地獄の門が開く//空母“翔鶴”
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──地獄の門が開く//空母“翔鶴”
私たちを乗せた日本空軍の輸送機は北太平洋上に展開している空母“翔鶴”の飛行甲板に向けて降下を始めた。
「あれが空母“翔鶴”……」
「デカい船だな」
私とリーパーがそう感想を述べる中、輸送機は空母に着艦。
輸送機はそのまま私たちを降ろすと、すぐに飛び去った。
「ようこそ、空母“翔鶴”へ」
そう言って出迎えるのは日本海軍の兵士でも、大井統合安全保障のコントラクターでもなく、日本海軍によく似た軍服姿の謎の人物だ。
それからいつの日か見た警備ボットのジョロウグモ君がここにも!
「太平洋保安公司か」
リーパーはその男性を見てそう言った。
「イエス。コールドハーバー島強襲作戦について説明する。来てくれ」
男性はそう言うと私たちを空母の艦内に案内する。
「太平洋保安公司って?」
「大井系列の民間軍事会社だ。こういう荒っぽい作戦に動員される連中」
私の質問にリーパーはそう答える。
それから私たちは会議室みたいな場所に通された。その部屋の前にはやはり太平洋保安公司の部隊が歩哨に立っていて、警戒している。
「さて、諸君。我々はこれよりコールドハーバー島にあるミネルヴァの施設を制圧する。今回の作戦にはメティスとその系列企業、並びに日本国防軍及びカナダ統合軍が協力することになっている」
結構大規模な作戦になるようですね。
「コールドハーバー島へはふたつの方法で上陸する。ひとつはこの空母からのヘリボーン。そして、カナダ本土側からの船舶での上陸作戦だ」
コールドハーバー島はカナダのブリティッシュコロンビア州沖にある島で、その島に向けて北太平洋上の空母“翔鶴”とブリティッシュコロンビア州側から緑色の線が複数伸びている。
「まずは空母艦載機が敵防空網破壊を実施。これによって敵の地対空ミサイル及び対空火器を確実に破壊する」
まずは爆撃から開始されるようだ。敵だって私たちが攻め込んでくるのを想定しているでしょうし、当然ですね。
「さらに艦砲射撃を加えたのちに空中突撃作戦を実施。我々はパワード・リフト機で降下し、コールドハーバ-島の制圧を開始する」
作戦は徹底的に敵の抵抗を叩いたのちに地上部隊を投入するものらしい。
「島にいるミネルヴァの関係者は捕虜にする必要はない。同行する情報部隊が求めるもの以外は殺して構わん。以上だ」
作戦説明はそれから各部隊の役割などについて説明があり、傭兵である私たちにも役割が振られることに。
「傭兵にはとにかく研究所の深部に突っ込んでもらう。どうやら研究所内に大量破壊兵器の類があるという情報があるため、お前たちにはそれを迅速に無力化してもらう」
「任せておけ」
指揮官の命令にリーパーがにやり。
大量破壊兵器というのは恐らく地獄門のことでしょう。彼らミネルヴァは本当に地獄門を完全に開こうというつもりのようです……。
「作戦開始は1830。それまでに備えろ。以上」
そして作戦会議は終了した。
「リーパー。今も未来は見えていますか?」
「ああ。とはいえ、限定的だ」
「そうですか…………」
私はコールドハーバー島で自分が助かるのか、確実な情報が欲しかった。
それに地獄門が開くのも止めなければならない。そうしなければ生き残っても、この地球は地獄に飲み込まれてしまうのだ。
「心配しすぎるな。後ろ向きだと壁にぶつかるぞ」
「そうは言いますけど」
「まだ詰んだと思い込むには早い。これから巻き返すつもりで行け」
「はいはい」
私たちは空母“翔鶴”の中で出撃の時間を待った。
『全部隊、作戦開始、作戦開始』
艦内にそうアナウンスが響き、私たちが飛行甲板に出ると爆装した無人戦闘機が次々に飛び立ち、コールドハーバー島へと飛んで行った。
「始まったな」
「ええ」
いよいよ始まったのだ。ミネルヴァを解体する戦いが。
無人戦闘機が何度も発艦し、コールドハーバー島に向けて飛んで行く中、私たちもコールドハーバー島への突入を目指して動き始めた。
パワード・リフト機が空母のエレベーターによって格納庫から飛行甲板へと出され、そこに太平洋保安公司のコントラクターたちが集まる。
「行きましょう、リーパー」
「戦場に突入だ」
私とリーパーもパワード・リフト機の方に向かい、それに乗り込む。
「あ。この子も連れていくんですか?」
「ああ。以前の仕事で有用性がはっきりしたからな」
私がそう言ってみるのはジョロウグモ君で、彼は太平洋保安公司のコントラクターによってパワード・リフト機に私たちと載せられていた。
『ドードー・ゼロ・ワンより本部。準備完了』
『本部よりドードー・ゼロ・ワン。作戦開始だ。発艦を許可する』
空母内の本部からのその連絡ののちにパワード・リフト機は次々に離陸。私たちを乗せたパワード・リフト機もコールドハーバー島を目指して飛び立った。
暗い海の上をパワード・リフト機は滑るように飛行し、低空飛行で目的地に向かう。パワード・リフト機には空中援護の無人攻撃ヘリが同伴しており、砲爆撃での撃ち漏らしがあれば、それが始末する予定だとか。
「何はともあれ無事にコールドハーバー島に上陸しないと始まらないですね」
「そうだな。今はムービー中だ。俺たちにできることはさほどない」
私とリーパーはそう言葉を交わし、コールドハーバー島へ突撃するパワード・リフト機の内部で待った。
そして、空母“翔鶴”を飛び立って飛行すること30分余り。
「見えてきたぞ。コールドハーバー島だ」
同乗しているコントラクターのひとりがそう言い、私は前方を見る。
そこには黒煙を上げている島が映っていた。
島全体に広がるかつての精神病院だった施設。そこに設置されていた地対空ミサイルや対空火器が爆撃によって破壊され、築かれていただろう抵抗拠点も砲撃で粉砕されていた。
「まだ地獄の門は開いていないようだな」
リーパーは戦場になっている以外は異常はないコールドハーバー島を見てそう呟く。
「地獄そのものではありそうですけどね」
今も爆発が何度も生じているコールドハーバー島を見て私がそう返した。
『間もなく投下地点だ。備えろ』
パワード・リフト機のパイロットから連絡があり、私たちは降下に備える。
『降下開始、降下開始』
そして一斉にパワード・リフト機が高度を落としてコールドハーバー島に着陸しようとする。
『クソ! レーダー照射を受けている! 地対空ミサイルが生きてるぞ!』
パイロットが悲鳴を上げるようにそういい、パワード・リフト機が急旋回して回避運動を取った。私たちもパワード・リフト機の機内で揺さぶられ、急旋回によって生じたGに振り回される。
「させませんよっと!」
私は飛来する地対空ミサイルを捕えると、テレキネシスで破壊!
爆発が生じ、空中に爆炎が生じたがパワード・リフト機は無傷だ。
「ナイスだ、ツムギ」
「ムービー中に殺されてはかないませんからね」
私はリーパーにそう返し、パワード・リフト機は再びコールドハーバー島への着陸を目指していく。
『タッチダウンだ。ようこそ、戦場へ』
そして、私たちはコールドハーバー島に上陸した。
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