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コロシアム//決闘

……………………


 ──コロシアム//決闘



 そして、翌日のこと。


「本当にやるんですか?」


 私はセクター13/6に向かうSUVの車内でそう尋ねる。


「やるぞ。約束したからな」


「そんなところで律義にならなくても……」


 リーパーはずっと頑なにそう言っており、イヴァン雷帝とのタイマン勝負を撤回する様子は全くなかった。


「では、くれぐれも死なないようにしてくださいね」


「言っただろう。負ける気はない、と」


 そんなリーパーは酷く余裕の様子だった。


 彼がどうしてここまで楽観的になれているのか。その理由が私には分かりません。


 相手は大井の最先端軍用インプラントをインストールしているというのに。


 私のそんな懸念をよそにSUVは『コンモドゥス』への入り口となっている回転寿司屋さんの前で止まり、私とリーパーは車を降りる。


 それから私たちは業務用エレベーターで地下に降り、『コンモドゥス』のエントランスに入った。


「ようこそ『コンモドゥス』へ!」


「ああ。今日は賭けに来たんじゃない。戦いに来た」


「存じております。控室へどうぞ!」


 リーパーはエントランスのバニーガールボットにそう言い、彼女に誘導されて選手控室へと通された。


 私もリーパーについていく。


「せめて作戦ぐらい教えてくれませんか?」


「作戦なんて必要ない。ただ戦うだけだ」


「はあ……」


 リーパーが何を考えているのか、さっぱり分かりません。


「では、私は技術の漏洩について調査しておきます。どうも社内から不正に持ち出された技術のようですからね。きっとあなたとイヴァン雷帝の試合を見に来た連中の中にいることでしょう」


「ああ。そうしてくれ」


 これ以上リーパーにどうこう言ってもしょうがないです。


 彼が勝てると自信満々な以上、彼は勝つでしょう。


 私はその間にインプラントを漏洩させた田中とやらを調べなければ。


 私は控室にいるリーパーと分かれてから、最終試合まで待つ。


 バーでオレンジジュースを貰い、それを飲みながら私は観客たちの思考を盗み聞き、問題のインプラントを漏洩させた人間を探した。


「皆さんお待ちかねの最終試合のお時間でーすっ!」


 ここでバニーガールボットがそう宣言した。


「今日は何と! 何とー! お客様の中から挑戦者が現れました! 我らが『コンモドゥス』の英雄イヴァン雷帝に挑むのはこちらの御仁!」


 バニーガールボットが言うようにリーパーが檻の前に現れた。


「お客様、お名前をお願いします!」


 バニーガールボットの質問にリーパーはにやりと笑う。


「リーパー」


 そして、彼は短くそう答えた。


「このリーパー様が我らがイヴァン雷帝に挑みます! ご注目ください!」


 バニーガールボットの案内の後に、リーパーはスーツのジャケットとシャツを脱ぎ、それらをバニーガールボットに投げつけると檻の中に入った。


 リーパーの鍛え抜かれた体には傷がたくさん。


 しかし、これまでの仕事(ビズ)で彼が負傷したことなんてありましたっけ?


「そして、我らがヒィィ──ロォォォォ───ッ! イヴァン雷帝!」


 控室から現れた巨体はイヴァン雷帝だ。


 正直、かなり心配です。


 リーパーは生身で、イヴァン雷帝はかなり高度に機械化した生体機械化兵マシナリー・ソルジャーですら殴り殺すような機械化をしている。


 さらにイヴァン雷帝には漏洩した軍用グレードのインプラントまで!


 リーパーが自信満々に言うから任せてしまったが、本当に大丈夫だろうか……?


