地獄の門が開く//侵略
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──地獄の門が開く//侵略
私とリーパーは引き続き、ミネルヴァの研究施設内を進んでいる。
「ツムギ。地獄門はどの位置にあるか、分かるか?」
「待ってください。テレパシーで探ってみます」
リーパーの求めに私はテレパシーを研究施設内に広げていく。
そして、私は地下の方からぞっとするような感触を捉えたのです。殺意とも憎悪ともとれるどす黒い感情が湧き上がっている何かが、ミネルヴァの研究施設のずっと地下の方から感じられた……!
「地下です、リーパー。もう既に開かれてしまっているようですが……」
「ふうん。じゃあ、悪魔どもを殺しながら地獄門を目指すか」
リーパーは楽しそうにそういう。
私たちはミネルヴァの研究施設内を駆け、地下へ、地下へと進む。
「侵入者だ!」
「クソ、クソ! どこもここも敵だらけだ!」
途中でパトリオットのコントラクターたちと接触したが、彼らは生き残るために戦っているという具合であった。それもうそうだろう。何故ならば────。
「ははっ。いたぞ、悪魔どもだ」
私たちの視線の先に映るのは、この世のものとは思えないカエルに似た巨大な化け物。それがパトリオットのコントラクターを生きたまま食い殺していた。
「畜生! この化け物──」
またひとりパトリオットのコントラクターが化け物に殺され、化け物たちの視線が私たちの方を向く。
「来ますよ、リーパー!」
「ああ。こっちからもいくさ!」
私は鉄片を浮かべて構え、リーパーは“鬼喰らい”を手に突撃。
「──────っ!」
意味不明な声を上げて化け物は私たちの方に襲い掛かる。
「てりゃー!」
私は鉄片を化け物に向けて放ち、化け物が一種怯む。
「意外に繊細だな? ええ?」
その隙にリーパーが肉薄し、化け物に向けて一閃。化け物は斬り裂かれ、地面に倒れると灰になって消えていった。
「不味いですね。もう悪魔があふれ出ていますよ」
「今から挽回すればいいだろ? いくぞ」
「もう、本当に楽観的ですね……」
「悲観してもいいことはない」
私の言葉にリーパーはそう返すと、再び地下へと前進を開始。
しかし、地下に向かわせまいとするかのように悪魔たちが私たちの行く手を遮ってくる。不気味な悪魔たちが次々に現れ、さらには──。
「悪魔の新手と……テレパシー兵!」
テレパシー兵を引き連れた悪魔たちが私たちの方に向かってきた!
「連中もテレパシー兵を操れるのか。練度の方はどうかな?」
リーパーは腕試しでもするかのように悪魔とテレパシー兵に襲い掛かる。
「援護します!」
私もテレパシー兵の乗っ取りを行い、テレパシー兵によって悪魔たちを攻撃させる。テレパシー兵の乗っ取りは負担が大きいが、それでもやらなければこの状況を生き残ることなどできない。
私の乗っ取ったテレパシー兵が電磁ライフルで悪魔を銃撃。しかし、あまり効果はない。1体ぐらいの攻撃では意味がないようです。
そうなれば────。
「えいっ!」
私は一斉に複数のテレパシー兵の思考に潜り込み、乗っ取りを実行。
悪魔はこれまで従えてきたテレパシー兵から一斉に銃撃を浴びてミンチと化す。
「いいぞ、ツムギ。この調子で進むとしよう」
リーパーも悪魔をぶち倒しながらそう言い、私たちは進み続ける。
『──……こちらウルフ司令官! コールドハーバー島に展開している全ての作戦要員に通達! クソッタレなミネルヴァと心中する必要はない! 隙を見て脱出せよ! 繰り返す……──』
テレパシーではウルフ元中将が脱出を命じていた。
「パトリオットは逃げるつもりのようです」
「そいつは残念だ。賑やかしが減るな」
「賑やかしって」
リーパーにとってはもはやパトリオットは脅威ですらないようです。
「また悪魔どもが来るぞ。ぶち抜いて突破するからな」
「アイアイサー!」
私はジョロウグモ君に乗ってリーパーのあとを追い、地下に向けて突き進む。
しかし、そのときだ。
「ARが……!」
ARデバイスに激しいノイズが走り、以前のようにルーン文字が浮かぶ。そのノイズは瞬く間に激しさを増し、ARデバイスは役に立たなくなってしまった。
「どうやら地獄門が近いらしいな」
「そうですね。私たちは近づいている……?」
「あるいは向こうの方が近づいているか」
リーパーが不吉なことを口にする。
地獄門に私たちが近づいているのではなく、地獄門が拡大することで私たちに近づいている。それは最悪の状態を意味します……!
「急ぎましょう、リーパー! このままだと本当に危険です!」
「そうだな。地獄に地球が呑み込まれたら仕事は失敗。もっともそれはそれで楽しそうだけどな」
「やめてくださいよ。縁起でもない」
リーパーが笑いながら言うのに私は渋い顔。
それから私たちはARデバイスを捨て、地下への前進を再開。
地下からは悪魔が次々に湧き出てくるのを斬り伏せ、焼き殺し、貫いて、私たちは地獄門の封鎖へ急いだ。
「そろそろ地獄門に到達するはずです!」
「オーケー。注意して進め」
リーパーがそう言い、私はテレパシーで索敵しながら地下に降りる。
そして、そこに広がっていたのは────。
「これは……!?」
富士先端技術研究所に生じた地獄門よりも遥かに大きな地獄への門が、そこには存在していた。赤黒く広がる空間が、地球の正常な空間を蝕み続け、その門は大きく拡大を続けていたのです!
「ほう。こいつは凄いな。まさに地獄と直通というわけだ」
「ど、どうやってこれを閉じたら……!?」
リーパーは地獄門を眺めてそう言い、私はどうして開いているかも分からない地獄門を前にうろたえるしかありません。
「ネテスハイム!」
そこで男性の怒号が響いた。
見ればパトリオットの軍服を纏った男性が、白衣の研究者に拳銃の銃口を向けている。あれはもしやパトリオットの最高経営責任者であるウルフ元中将……?
「これはどういうつもりだ! もはやお前たちミネルヴァが状況をコントロールできているとはとても思えん! すぐにこれをやめさせろ!」
ウルフ元中将はそう銃口を突き付けている研究者に命じる。
「不可能だ。もはや止めることなどできない」
「何だと……?」
「止めたところで大井とメティスにばらばらにされるだけだ。ならば、僅かな可能性に賭ける。この地獄に満ちたエネルギーを利用し、我々ミネルヴァはメガコーポを相手に戦うのだ」
「何を馬鹿なことを! 悪魔どもは我々も襲っているのだぞ!」
ウルフ元中将が叫ぶ。
ミネルヴァは地獄と悪魔を利用して大井とメティスの連合軍相手に戦おうというつもりだったようですが、どう考えたってそれが上手くいっていないのは明白です!
「必要な犠牲だ。今はこの不安定な地獄門でも移動できる質量の低い悪魔しか呼び込めていないが、やがて本当の悪魔たちがやってくる。この星を征服するために」
「征服だと」
研究者の言葉にウルフ元中将は拳銃を研究者の頭に向ける。
「今すぐにやめさせろ。さもなければここでお前を殺す」
「無理な相談だ」
「なら────」
ウルフ元中将が引き金を引こうとしたとき、彼の頭が爆ぜた。
それを引き起こしたのは私も知っている悪魔。
「サロメ…………!」
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