VIPサービス//帝都大学
本日2回目の更新です。
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──VIPサービス//帝都大学
私とリーパーの護衛の仕事は開始された。
「あたしがこの部屋にいるときはセキュリティはばっちりだからいいんだけどさ。大学に行っているときとか、友達のうちに遊びに行っているときが不味いわけ。そのときでいいから護衛してね」
「了解です」
「早速だけど今から大学行くから。ついてきて」
おっと。早速ですね。
「ねえねえ。イケメンさんは名前、何て言うの?」
「リーパー」
「カッコいいじゃん。彼女とかいる?」
「これが愛する存在だ」
メイジーさんの問いにリーパーは肩をすくめて“鬼喰らい”の柄を叩いた。
「いいね~! そういうの~! できる傭兵って感じがしてさ~!」
まあ、できる傭兵というのは間違いないだろう。
…………傭兵しかできないとはいいませんよ?
「メイジーさんはどうやって大学に?」
「ん。前は彼氏に送ってもらってたんだけどね。あいつ、シンガポールに逃げちゃったし。今日から暫く護衛と一緒にあんたらに頼むわ」
「分かりました。リーパーが運転するので、下に行きましょう」
「はいはい」
何だが足代わりにもされてしまったが、これも仕事のうちです。
それから私たちはメイジーさんを護衛しながらマンションの1階に降り、リーパーの車に乗り込んだ。
このセクター4/3から帝都大学まではさほど遠くなく、メイジーさんを乗せてリーパーは大学へと向かう。
帝都大学は名門大学だ。日本のエリートを養成している大学と言えるでしょう。
それだけあってセキュリティはばっちり。
大学のゲートにはリモートタレットや警備ボットが配置されており、ゲートを潜る車両や学生たちを常にスキャンしている。
「私たち、ここ通れなくないです?」
部外者は明らかに立ち入り禁止だろう厳重な警備のゲートを見て、私はメイジーさんにそう尋ねる。
「大丈夫。大学に申請してビジターIDを配布してもらったから。大学内ではこのIDを常にしておいて~」
メイジーさんは手際よく、私たちのための大学内で使用するIDを取得してくれており、それが私とリーパーに渡される。
「分かりました。では、進みましょう」
リーパーは車を進め、ゲートにいる警備ボットが私たちをスキャンする。
「どうぞお通りください」
ふう。無事に敷地内に入るのを許可されたようです。
「大学ではどういうことを習っているんだ?」
「いろいろ。ぶっちゃけあまり興味ないし」
「大学に通っているのに学問に興味がないのか?」
「名門大学出身って肩書がほしいだけだし。これがないと会社に入ってから困ったことになるから。だからどれだけ興味がなくても大学を出る必要がある。それだけの話よ」
「そいつは時間の無駄だな」
私もリーパーの意見に賛同です。大学に行くのにカリキュラムに興味がなく、学ぶ気もないのは時間の浪費に思えますよ。
「どうでもいいでしょ。どうせ大学で教わっても社会に出て役に立つ知識なんてさほどないんだから」
メイジーさんはそう開き直っていた。
それから私たちは大学の立体駐車場に車を止めて、メイジーさんと一緒に講義室に向かう。私たちのビジターIDでも講義室に入って、講義を聞くことはできるらしい。
まあ、聞いたところで私もリーパーも中身が理解できるとは思えませんがね。
「メイジー! そのイケメンどうしたの!? 新しい彼氏?」
「そーなの! って冗談、冗談。あたしの護衛だよ」
「ああ。元カレのトラブルの件だね」
メイジーは講義室で同じようにゴス系ファッションの女子学生とお喋りを始めた。どうもメイジーさんはトラブルの件を内緒にはしていないらしい。
「でも、いいでしょ? イケメンの護衛って」
「いいな~! 羨ましい~!」
本当に呑気ですね、メイジーさん。護衛する身としては、ちょっとぐらい危機感を持ってほしいです。