「それでは本日の最終試合開始まで5秒! カウントダウンスタート!」


 それから死刑執行までのカウントのように5秒のカウントが始まる。


 5──イヴァン雷帝が以前のように低く身を構える。


 4──リーパーは準備運動と言うように手足をぶるぶると振るった。


 3──イヴァン雷帝は勝利を確信しているのか不敵な笑み。


 2──リーパーは子供のように楽しそうにしている。


 1──そして────。


 ゼロ────始まった。


 イヴァン雷帝は最初から猛攻撃をリーパーに対して仕掛けた。


 鋭いパンチが繰り出され、リーパーを狙う。


 命中すれば生体機械化兵マシナリー・ソルジャーですらノックアウトしたパンチだ。生身のリーパーが受ければ怪我では済まない。


 だが────。


「当たらない……?」


 イヴァン雷帝の攻撃は全く当たらない。


 いや、リーパーにかすりもしない。


 リーパーは左右に最小限の動きでイヴァン雷帝の打撃を躱し、顔には不敵な笑みだ。


「どうしたんだよ!?」


「素人なんてさっさと血祭りに上げろ!」


 イヴァン雷帝の攻撃が決まらないのに、観客がそう声を上げ始める。


 しかし、それでもイヴァン雷帝の攻撃は躱され続け、ついにリーパーが反撃に出た。


 イヴァン雷帝が盛大にミスした直後、リーパーの足が振り上げられてイヴァン雷帝の側頭部にハイキックが叩き込まれた。


 生身の人間から機械化された人間に叩き込まれたとは思えないほどの衝撃がイヴァン雷帝を襲い、彼がその衝撃によろめく。


 さらによろめいたところで顔面にリーパーがパンチを連続して叩き込み、イヴァン雷帝の頭がシェイクされるように揺れ、体もふらつき始めた。


「おおっとー!? まさかのリーパー様が優位の戦いだあっ! イヴァン雷帝は倒れてしまうのかーっ!?」


 バニーガールボットが実況に盛り上がる中で、リーパーはふらつくイヴァン雷帝の頭を掴み、顔面に膝蹴りを叩き込んだ。


 ガン、ガン、ガンとイヴァン雷帝の顔面に何発もの打撃が叩き込まれ、イヴァン雷帝の顔面が砕けていく。


 それからトドメとばかりにリーパーはイヴァン雷帝の頭を蹴り上げる。


 すると、ついにイヴァン雷帝はコンクリートの地面に崩れ落ちた。


「まだやるか?」


 リーパーがそう尋ねる相手は既に意識のなく倒れているイヴァン雷帝ではなく、観客たちの方であった。


「殺せ!」


「殺せ、殺せー!」


「殺しちまえ!」


 観客たちが叫ぶ中、ひとりだけ白い顔をしている男を私は見つけた。


『──……クソ! なんてこった! 死んだら死体を強奪(スナッチ)しないと会社から勝手にインプラントを持ち出したのがばれてしまう! ああ、こんなことになるなんて想定外だよ……──』


 おっとと? 見つけたようですね?


 私はその男性の背後に回り込み、彼が逃げ出さないように見張る。


「昔の、生を求めていたお前ならば俺に勝てたかもしれなかったのにな」


 リーパーはイヴァン雷帝を見下ろしてそう呟いていた。


「では、フィニッシュを!」


 バニーガールボットが檻の中に“鬼喰らい”を投げ込み、それを受け取ったリーパーはざくりとイヴァン雷帝の心臓を貫き、彼を完全に葬り去った。


 コンクリートの床にじわりとナノマシン入り血液が広がる。


「これで終わりだ」


 リーパーが血を帯びた“鬼喰らい”を掲げてそう言い、観客たちが湧く。


 そのような歓声などどうでもいいようにリーパーは反応を見せす檻から出ると、真っすぐ私の方に歩いてきた。


「そいつか」


「ええ。こいつです」


 私が男を指さして言うと、リーパーが“鬼喰らい”の刃を男に突き付ける。


「ジェーン・ドウがお前に話があるそうだ。一緒に来てもらおう」


「ま、ま、まさか大井の……!?」


「大人しく従った方がいいぞ。今日の俺はまだ殺したりない」


「ひえっ!」


 男は両手を上げ、リーパーと私はその男を連れて『コンモドゥス』を出た。


「ジェーン・ドウに連絡した。すぐに来るそうだ」


 リーパーがそう言うとセクター13/6の上空に1機のパワード・リフト機が現れて、道路に向けて降下を始めた。


 そのパワード・リフト機から降りてきたのは、ジェーン・ドウと大井統合安全保障のコントラクターたちだ。


「ご苦労様です、リーパー、ツムギさん。その男はこちらで預かります。それからインプラントは店の中ですね?」


「ああ。そうだ」


 リーパーは男をジェーン・ドウに引き渡し、大井統合安全保障のコントラクターは『コンモドゥス』に突入。


 それから彼らはイヴァン雷帝の死体を運びだすと、それをパワード・リフト機に乗せてあっという間に飛び去っていった。


「これで仕事(ビズ)は完了ですね」


「ああ」


「で、教えてくださいよ。どうして勝てるって思ったんです?」


 私がそうリーパーに尋ねる。


「シンプルだ」


 リーパーはいう。



「やつは魂を売り飛ばしたからだ。AIにな」



……………………

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