垂れ流し7
社会人鬱が収まったと思ったら今度は元気が出過ぎて筆が走らなかった時代。
会話文に出てくる人間に固定のキャラはいません。
ただいるだけです。
許せないというわけではなく、人は平等に死んでいくものだと肌で理解した。こんなことを考えている今この瞬間にも、彼女の体から暖かさが失われていく。
どこで間違ったのだろう。どこかで願いすぎてしまったのだろうか。
ただ今は、ひたすらに彼女が惜しい。
俺たちは、こんな死に方をするほど愚かだっただろうか。どうして、どうして。
「どうしたもこうしたもないだろう」
悪魔は宣った。
「幸せの閾値は個々人であまりに違いすぎる。お前らの幸せは誰かの不幸であり、逆もまた然りだ」
「ならば、だれかが、誰かがこの子の死を望んだのか? 誰がこの子の死体を見て幸せになるというんだ!」
「誰も望んでなどいない。それは俺の知るところじゃない。強いて言うなら、そう、たまたま彼女だった。それだけさ」
幸も不幸も誰かの主観で変わるものであるが故に、釣り合いの取れるものではない。世に絶対はなく、偶然で人は生まれ、死に、出会い、別れる。だから、彼女の死は運命などでは無く、ただ発生しただけの事象に過ぎないのだと、悪魔は告げた。そんな話をしているうちに彼女は僕の火照る身体を鎮めるほどに冷たくなっていて。
*
昔から健康な人間であったので、些細な擦り傷や多少の微熱を殊更持て囃し、内心怖がっていた。健康とは、すなわち劇的ではないことの証左であり、同情を引く術がないことを言う。
蟻の額ほどもない小さな切り傷を友人達から心配してもらう傍、いざ医者にかかるとなるとこんなチンケなことでもっと重篤な人間の命の時間を奪っているような罪悪感がむくりと起こり、ひどく恥ずかしい気分になった。
人の言う言葉の真偽を確かめる術を知らぬので、お世辞を間に受けたり、真剣な忠告を無下にすることがある。この傷にしたってそうで、やれひどい傷だ、縫う必要があるかもしれん、などと言われてひどく恐ろしくなり、痛む膝を引きずって夜半に医院の戸を叩いた。しかし、つっけんどんに差し出された問診票に名前を書き、やっと顔を見せた看護師に怪我の事情を説明していくうちに、この傷が本当にちっぽけな、唾でもつけておけば治る傷に違いないような気がしてきて、あぁ、あいつらに騙されたのかと脱力した。
医者にかかるのも安くはない。まして夜分の飛び込みと有れば、お医者様と話をするだけで街の喫茶なんかよりも金が飛ぶ。余裕がないわけではないが、自分の傷を見るほど、そこまで金を払ってまで直す価値のある傷とも思えない。しかしここまで来てしまった以上、開き直って最高の治療を受けるしかないのであろう。
はぁ、と漏れ出た溜息を隠しもせず、無音の待合室のソファで項垂れていた。傷からの汁は、依然止まる気配はない。
*
助けてと嘆くのも面倒なので、ただこの万年床で生活の全てを終えたい
*
私に幸福かを聞いた貴方は、酷く泣きそうな顔をしていましたね。
*
返答を聞いた彼は、そうか、とだけいうと踵を返して帰ろうとするものだから、慌てて呼び止める。
「な、名前を!貴方の名前を私は知らない!」
するりと口をつく質問。幸運にもこれは彼をもう一度だけ振り返らせることに成功した。
*
嫌な笑みを浮かべないでよ。
*
美しい日々を眺めていたかった。
*
「どこにも行くな!!!!」
自分でも驚くほどに声が出て、思わず手で口を覆った。これは、なんだ。私は何を口走っている? あの男が戦場へ行くのは変えられぬ事実で、そして戻ってきた後のことなどまるで考えていないのも知っていて、だのに、どうして。
否定しなければ、送り出してやらねば。わかっているのに、口からは彼を引き止める言葉ばかりが飛び出てきそうで、何も言ってやれない。
「―――。」
存外近い距離で、名前を呼ばれて、反射的に見上げる。あぁ。君にそんな顔をさせたかったわけではないのに。
「お前はどうしたい?」
君が私に問う。そんなこと、言って許されるわけがない。私は口を噤んだまま首を振った。もう何も聞くな、話すな。私など捨て置いてさっさと行ってしまえ!
