」


 私はそう言って拘束されているユージン・ストーンを指さす。


「ユージン・ストーン。お前が元海兵隊員に狙われる心当たりは?」


「私を拉致(スナッチ)しにきた君たちがそれを尋ねるのか? 襲撃の理由は他の誰より君たちが知っているはずだろう?」


「それもそうだな」


 まあ、私たちもユージン・ストーンを襲撃しに来た人間なんですよね。


「理由探しはあとだ。今は脱出しないとな」


「了解」


 私たちは業務用エレベーターに乗り込み、それで地上を目指す。


「リーパー。ジェーン・ドウの迎えは?」


「まだ連絡がない。どうも手間取っているようだな……」


「その割には嬉しそうですね」


「そりゃあそうだろう? あの規模の警備を相手にするのは、なかなかにやりごたえがあるだろうからな」


「さいですか」


 リーパーはまだ騒ぎを起こしたいらしい。やれやれです。


「ですが、できる限り静かにやりましょう。騒ぎが起きない方が仕事(ビズ)はすんなりいきますから」


「すんなり行き過ぎても面白くないだろ?」


「私は面白いです」


 それはゲームならばたくさんの爆弾が爆発し、敵がわんさか押し寄せ、銃弾が飛び交う中で大暴れするのは楽しいでしょう。


 でも、これは現実(リアル)です。ゲームじゃないんですよ。


 そんなことを私が思ったとき、ずうんと重低音の爆発音が響いた!


「今のは……」


「地上で爆発が起きたようだな。俺たち以外にもテロリストがいるのかもしれない」


「ええ……。これって不味いのでは…………?」


 このタイミングでテロとか勘弁してほしいのですが。


「さっきの連中の仲間からの連絡が途絶えたことで強硬手段に出た可能性もある。そうなると逆に好都合かもしれん」


「どうしてです?」


「エリュシオンのセキュリティは連中の相手で忙しくなる。ホテルから出入りする人間も完全には規制できなくるだろう。その隙に俺たちは脱出する。好都合だろう?」


「なるほど。図らずとも陽動になるわけですか」


「そういうことだ。騒ぎに乗じて脱出するプランもある」


 ほうほう。ジェーン・ドウの迎えが遅れて心配になっていましたが、これならば独力での脱出も可能かもしれません。


『リーパー、ツムギちゃん。爆発音は聞いた? 不味いことになってるよ。エリュシオンの1階エントランスで爆発が起きたのを確認している。それから裏口で謎の武装勢力とエリュシオンの警備に当たっているD-3プロテクトと戦闘状態になった』


「謎の武装勢力の連中とは既にこっちでも交戦したぞ。そっちで見える範囲に連中の所属を示すものは全くないのか?」


『ないね。けど、裏口からユージン・ストーンを連れ出すつもりだったんでしょ? 裏口は今や戦場だよ』


「へえ。いい知らせだな。これから戦場に飛び込むわけだ」


『全く、あんたってやつは……』


 本当に全くですよ。リーパーはどうかしてます。


 それから業務用エレベーターは1階に到着したが、既に1階では凄まじい爆発音と銃声が響き、ベータ・セキュリティとD-3プロテクトの両民間軍事会社(PMSC)が慌ただしく行動中でした。


「既に戦場だな。こいつは愉快だ」


「ユージン・ストーンが死んだらゲームオーバーですからね。そこら辺は分かってますよね、リーパー?」


「分かってる、分かってる」


 私の言葉にリーパーは適当に返事を返し、裏口に向かう。


『リーパー』


「ジェーン・ドウ。迎えはどうなっている? こっちでは別のパーティが始まったぞ」


『そのパーティのせいで予定が狂い、裏口に入れません。裏口からやや離れた地点に迎えは待機させてありますので、どうにかして突破してください。できますね?』


「了解だ。任せておけ」


 リーパーが笑う。楽しそうに、純粋に。



「さあて、俺たちにとってのパーティだ。飛び入り参加といこう」



……………………

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