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私の坩堝  作者: 芳田
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垂れ流し6

大学の終わりから社会人一年目

思い返せば人生で一番病んでいた

振り返ると、僕には何もなかった。何かを持っている人間の方が少ない世の中で、それは世知辛くも普通ではあるのだが、いかんせん寂しさを感じずにはいられなかった。

趣味がないわけではない。しかし、それはどれも僕が感受するのみで、僕のものではない。ただ搾取するだけの生き方だ。

僕を、見つけたいと思った。

僕と世界のズレ、僕だけの視界。



何事も小さな機械で調べられる時代だけれど、知識で腹は膨れない。僕は形作られない。故に外へ出る。



ただ一つの殺意を胸の内に秘めて生きている。



崩れていく私という螺旋。

確かな地盤ゆえの血塗れな足。

正しく生きるとはなんでしょうか。

より良く生きるとはどういうことでしょうか。

わたくしには人の心がわかりません。

わたくしの思う以上に人々は強く、『私』は脆い。

何もかもが大切だったから、何もかもが大事ではなくなりました。

どこかの誰かが、みんなを好きということはみんなを嫌いと同義だと言いましたね。

えぇ、きっと、それは本当なのでしょう。

聞いてください、正しきひとたち。

私は全てを愛していました。

この世の全てを愛していました。

けれども愛する世界は今日も私を苛むものですから、この愛さえわからなくなったのです。

嫌いだから、愛していると嘘をついた。

どうでもいいと捨て置くには心がないから、大事なものだと偽った。

真の博愛主義者は異常者であるし、偽の博愛主義者もまた別の異常者です。

あなたは私を軽蔑することでしょう。

それでも私はあなたを愛しています。

一欠片の殺意を胸に秘めて、あなたの侮蔑を受け入れましょう。

精一杯の敬意を込めて、あなたにお礼を言いましょう。

(それがこの世の真実であり、正常な判断の結果なのだとしたら。)

ありがとう、愛するだれか、あるいは世界。

異常が日常な夢の中だけが救いの私に、正しく真っ当な人生を。



空が青いから死のうと思いました。

遠くの山が綺麗だったから生きようと思いました。

本当にそうなのです。他に理由なんてありません。嫌いな人なんていませんよ。ただ苦手なだけなのです。彼らはみんな真っ当で、私だけがおかしい。



人はどうして普通に生きているのかしら。

わたし、わからないんです。だって、この世にどうでもいいことなんてないじゃない。あるよ、あるけれども、今はそういう話をしているんじゃないんだ。私は、わたしには、わからないんだ。どれもがわたしに与えられた仕事で、それはわたしの義務なのだから、全部全部、こなさなくてはいけないの。わたしがやらなくてはいけないの。だれかがやるってことは、それはわたしの怠慢ゆえに他人の手を煩わせてしまっているということで、そんなのまるで、わたしが無能みたいじゃない!

「じゃあおまえは無能じゃなかったのか?」

わからないよ!わかるはずない!みんながわたしを嫌っているに決まっている!みんながわたしに死んでほしいに決まってる!

「それは極端な自己否定だな。その自己否定によって、自己顕示欲、あるいは承認欲求を満たしているとは、ふむ、実に興味深いね。」

そんな歪んだ欲の満たし方があるわけないわ。

「いいや、うっすらわかっているはずだぜ。人の好意を素直に受け取るのは難しいよな。それを嫌味と受け取る方がずっと安心する。そうだろ?おまえは寂しがりのくせに人の好意が苦手だ。いや、おまえの心が開くのが、難しいのだろうね。相手はとっくにおまえを仲間と認めているのに、おまえはいつまで経っても同じフィールドに立ってこない。地下深くにいるか、痛みの塔の頂に立つ愚かな王様といったところか。」