*
君にここにいてほしい、誰かを殺したり誰かに殺されたり、そんなこととは無縁のままここでひっそり二人で暮らそう。ただ君が生きて、笑っていてくれるなら、私はそれだけでいいんだ。
*
知らない土地に来ると、胸がキュッと切なさを訴えてくる。喉元まで迫り上がるような、あるいはもう少しで腹の底に落ちそうな、ひどく半端なもどかしさであるが、言うほど不快でもない。
*
鬱蒼と森の中で夢を見ていた。深い微睡みと緩やかな覚醒の波に揺蕩う中で、長い長い、夢を。
*
美しい言葉を紡ぐには、その凝り固まったプライドや見栄から離れて、君自身でいるべきだ。
*
人を愛するという行為について君はどういう意見を持っているのかな。なぜ人は人を愛する? 愛するにもさまざまな種類があるから、その定義分類から始めないといけないけれど。家族と恋人では異なるし、友人も違うわね。
まあここでは、恋人を作り、愛するということについて考えるか。多分、他の愛と被ることは多いとは思うけれど。
『なぜひとを愛しますか?』と聞かれれば、『愛されたいからです』と返す他ない。私はいつも寂しかった。愛されたかった。愛されなかったわけではない。だが、足りなかった。でも愛してとねだるのはわがままだから。口を噤んだほうがいいでしょう。募るのは私の寂しさばかりでいいの。
*
自己犠牲は怠惰です。誰かに頼る術を知らなかった。頼るための労力さえ惜しんだから一人で(できもしないくせに)なんでも抱え込んだ。
死んじまえ!
*
なんの価値もねえな。
*
私の大半は怠惰で形作られている。あらゆることが面倒だから息絶えてしまいたいとさえ願っているけれど、それを叶えることも一苦労なので漫然と漠然と仕方がなく生きています。
*
失った空白でしか愛を確かめられない君へ
*
「俺はお前を愛せないけど、お前の愛を俺は全部受け止めてやる。大丈夫、片想いは辛いけど終わらないんだ。」
*
あのね、あのね。
私、あなたが私以外の誰かを愛しているから好きなの。あなたは決して私を好きにならないから、好きなの。
*
愛だ恋だとひとしきり騒いでから、大袈裟すぎると全てを否定する。それを延々と繰り返している。抜け出せない堂々巡り、成長しない思考回路。
*
「夜更かしがつらくなる頃になってまいりました。愉快な私がこんばんは!」
本当の私は剽軽だと言いたいわけ? でもそれは葉蔵を真似た作られた剽軽さで私じゃないと思っているの。
「わかるよ。私はいつでもいろんなものに影響を受けて生きていて、逆にオリジナリティがあるものなんて一つもないから、生き方一つとってもそれが私とは言い切れないんだ。」
じゃあ、あなたは『私』をどう定義するの。
「ない! わからない! やることなすこと、全部誰かのマネになりはしないかと思うんだ。仕事だってなんだってね! 真似とパクりと指導の賜物とは何が違うんだい?行き着く先は同じだけど気の持ちようが違うのかな?」
確かにそれは難しい問題ね。それこそオリジナリティを求めるなら指導の賜物でさえそのまま使うのは許されないわ。より効率化させる、あるいは非効率化することで差別化を図る必要があるでしょう。
「全く面倒だな。」
でもそれがきっと進歩、進化というものなのね。昨日より今日、今日より明日が進歩していくように。
「最悪だぜ。怠惰な私の嫌いなものは、学習、変化、能動的な行動、なわけだから、このままじゃあ生き物の理に逆らってしまうのか?」
まあ、然るべきタイミングで絶滅するんじゃないかしら。人間って存在自体が地球へ悪影響を及ぼしてるわけだし、地球の自浄作用と化石のような旧人間ゆえに絶滅。
「ありうる」
*
突き詰めれば何も必要性がない世の中では、かけがえのないものひとつでも持っていないとたちまち崩れそうになってしまうから、それを希望と呼んだ。何でもないような過去を美しい憧憬と偽って、君との名状し難い関係を一括りに友情と言って、乾いた泥の土台の上に何とか立っている。
*
笑い話にするには眩しすぎて、抱き続けるには美しすぎた。年々汚れていく僕を、少年の日のぼくに見せたくはない。
*
芯の通った人間じゃなかった。いつでもその場凌ぎで誤魔化して生きてきた。本当にやりたいことなんて何もなかったし、心から好きなものもなかった。何となく生きてきた。これからだってそうしていくよ。それしか知らないんだから。困難なことは嫌いだ。苦労はしたくない。心をすり減らしながら生きていくのは、辛い。
