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01.登校前、早朝のランニング

 早朝のランニングで、道端でスライムを見つけた。


「オレンジ色だ」


 シューズでスライムを蹴り上げる。遠くへ飛んでいき、道にバウンドした。光り輝くエフェクトを起こしてスライムは消え、電子音が鳴った。


「よし、300ポイント」


 視界のUIに表示される数値を確かめ、ランニングに戻った。

 ぼくの網膜にはコンタクトレンズ型のウェアラブルデバイスが装着されている。レンズには3DCGのモンスターたちが映し出され、現実世界の道路や木の上に、まるで本当に生きているかのように動いていた。

 モンスターは仮想現実を活用したアプリゲームによって姿を現している。レンズとスマートフォンをリンクさせ、ダウンロードしたゲームをレンズに表示して遊べるようになっている。

 単調なランニングコースもゲームのおかげで毎日違う風景になり、飽きなかった。


 コンビニの店頭に人が立っている。よく見ると人ではなく、仮想現実上のキャラクターだった。ゲームとコラボ中で、可愛い女の子が宣伝をしている。

 仮想現実を利用したサービスは一般的に『リアリティ系』と呼ばれ、公共や企業でも活用され、日常に溶け込み始めている。ぼくの日常生活にとっても身近な技術だ。


 ランニングコースを走り切り、帰宅する。時刻は午前六時半。登校するまで時間はあった。

 シャワーを浴び、汗を洗い流す。制服に着替え、朝食のためにリビングに向かう。

 

(はる)? おはよ」


 リビングに姉の(ゆう)がいた。ソファに座り、スマートフォンをいじっている。髪の毛には寝ぐせがついていた。


「姉ちゃん? 帰ってたんだ」

「昨日の夜からいたけど」


 姉ちゃんは今年の春から大学一年生になった。大学付近のアパートに住んでいるが、たまに服など私物を取りに帰ってくる。仲は悪くない、はず。


「平日の朝も走ってるんだ。部活、頑張ってる感じ?」

「ゲームにハマってるだけ。部活は文化部だし」

「たしかゲーム同好会だっけ。運動部のほうが向いてるのに」

「気乗りしなくて。それと、同好会の部長が良い人だったのが大きかった」

「女の子の先輩?」


 姉ちゃんはニヤけた。ぼくは黙って聞き流す。


「リアリティ系のゲームなら大学でも流行ってて、私もかじってる。謎解きとかで身体はあんまり動かさないけど。eスポーツとかに興味はないの? それこそリアリティ系だったら身体も動かせるし。これとか、どう?」


 スマートフォンの画面をぼくに見せてくる。


「『エクスアーツ』? 流行ってるの?」

「一番人気だって。詳しいわけじゃないけど、大学でもやってる人結構いた」


 ゲームの内容は、仮想現実に現れる対戦相手のアバターと戦う、リアリティ系のアクションゲームだった。興味が湧いていないといえばウソになる。


 キャッチコピーが目に入る。


「『最強のファイターに成れ』、ね」

「私は疲れるからイヤだけど、晴はいいんじゃない? 子供の頃はよくヒーローになりたいとか……」

「ごめん。そういうのは卒業したから」


 ぼくはスマートフォンから目を離し、朝食を待った。

 姉ちゃんは何か言いたげだったが、口を閉じた。


 朝食をすませ、登校前に洗面所で身だしなみを整えた。

 鏡に映る自分を見る。

 前髪をあげると隠れていた額の傷が晒された。

 なぞるように傷を触る。


「痛……」


 古傷は今も痛む。

 思い出すたびに鈍くうずく。

 鼓動のように。

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