地獄の門が開く//コールドハーバー島
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──地獄の門が開く//コールドハーバー島
私たちはついにミネルヴァの拠点であるコールドハーバー島に乗り込んだ。
「さて、俺たちはここから深部へと突入だ。行くぞ」
「了解」
私たちが駆けだそうとしたとき、ジョロウグモ君がすすすっと私の方に来た。
「そいつはあんたらの援護のために付けておいてやる。使ってくれ」
「どうもです!」
私は前のようにジョロウグモ君の上に跨るとリーパーに続いてミネルヴァの研究施設に突撃した。
研究施設では立て籠もった部隊が大井とメティスの連合軍を退けようと必死になっている。大井は航空攻撃を続け、メティスは戦車を含めた機械化部隊を揚陸させつつあり、ミネルヴァは押されていた。
「ツムギ。テレパシーで索敵はしておけ。俺もほとんどのことは予期できるが、万が一の場合がある」
「了解です」
私はテレパシーで周囲の通信や思考を盗聴しながら、索敵を行う。
『──……クソ。橋頭保を完全に確保された。上陸は阻止できない……──』
『──……諦めるな。科学者どもが秘密兵器を起動するはずなんだ……──』
秘密兵器? まさか、この状況で地獄門を……?
「リーパー。敵はこの状況で地獄門を開くつもりかもしれません」
「へえ。敵も自棄になっているな。悪魔どもが自分たちに味方する保障など、どこにもないだろうに」
「ええ。最悪、全員殺されて終わりです」
「そうはさせんさ」
リーパーは相変わらず余裕の態度です。
『──……ドールを展開させろ。少しでも時間を稼ぐ……──』
私は次にこのような思考を傍受し、それと同時に猛烈な殺意を感じた。
「テレパシー兵が来ますよ、リーパー!」
「オーケー。楽しませてもらおう!」
私たちの行く手を遮るように強化外骨格を装備したテレパシー兵たちが展開し、電磁ライフルで私たちを銃撃してくる。
敵は遮蔽物を利用し、お互いを援護し、素早く行動している。テレパシー兵はいつもこのように優れた兵士として行動していた。
「お前たちの動きはひとつの生き物のようだ。だが、そうであるが故に対処しやすい」
だが、リーパーにとっては優秀すぎて面白みがない相手らしい。
リーパーは瞬く間に敵に肉薄し、敵を斬り伏せ、首を飛ばす。
「さあ、殺し合おうぜ」
絶好調のリーパー。未来の見える彼は全ての銃弾を弾き飛ばし、回避し、電磁ライフルを相手に日本刀で無双している。
「私も仕事をしましょう!」
私はテレパシーでテレパシー兵に送られている思念を妨害することにした。
電波と同じでテレパシーはテレパシーで妨害できるはずなのだ。実際に私は以前敵のテレパシー兵を乗っ取ることができた。ならば、ただ単にテレパシーを妨害することだって可能なはずである。
「えい!」
私はでたらめにテレパシーを流し、相手のテレパシーを妨害!
テレパシー兵の動きが鈍り、どうやら私の試みは成功したようだと分かりました。この調子でいっちゃいましょう!
リーパーが敵を斬り殺し、私はテレパシーでの妨害とテレキネシスでの攻撃を行いながら、どんどんミネルヴァの施設に押し入っていく。
『──……こちらウルフ司令官。コールドハーバー島に展開中の全部隊へ。何としても敵を重要区画に入れるな。徹底抗戦だ……──』
ウルフ司令官。パトリオット・オペレーションズの最高経営責任者であるウルフ元中将でしょうか?
「どうやらパトリオットの連中も粘っているようですよ、リーパー」
「ははっ! そうか。楽しめそうだ」
私の言葉にリーパーは本当に楽しそうにそう言い、研究施設内に押し入る。
かつて精神病院だった建物が、そのまま研究施設になっており、病院らしい構造の建物の中にはパトリオットのコントラクターや警備ボット、そしてテレパシー兵が急ごしらえの防衛線を作ろうとしていた。
「クソ。もうここまで来やがった……!」
「ここを通させるな! 殺せ!」
私とリーパーが突入してくるのにそれらの敵が一斉に私たちに向けて銃火器の銃口を向けてくる。
「撃て、撃て!」
盛大な銃声。無数の銃弾。
「ツムギ。テレパシー兵どもは任せる。俺はちゃんと脳みそがあるやつらの相手だ」
「了解」
リーパーは私にそう言い、私はテレパシー兵を撃破すべく、周囲にあった金属片を浮かべてテレキネシスでけしかける。
金属片はテレパシー兵たちを斬り裂くが、彼らを操っている人間は適切な判断をした。遮蔽物にテレパシー兵を隠し、そこから電磁ライフルで私を狙ってきたのだ。
「無駄です!」
私は電磁ライフルから放たれた大口径ライフル弾をテレキネシスで受け止め、さらには金属片を操って遮蔽物に隠れたテレパシー兵を背後から襲う。
それに加えてテレパシーの妨害まですれば、ほぼテレパシー兵は無力化できたも同然である。
私は未だ抵抗するテレパシー兵を撃破しながらリーパーの方を見る。
「そら、キルスコア更新!」
リーパーは暴れに暴れ回り、パトリオットのコントラクターたちを斬り倒している。敵は血の海に沈み、警備ボットも無力化されて行く。
「あっちは心配いらなそうです」
リーパーはいつも通り無傷突破するでしょう。
私の方は私の方でテレパシー兵の残存戦力を撃破しなければ────。
「!?」
そこで不意にARデバイスにノイズが生じた。私がうろたえるのに、ARデバイスにはあのルーン文字が浮かび上がり、それが画面を覆おうとし始めたのです!
「まさか……!」
「ふん? どうやら連中、地獄門を開いたようだな」
そうです! ついに地獄門が開いてしまったのです!
「リーパー! 急ぎましょう! 私たちの仕事の成功条件は地獄門が開き切ることを阻止することです!」
「分かってるさ。さっさと向かうとするか」
リーパーはそう言ってパトリオットのコントラクターの首を刎ね飛ばし、他のコントラクターたちも斬り伏せると研究施設の奥に向かう。
「ぎゃああああ────!」
そこで凄まじい悲鳴が聞こえてきました……!
「今のは……!?」
「さてな。悪魔に襲われでもしたか」
私は周囲にテレパシーの範囲を広げて状況の把握を急ぐ。
『──……こちらウルフ司令官! 地獄門から現れた悪魔が制御不能になっているぞ! やつらは友軍を襲っている! これはどういうつもりだ、ネテスハイム! どんなヘマをしやがった……──』
ウルフ元中将が叫んでいる。彼にとっても地獄門のことは予想外だったらしい。
「敵も混乱しています。どうやらミネルヴァも悪魔をコントロールはできていないようです。不味いことになりそうですね……」
「大井・メティス連合軍VSミネルヴァVS悪魔の三つ巴か。楽しそうだ!」
「あなたにとっては、でしょうね」
いつも通りのリーパーが道を切り開き、私たちは研究施設を奥へ、そして地下へと降りていくのだった。
私はジョロウグモ君に乗り、リーパーのあとを追う。
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