生きることに真面目すぎると言われたけれど、誰も正しい生き方なんて教えてくれなかったよ。
「万物羅生、全てを他人が教えてくれると信じていたのか? そんな怠惰なことはない! 誰であっても獣であっても、選び取り、努力している。誰かに従って生きていくことは楽だろうが、人間のあるべき姿ではない。」
*
理想の人間像と、私はあまりに乖離しているが、仕方のないことだろう。私が理想になりたいのではなく、そう言った人間が好きという、好みの話だからだ。だが、その人間たちに決して愛されることのない私が嫌いじゃないと言ったら嘘になる。
結局は堂々巡りの思考迷路、袋小路、時間稼ぎ。前に進めない理由を知っているから何とか言い訳し続けている。
「嘘つき。」
私がわたしに後ろ指を刺すのだって、今日に始まった話ではない。私とわたしの殺し合い、傷の舐め合い、自己完結した悲観的心象風景。
救いようがない怠惰とトラジェディー気取りの人間をどうすれば真人間にできるのかな。
*
正しい人間とは? 間違った人間とは? 倫理観? 正義さえ不定形の世界で罪を語っちゃいけないだろう。人は皆罪人であり、正義は摩耗していく。
*
助けてくれ…。
*
何から救われたいのかわからない。
何をしたいのかわからない。
昔から好きだったものひとつぐらい覚えていないの?
オーパーツが好きでした。
よくわからないものが好きだったんです。
ピラミッドなんて、いつ見ても聞いても心が躍ったわ。
オカルトが何でも好きだったわけじゃないのよ。
確実に存在はしているのに、技術も何もかもが謎に包まれているのが好き。
その幾重にも包まれた謎のベールが長い年月をかけて一枚ずつ剥がされていくのも素敵。
詳しくは才悩人応援歌を聞いてください。
*
薄ら暗い私の微笑み
*
美しい夢を見た。世界には僕と君だけがいて、森の中の一軒家で静かに暮らす夢だ。何も奪わず、誰も傷つけず、二人で慎ましく暮らしていた。
*
何かしながら眠るのが一番幸せ
*
お前はお前が思っているよりずっとまともだよ。残念ながらね。
*
夢ばかり見てたのね。彼女は悲しく微笑んだ。この街はすっかり変わり果てたけれど、それさえ日常茶飯事であり、むしろそれが当たり前である。ただ、時間的な隔たりだけは、この街の本当に奥深くまで入り込まなければ解消できないだろうし、そうすることは決して望んでいない。
そう、ただ、夢を見ていた。自分自身が消え去ったこの街は、今も私を覚えていて、私も、この街での思い出を必死にかき集めて抱きしめていた。そう信じていた。
人の死は生命活動の停止であるが、忘却されることもまた死と言える。私がいくら私を定義しようとも、他者から観測された私こそが世に言う私である。であれば、他者の定義によって確立されたはずの私を、誰もが忘れていたら。それは死であり、あるいは誕生である。
生まれる前は死んでいた、と簡潔に言えるほどのことではないけれどね。
だから、諦めることにした。こう言うと、君は私がまるで敗北したかのような、悲観的な視点に立っていると思うかもしれないが、そうじゃあない。私は至極前向きである。
私は先日、人は成長し変わってゆくというひどく当然のことを学んだ。いつまでも、私が愛していた頃の街を想い続けても仕方がないのだ。失恋を失恋として受け入れ、前を向かなくてはいけない。この街は私を知らないけれど、それでも私はこの街を愛していて、そしてそれはもう恋ではない。ただ、愛している。
*
何度でも言うよ。美しい言葉だけを奏でて、愛でて、そして死にたい。
*
あなたとの思い出の花弁を、腐るまで抱きしめている。
*
死ぬから好き。悔しい。死なないで欲しいけど。立ち上がる人間が好きだから。
*
「あら、知らないの? 青春は過ぎ去るからこそなのよ?」
彼女は寂しそうに、しかし晴れやかに笑った。誰かを心から愛した記憶は、結末がどうあれ、幸せな宝物なのだと。
*
「あの人は、そうね、自由な人なの。だから、たまに帰ってくるぐらいが安心するわ!」
*
摩擦、故に摩耗。靴擦れ、魚の目、擦り傷、瘡蓋。
摩耗、故に防護。精神防壁、あるいは奇行。素面の道化。
防護、故に孤独。なすべきことをなさず。
*
アスファルトを裸足で駆けるような苦行。