「助けてください…! お願いします、カミサマ! 私を、助けてください!」

彼女はみっともなく泣きながら、空へ懇願していた。

死にたくなかったから。

叶う夢があると思っていたから。

明日が来ると信じていたから。

平穏を享受していたから。

今まで信じても考えてもいなかった、無形の神に請願する彼女が、都合のいいつまらない女か、生まれたての狂信者かは誰にもわからない。

ただ確かに言えることが一つだけあるとすれば、彼女の願いは、誰にも叶えられはしないということだけだ。

「あっ、」

一閃の光線が空を走る。それは、彼女の最後の記憶。ただ一点、幾ばくかのズレもなく、はるか上空から放たれた光線は、彼女を跡形もなくこの世から消し去った。

可哀想な君、何者も信じられなかった君よ。その光がどうか、生き汚い君の救いになりますように。



何かを、忘れているような気がする。久方ぶりの休日で、ゆっくり羽根でも伸ばそうかだなんて考えていたが、何をしていても、出処不明の焦燥感が、絶えず私の胸を締め付けている。

何も、忘れてなどいないはずなのに。しかし私は、時に忘れたことすら忘れてしまうような人間であるから、こういう時の自分ほど信じられないものはないと知っている。

何を、忘れたというのだろう。月中に届けねばなるまい手紙は今朝出してきたし、前から観ようと心に決めていた映画も鑑賞した。昼も食べ、弟から買い上げたゲーム機で遊んだりなどしているが、まるで心が収まらない。

てんでわからない。この嫌な胸の締め付けは、時たま私を襲うけれど、やはり知らぬうちに消えていく。ただの精神的な発作ならば良い。しかし、本当に、もしも何かを忘れているというならば、私はそれをなんとかせねばなるまい。この嫌な塊をなんとか捨てなければいけない。



 常日頃、死にたい、死にたいと宣っていたが、実を言うと命を絶とうなどとは微塵も考えてはいないし、いざ危機を感じたならば生きるために全力を注ぐだろうと確信している。そう、私は死にたくはない。なればなぜ大袈裟な言葉がこの口から出てくるのだろうか。よく考えたところ、私はこの小さな世界で生きることが辛いと感じているということに気づいた。大海を泳ぎたいというわけではない。ただ、私を取り巻く人間関係だとか、そういう瑣末なことが、あまりに私の心を抉るものであるから、つい、死にたいと勘違いしてしまったのだ。

 結末を知らない漫画がある。見ていない絶景がある。食べてみたい料理がある。この世にやり残したことは沢山あって、きっとそれはこの生涯でやり切れはしなくて。

 世界を愛している。愛する世界を知り尽くすために、私はまだ死にたくない。でも、生きていくために必要なお金を稼ぐための場があまりに、あぁ、あまりに辛いものだから、世界を楽しむ心さえ失せてしまったのだ。

 どうすれば私は立ち直ることができる。どうすれば、どうすれば。助けてくれと心が叫ぶ。理解してくれと、伝えられたら。



それが詩だと言えるなら、私の書くこの文だって詩になるはずだ。

けれど、誰かの物差しで測られるこの世界で、誰にも見向きされないこの言葉たちは、詩だとか随筆だとか、そんな高尚なものに果てることはなく、寝台の下の埃のようにひっそりと積もっていくだけ。

風が吹けば散るように、経年劣化していく電子データの想い出だ。

私の感性を返してくれ。

十四歳の恥ずかしげもない狂おしくなるほどの情熱と先走りを今の私にもう一度だけ。



それでも、この世界を愛してる。



「人は、死ぬぜ。」

 彼女は細身の煙草を吹かしながら呟いた。少し遠くの街灯や、何処かを走る車のヘッドライトが、時たま彼女の顔を照らすが、その感情はわからない。だが、それでも、彼女の言いたいことが僕には痛いほど伝わった。

