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04.エクスアーツ

「チュートリアルは一通り終わらせた?」

「はい。大体の操作方法とルールはわかりました」


 ぼくは怪我しないよう柔軟運動をした。ほゆ先輩はぼくの見よう見まねで、身体を伸ばしている。


 エクスアーツをプレイするため、地元の公園にやってきた。遊具は撤去され、芝生は禿げていた。人もいないので、ここなら誰かの邪魔にならずに遊べそうだった。

 リアリティ系のゲームは遊ぶための範囲、プレイングエリアを確保しなければならない。ぼくが普段使っているランニング用のアプリなら問題ないが、ジャンルによって必要な広さがある。


 エクスアーツのプレイングエリアは長さ2メートル、幅1メートルとなっている。フェンシングの細長い台のように縦に長く、横に細い。

 オンラインならば一人部屋の広さでもできるが、オフラインで対戦する場合は二人分以上のプレイングエリアを確保したほうがいい。


 スマートフォンからエクスアーツを起動させる。同期させたレンズに現実世界とゲームが重なるよう、視界が変化した。

 対戦モードを選んでゲーム内のガイドに従い、ぼくとほゆ先輩は充分に距離をおいて向かうように立つ。


「準備はいいね、晴くん! いくよー!」

「よろしくお願いします!」


 スマートフォンをタッチし、双方に試合開始を承認すると、視界にシグナルが発生した。


 3、2、1……。数字のシグナルに合わせて電子音が鳴る。


 0のシグナルと同時にゴングが鳴り、試合が開始された。


 視界に様々な情報が表示される。

 まずは自分自身と対戦相手、それぞれ5000ポイント分のライフゲージ。相手のライフを0にしたらラウンド1本獲得となる。

 ゲーム内の規定されたラウンド数を先取したプレイヤーの勝利となり、今回のルールで2本先取だ。


「うっ!」


 そして、最も大きく表示される情報がある。

 それはキャラクターだ。


 ぼくの目の前に、筋骨隆々の男性がいた。男性の正体は、ほゆ先輩が選択したキャラクターである。

 試合中、対戦相手のキャラクターが視界に出現する。ほゆ先輩には、ぼくが選んだキャラクターが映っているはずだ。


 3DCGのキャラクターが公園の地面を踏みしめ、こちらに向かってくる。まるで現実世界にいるようで、思わず尻込みしていると、ぼくの顔面にキャラクターの拳が当たった。

 視界に映るライフポイントが減った。こうして攻撃でダメージを与え、相手のプレイヤーライフを0にしたら勝利となる。


「うりゃー!」


 ほゆ先輩の声がキャラクターの背後から聞こえてくる。必死に両手で拳をつくり、連打していた。

 キャラクターの操作方法は、身体を動かすだけ。リアルタイムでプレイヤーの動きを記録し、キャラクターに投影される。先輩が殴れるモーションをしたら、キャラクターがぼくを殴ろうとしてくるのだ。これを『モーション攻撃』と呼ぶ。


「おっと!」


 すかさず胸部を守るように両腕を揃える。ぼくの全身に銀色のオーラが発現した。

 ほゆ先輩の攻撃が当たる。しかし、ぼくにダメージは入らなかった。

 エクスアーツの基本はモーション攻撃だが、特定のポージングを構えることでゲーム内の『コマンド技』になる。ガードポーズがそのひとつで、ダメージを受けなくなる。

 攻撃の手が止まり、ぼくはパンチで反撃した。


「うが!?」


 ほゆ先輩のキャラクターに2発ヒットする。ダメージが入り、ライフポイントが減っていた。


「こ、このー!」


 キャラクターが両手を組み、高く振り上げた。すると金色のオーラが発現する。攻撃タイプのコマンド技が決まった。

 ハンマーのように振り下ろされ、ぼくは後ろに下がり、攻撃をかわす。

 額に汗をかく。まだ20秒も動いていないのに、良い運動になった。


 ぼくもコマンド技を成功させようとしたが、初心者のせいもあり、中々決まらない。ポージングの判定はシビアで、コマンド技のはずのポージングは、ほとんどモーション攻撃としてゲーム内で出力された。


 難しいと思いながら、ぼくは蹴り技のポージングをする。両腕の位置、腰のひねり方、股より高く上げた右脚。ポージングに合わせ、身体を動かす。入力は0.1秒以下で判定される。赤色のオーラが発せられ、コマンド技となる。


 脚から炎が噴き出す。現実世界の僕の身体に、仮想世界の炎のエフェクトが重なる。

 蹴り上げた右脚が、ほゆ先輩のキャラクターの側頭部にヒットする。コマンド技の攻撃は、モーション攻撃よりもダメージが大きく、大幅にライフポイントが削れた。

 キャラクターが地面にダウンした。ふたりだけの公園に仮想世界の歓声が響く。


 1ラウンド目はぼくが勝利した。


 ゲームは2本先取、20秒のインターバルがはさんで2ラウンド目が始まる。


 2ラウンド目の試合内容は、ぼくの圧勝だった。ほゆ先輩は体力がなくなり、疲れがみえた。ガードのポージングの精度が甘くなり、攻撃が全てヒットした。


 ぼくは必殺技を放つ。

 ライフポイントとは別に必殺技ゲージがあった。自分が攻撃を与えたり、または受けるとゲージは溜まっていき、ゲージを消費することで技を出せるようになる。


 炎のエフェクトが再び噴き出す。今度は全身を覆い尽くし、それが右腕に一点集中し、先輩のキャラクターの腹に炸裂する。


 先輩のキャラクターは後ろへ吹き飛び、倒れた。


 ゲームは、ラウンドを2本先取したぼくの勝利に終わった。

 試合が終了すると、ほゆ先輩は地面にへたりこむ。


「だ、大丈夫ですか、先輩?」

「やっぱり、リアリティ系アクションは大変だね……」

「休憩します?」

「ううん、もうちょっと! ……でも、あと少しだけ休ませてほしいかも」


 ほゆ先輩は芝生に座ったまま休む。


「エクスアーツか」


 視線を落とし、自分の手を見る。ゆっくりと手を閉じ、拳をつくる。


「悪くない、かも」

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