「でさ、メイジー。あとで一緒にキメに行かない? あんたの元カレのあとに商売始めたのがいるんだって。凄い上質のやつを扱ってるって」
「いいね。あとでいこう」
はあ…………。まさにジェーン・ドウの言葉通りですね。
ちょっと改変するなら『悪童は道を見つ出す。ただしドラッグへの道を』と。
それからメイジーさんに付き合ってしばらく講義を受けると、私たちはメイジーさんと彼女の友人に連れられて構内にある公園に向かった。さらに詳しく言えば公園にある監視カメラの死角になっている場所だ。
「あんたが新しい売人?」
「ああ。何が欲しい?」
そこにいたのはごく普通の男子学生で、ドラッグの売人をやっているようには見えない人物だ。彼はメイジーさんが話しかけるとにやりと笑ってみせた。
「飛び切り効くのがいい。疲れが消し飛ぶようなやつ」
「オーケー。なら、これだ。ブルーピルっていうすげえヤバいやつだぜ」
「いいじゃん。いくら?」
「500新円」
「どうぞ」
メイジーさんは売人に送金する。今の時代、個人間のお金のやり取りもキャッシュレスであり、BCI手術がARデバイスがあれば簡単にできてしまう。
「毎度あり。また来てくれよ。美人にはサービスするぜ」
「ありがと~」
メイジーさんは青い錠剤を売人から受け取り、笑顔でこの場を離れた。
「オールドドラッグなんですね」
私は疑問に思ったことを尋ねた。
今のご時世、オールドドラッグというのは珍しい。何せもっと安価で手に入れやすい電子ドラッグが今のジャンキーの主役だからである。
まあ、悪影響は電子ドラッグもオールドドラッグも同じだが。
「電子ドラッグはね。大学のマトリクスの氷に検知されて、自動的に通報されちゃうから。分かるでしょ?」
「そういうことですか」
大学内で過ごす学生は講義のときにはもちろんとして、食堂で食事をする際や、購買で物品を買う際、サークルでの活動の際にも大学のマトリクスに接続する。
そして、電子ドラッグはそのようなマトリクスの氷に有害なデータとして検出されてしまうのだ。
いくらまともに講義を受けていないメイジーさんでも電子ドラッグの件で通報されるのは面倒らしく、代わりに氷に検出されないオールドドラッグを楽しんでいるというわけである。
「龍哭閣だな」
「え?」
ここで不意にリーパーが言うのに私が首を傾げる。
「TMCでオールドドラッグを扱っているチャイニーズ・マフィアは数が少ない。その中でもセクター1桁で活動しているのは龍哭閣だけだ」
「詳しいんですね」
「前に仕事で潰した夢蛇はこいつらから生まれた勢力だ。そうジェーン・ドウから聞かされていた」
「ああ。前に潰したチャイニーズ・マフィアの、その分派ですか……。今回の件と関係あると思いますか?」
「どうだろうな。たまたまかもしれない」
リーパーはあまり関心はなさそうだった。
「脅威としては高いんですか?」
「いや。連中はただの犯罪組織だ。だから、このセクター1桁で活動できるような兵隊はさほど持っていないだろう。大井統合安全保障と喧嘩して、無傷で済むような連中じゃあないからな」
TMCのセクター1桁は前にも言ったように大井統合安全保障という民間軍事会社が警察業務に当たっている。
セクター2桁なんかとは違って、しっかりした警察業務が行われているので、このメイジーさんがいるセクター1桁に犯罪組織は入りにくい。そのはずだ。
「しかし、現にこうしてオールドドラッグが出回っているわけですから、全く忍び込めないというわけではなさそうです」
「大井統合安全保障に袖の下でも渡したかね」
私の推測にリーパーはそう言いながら周囲を見渡した。
「ここは平和すぎるな…………」
リーパーはそうぼやき、私たちはメイジーさんの護衛を継続した。
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本日の更新はこれで終了です(/・ω・)/