 人は死ぬ。寿命だとか運命だとか、そう言ったものではなくて、漠然と、漫然と、命の終わりを悟る日が来る。

 知らぬ家族の団欒だとか、脇を駆け抜けていく子供らだとか、夕焼けがただの橙色の空でしかなくなっただとか、かけがえのない何かを失った/手に入れられないことを実感した時、人は死ぬ。

 


寄せては返す、波のような女の子だった。



謝罪が、誠意でなくなったのはいつの頃からだろうか。

謝罪とは諦めであり、妥協であり、拒絶である。

もはや壊されない、ベルリンを真っ二つにした壁よりも分厚く硬い壁を作る行為、強固の意思の表れが謝罪。



バックミラーから見送る繁華街の美しさよ



一夜の頓服



消えゆく我が愛、山並みに燃ゆる雲のあかさよ。



君を私の人生の一ページとして語ろうとする自分が嫌いだ。

君はただ君であり、私は君に何もなし得ず、そして君はいなくなった。ただそれだけのこと。


劇的でいたいだけでしょう?けれどあなたは劇的ではないから必死になって探したのが彼らだった。

あなたにはない激情を持ち、あなたにはない渇望を持ち、あなたにはない博愛を持った彼らがあなたは羨ましくてたまらなかったのでしょう?


ちっぽけなあなたを埋めるために彼らを理由にするな。

あなたを語るならあなたを語らなければいけないとなぜわからない。

過去の出来事ではなくあなたの思考をこそ伝えるべきだ。


僕たちは劇的ではないけれど、没個性的だけれど、村人Rかもしれないけれど、それでもRは貴方一人だけであって、群れる村人の中、その記号だけでも識別されるのならそれは確固たるあなただ。


胸を張れ、諸君。過去を、思考を、期待を、恥じてはいけない。君が君を信じなければこの世はまさしく地獄と成り果てるだろうから。

だから、どうか君だけは君だけを愛して。君と言う個人に内包されたあらゆる事象を放棄しないで。



君を笑った僕を許さないで



アップデートされない私の好物と好きな店は、あなたがその時代に取り残されているからでしょうね。



倒れた売物件のタテカン、踏み潰されたカメムシ、主人を失った雲の巣、色の失せた白い紫陽花

訳のわかんねえサイケデリック・ロックが思考を掻き消している

上から降ってくる鳥の糞に怯えて歩く私の靴の裏で死んでいく名も知らぬアリ



地元とかいう括りが嫌いだった。



きっと人は、流離い、果てに一つの家を持つのかしら。愛する人と可愛らしい子供と一緒に、永遠に続きはしない夢のような日々を暮らすのね。そして子はまた流離う。



自分の歳には頓着しないくせに、家族や友人の歳を聞いて恐ろしくなることはある。

子供の頃、漠然と自分はまともに生きられないんだろうなと考えていたけれど、それを考えた道をなんとかなった私が歩いている。



ただ一面だけを切り取ってでしか物を見れないなら自分以外の生き物の世話なんてしない方が身のためよ。



「死にたくねえなあ。」

 それは会社からの帰り道。ふと口から溢れた独り言。仰々しくて、空々しくて、切実だった。

 二十一世紀の日本にあって身の危険などどこにも迫っていないのに。いや、心の危険が迫っているのか?ならばそれはモース硬度的に、世間よりも私の心が硬くはなかった/未成熟であっただけの話で、誰も悪くはない。ただ私が、私だけが変わらなければいけないだけの話なのだ。

 だが、それでも。溢れるほどでもない涙がうっすらと瞳に膜を張る。一日一日を生きるのが辛い。他人には簡単らしいことが私には難しくてたまらない。



諦めて満足の妥協点を探すくらいならいっそ消えてしまいたいと思うのです。どうせわたしのしあわせを願う人なんて私ぐらいしかいないのですから、だから私だけは諦めず、無理ならば終わらせてあげるべきなのです。