*
君の手を取って輪舞曲、二人きり、いつかのホールで。
*
左手で隠した、その口は笑んでいる。
*
綺麗な言葉で着飾ったところで、人は孤独に勝てない。
*
「好きだよぅ、どうしようもなく。恋は確かに罪だ。ただ君を想い終わればよかったのに、どうしても君が欲しいんだ。君から愛されたい。愛されたい! そうしたら僕は、君の愛を求めて恋焦がれているのだろうか? それは果たして真の恋愛なのだろうか? 恋愛とは人生の酩酊であるから、真も嘘もあったものではないがね。ギブアンドテークな関係は社会だけで十分だ。僕と一緒に堕ちてくれよ、どこまでも。」
「てめえの嫌いなとこなら幾つでも思いつくぜ。理屈っぽいし、自己否定を自己満足に利用してるし。あとは、そうさな、とびっきりの意気地なしってところか。堕ちてくれというなら、俺の了解なんて得ずに無理矢理腕を掴めばよかったんだ。」
「ひどいよ、僕がそうできないことを知っているのに。いや、互いにか。これは恋ではなく依存なのかもな。僕たちは互いを想いすぎた。想い、好きだから。互いを待ち続けてしまった。自主性の欠如、委ねることの代償。あぁ死にたい。」
*
俺はいつだって誰かの過去であるけれど、だからといって何もできないわけではないんだ。
*
不可逆のはずの時間を刻む時計は円環を模し、回りながら留まっている。
*
今日も明日も明後日も、変わりなく凪いだ世界で生きていきたいって、君も思うでしょう?
*
山がずいぶん緑。
*
正しさなんてものは移ろうものだし、そもそも存在しないものなのだから、ああだこうだ言ってもしようがない。その人の哲学に従って生きているなら、僕たちはそれを阻害するわけにはいくまい。しかし、それが多くを脅かすものであったなら、それは集団によって消される。当然さ。僕たちは社会的動物なのだから、大きく逸脱し害をなす個を許すわけにはいかんのだよ。
*
「愚か故に愛おしいのよ」
*
有象無象には其れたる所以があるのさ。
*
世界をあるがままに愛することはできなかった。私の愛する人間はこの世にはいないのだ。だから空想に恋をする。
*
人は死ぬ、いずれ死ぬ。事実を告げている。偏見なく、区別なく、衒いなく、冗談でもなく。我々は死を運命づけられた生き物である。
*
今朝から始終胸を締め付けるこの切なさの正体を、無意識の私の呟きから察するとは思いもしなかった。うっかり漏れ出た「死にたい」という一言で、(ああ、私は死にたかったのか)と、妙に得心したのであった。
*
美しい朝など知りもせぬ。
*
愛を語るものが愛するものと一つになれないと言うのは、大きな矛盾を孕んでいるとは思わないか。
*
「愛されるために人を愛するなんて、馬鹿げてると思わないか?」
彼女は強ばった笑顔で吐き捨てた。
苦悩。実際胃の中のものを吐き出したかった。これではまるで浅ましい生き物みたいだ。損得なく人を愛したい、見返りを望まず善行を行いたい。そうすれば世界はみんなハッピー、そうでしょ?
しかし悲しきかな、世界は性善説を証明できなかった。我々は打算と対価と競争の社会的動物。結局は血と糞の詰まった肉袋。君を愛したいと思うと同時に愛されたいと願ってしまうなら、こんな感情、無い方がマシだった。昨日までの私に戻してくれ、眩しいほど輝くこんな切ない世界なんていらないから。
*
私の偶像、私だけの理想、私だけの愛。永遠に届くことのない、届くことを望まない想い。重い、思い。
*
美しき愛の形を見せられても、私の愛がそこまで美しいものになるとは到底思えんのです。それはきっと、私は愛されたいからなのでしょう。
愛したいから愛するなんてそんな簡単なこともできない私は、消えてしまうべきです。
*
「無駄なんて言ってれるな、我が君。」
*
信じたい、と言う気持ちは嫌いじゃない。
*
願いは何よりも尊いものだから。
*
世界はままならねえなあ。
「一つできるようになると、また一つできないことがわかる。」
*
幸せなだけの人生ではないから、不幸せとの付き合い方を考えていかなくちゃ。
*
「この世に流れる涙が一滴でも減るなら、そう努力するのが当然でしょう?」
*
世界に夢が溢れていると誤解していた。この世に劇的なことは少ない。人はただ、平易な一日をなんとか尊大に生き続けているだけなのだ。
*
カラリと別れを告げる人でありたい。