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TMCから愛を込めて//潜入作戦

……………………


 ──TMCから愛を込めて//潜入作戦



「メティス・メディカル極東支社はTMC内の出資者向けにパーティを行う予定があります。パーティが開かれてるのはメティス・メディカル極東支社が貸切る予定のエリュシオン・プラザ・トーキョーです」


「エリュシオンか。また随分な場所だな」


「ええ。TMCの中でも最高級に分類されるホテルです。アメニティはもちろんセキュリティも万全で、国際的なブランドイメージも高い。中で荒事を起こせばやはり我々はテロリストとなってしまいます」


 エリュシオン────エリュシオン・プラザ・トーキョーは国際的なホテルチェーンであるエリュシオン・グループが経営するホテルのひとつだ。


 私はこんな高級ホテルには縁もゆかりもございませんでしたので、知っているのはこれぐらいである。


「だが、そのパーティとやらにユージン・ストーンは参加するんだろう?」


 リーパーは既にジェーン・ドウの作戦を見抜いている様子だ。


「ええ。ユージン・ストーンは広報職員として出席します。彼が確実にメティス・メディカル極東支社の外に出るのはこのタイミングしかないでしょう」


「支社とエリュシオンを移動するところを狙うか?」


「それも選択肢のひとつですが、恐らく正確な移動ルートの情報を得るのは困難です。ですので、ここは確実にエリュシオンで身柄を押さえたいと考えています」


 けど、エリュシオンを襲撃したらテロリストになってしまうと言っていたのにどうするんだろう?


「もちろんエリュシオンに押し入って拉致(スナッチ)しろなどとは言いません。私には計画があります。段階的に説明していきましょう」


 そう言ってジェーン・ドウは作戦を説明し始めた。


「まず我々はパーティ会場でユージン・ストーンを拉致(スナッチ)します。そのために必要なことは、最初にパーティ会場への潜入です。パーティ会場に忍び込めなければ、目標を拉致(スナッチ)することは不可能です」


「IDの偽装が必要だな」


「それだけでは十分ではありません。メティスはこのパーティにおいて、かなりのセキュリティを構築しています。不審なIDがあれば即座に警報が鳴り響くでしょう」


「ふむ。なら、成りすましか?」


「そうなります。パーティに招待されている客を拉致(スナッチ)して、その客に成りすまし、パーティに潜入するしかありません」


 ふむふむ。招待客にすり替わってパーティ会場に潜入するとかスパイみたいですね。


「パーティ会場への潜入のために招待客を拉致(スナッチ)し、彼らのIDを奪うことが第一段階です」


「第二段階は?」


「会場への潜入と目標の捜索です。ユージン・ストーンはホスト側として参加しており、常にパーティ会場にいるとは限りません。パーティの時間が有限である以上、素早くユージン・ストーンを見つける必要があります」


 そこで、とジェーン・ドウ。


「エリュシオンの無人警備システムに侵入し、同システムを利用して捜索を行います」


「え? け、けど、エリュシオンほどの高級ホテルならサイバーセキュリティもかなり高度なものなんじゃ……?」


「当たり前でしょう。外部からの侵入は不可能に近いと把握しています」


「ええー……」


 ハッキングできないものにどうやって侵入しろと?


「なら、直接接続(ハードワイヤード)か」


「そうです。エリュシオン内部にあるサーバールームに侵入し、バックドアを設置することで侵入を可能にするのです。この無線端末をサーバーに差し込めば、バックドアは自動的に作成されます」


「オーケー」


 リーパーはジェーン・ドウからとても小さな無線端末を受け取る。


「問題はサーバールームのセキュリティをまず突破しなければいけないということです。それも気づかれないように。エリュシオンのサーバールームの情報は入手していますが、やはり高度なセキュリティが備わっています」


「エリュシオンのセキュリティを制圧するために、エリュシオンのサーバールームのセキュリティを制圧する必要があるんですか……」


 RPGによくあるお使いのお使いみたいな話になってきました。


「迂遠なことは分かっていますが、必要なことです。それにこの作戦に必要な機材は準備してあります。これです」


 そこでジェーン・ドウからある情報が送られてきた。


「これは…………?」


 それはクモのような多脚のロボットの画像で、大きさは手のひらサイズのものであった。よくみるといろいろとマニュピレーターアームなどが備わっているのが分かる。


「リトルスパイダー。小型の無人地上車両(UGV)です。これに無線端末を持たせ、サーバールームの空調設備から侵入し、サーバーにバックドアを設置します」


「なるほど。これならいけそうですね」


 私たちが直接サーバールームに乗り込む必要はなく、このロボットを使ってこっそりサーバールームに侵入し、バックドアを設置してくればいいのだ。


「無人警備システムの制圧そのものは誰が?」


「あなたにはハッカーの伝手があったでしょう。それを頼ってください」


「あいつを、カンタレラを動員していいんだな?」


「構いません」


 カンタレラさんがいなければ私たちはマトリクスでの活動はさっぱりです。


「このようにしてエリュシオンの無人警備システムをハックしたのちに、ユージン・ストーンを捜索。そして、彼を拉致(スナッチ)します」


「どうやってエリュシオンの警備はもちろんメティスの保安部も目を光らさせている中からそいつを連れ出すか、だな」


「ええ。そこが最大の難関です。だから私としては殺害を提案したのですが、どうしても拉致(スナッチ)を、ということになりましたので、どうにかしなければいけません。一応方法は考えてあります」


 確かにどうやって人ひとりを厳重に警備されたホテルから拉致(スナッチ)するのか。それが最大の問題になるだろう。


「エリュシオンに出入りする業者のIDを偽造し、ホテルの裏口にある業務用の出入り口に私が手配する運び屋のトラックを乗り付けさせます。あなた方はそこにユージン・ストーンを連れていき、トラックに放り込む。以上です」


「実に簡単なように聞こえますが、本当に大丈夫なんですか?」


「最悪、ユージン・ストーンは殺害してください。拉致(スナッチ)は全てが順調に進んだ場合のオプションです」


「了解です」


 ジェーン・ドウはそう言い、私は頷く。


「こいつはなかなかの難易度だな。楽しめそうだ」


「いいですか、リーパー。くれぐれも静かにこの仕事(ビズ)は終わらせてください。我々はエリュシオンと揉めることも、表立ってメティスとことを荒げることも望んでいません。いいですね?」


「はいはい」


 ジェーン・ドウが厳重に言いつけるのにリーパーは生返事。


「で、だ。俺たちが成り代わる招待客に目星は付けてあるのか?」


「一応は候補があります。まずはオーウェン・リー。TMC在住の個人投資家で、メティスにも投資していることからパーティに招待されています。この人物が理想的なのは、この人物の知り合いと呼べる人間がパーティに招待されていないことですね」


「ツムギのIDはどうする?」


「オーウェン・リーには姪っ子がいます。それに成りすましましょう」


「ふむ。それが通じるならそれでいいが」


 リーパーの身分が偽装できれば、子供である私の方はさほど怪しまれないでしょう。


 …………多分。


「それでは早速ですがオーウェン・リーの拉致(スナッチ)をお願いします。彼の人物像(プロファイル)についてはデータを同封させてあります。彼の拉致(スナッチ)に失敗した場合はプランBが必要になるので確実にお願いします」


「了解だ。すぐに動こう。で、プランBってのは?」


 リーパーはジェーン・ドウに首を傾げて尋ねる。


「プランBは今現在存在しません」


 それに対してジェーン・ドウはそう言ったのだった。


……………………

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