昔々の私の胸を焦がした宛所のない恋心は知らぬ間に消えていて、ただ日々を消費するだけの生き物がここにいた。

愛しさとは寂しさの裏返しなどではないのだ。

泣きたくなるほどの胸の切なさは、泣きたくなるほどの無力感に飲み込まれた。

誰かを愛するにも何かを好むにも相応の労力が伴うもので、今の疲れ切った私にはその余力がこれっぽっちも残されていない。

口を開いて二言目には、生まれてきてすみませんと零すほどに卑屈な人間ではなかったはずなのに、いつのまにやら正体不明の自罰感が始終胸も思考も抑えつけている。



茫洋たる逍遥

いずれ来る別離を隠して、そぞろに歩く我々は、果てに一つの家を持つ。

慎ましく、凡庸で平穏な日常の末に



「それでも…!!」

傷だらけの少女は、諦めの見えない瞳で宣う。

「それでもよ、ミスター。私たちは愚かで、生きることは哀しさと苦しさの連続だわ。それでも、私は生きることを諦めない。人間を見捨てたりはしない。いずれ消えるからこそ美しいものは確かに存在するのよ。」

あぁ、なんという強欲。



片想いとは針の筵じみたぬるま湯で、たった一人で完結できるところに問題があるのです。この口からこの想いを吐き出さないまま生きてゆけば、この恋は決して消えないのですから。



「この胸の高鳴りを恋と呼ぶのでしょう?」

 彼女は頬を染めながらひどく大事そうに胸を抑えた。ようやく手に入れた人らしい感情、恋しさ、愛しさ。溢れて止まらないそれらを溢さないように静かに大事に栓をする。

 根本から間違っているとも知らず。目の前で首を掻き切って死んだ名も知らぬ男の死体に寄り添いながら。

「ありがとう、あなた、見知らぬ素晴らしい殿方。わたくし、今になってようやく人間になりました。あなたが好き、愛しています。だから、」

これからはずうっと一緒です。紅い頸筋に一つ、唇を落とした。



ああ、愛している、愛している、愛している!

この愛しさ、全部あなたにあげるわ。

あなたを認め、あなたを許し、あなたを縛る。



けさりと笑う。鬱蒼と笑う。からりと笑う。



あいつなんか大嫌いさ!口にするのも嫌になる。けれどもね、時折陰口のようにあいつの話なんかをすると楽しくて、縁起もなく『生きてんのかなァ』なんて笑っちまうんだよ。

俺はそんな俺が嫌いだ。こうやって語る俺も嫌いだ。あいつを、嫌いなはずのあいつを、俺の過去の一部として語るなんて、都合のいい、烏滸がましいことがあっちゃあいけねえ。



ただただ愛されたかった!

こちらから支払えるものは何もないから、ただ降り注ぐような優しい言葉の雨と温かい抱擁で私を許して欲しかった。

(そしてその幸せのなかで死なせて。)



彼女はゲラゲラと笑っていた。自暴自棄というやつだろう。ほら、よく見れば、彼女は涙を流している。失望と悲しみとやるせなさの入り交じった、心の傷から溢れ出したものだろう。

誰も分かってくれなかったなんて言うけれど、誰かに伝えようとしたことはあったのかしら。

あなたの怠惰はあなただけの責任で、あらゆる人間に迷惑をかけるわ。

死にたいなんて口をついて出るけれど、その場所から逃げ出したいって、そう言いたかったんでしょう?



だからさあ、ダメならダメのままでいいよってどうして誰も認めてくれないし許してくれないのかなあ。他に良さがあるよとかじゃなくて、だめかあ、じゃあしょうがないね! って全部許して欲しい。でもそれって結局は諦められてるってことでしょ? そういう悪い妄想のループ。

死にてえね、他人はそこまでお前のこと考えてないけど、私は考えて欲しかったよ。

愛されたかったね。



かけがえのない何かが欲しかった。

それを持っている人間になりたかった。


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