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私の坩堝  作者: 芳田
3/20

垂れ流し3

20歳〜21歳。

言い回しがまわりくどいですね。

知識が古い部分や間違っている分は若気の至りということで。

私が恋をしているわけがありません。私は夢見がちな馬鹿な女。恋をしたフリをしている自分に酔っているだけに決まっています。私はそういう人間なのです。ああ、こんな私に好かれた彼の可哀想なこと。いよいよ私は邪魔者よ。さようなら世界。



こんな僕なら死んでしまえばよかった。



もはや私一人では戻れない。愛し人の名を呼んだとて、決して届くわけがない。それでも、もはやそれしか縋るものがない。万回名前を呼んだなら、一度は聞こえてくれますか。



いつか破ってしまった約束と、何故か胸に打ち込まれてしまった恥と、宛先のない恋慕が混ざり、死にそうだ。



平成最後の夏、という響きは好きだった。それはまるで青春の終焉のような切なさと煌めきを持っていた。

きっとひどく暑いのだろう。蝉はもううるさくて仕方なくて、髪は喉に張り付いて、ペットボトルの最後の一滴までも舌で受け止めようとするほどに。

君はそこになにを見る。時代の節目というやつだ。君の人生におけるなにかしらドラマチックなことが起こるだろう。起こらねばならぬ。そうでなければ報われない。そこで君はなにを思う。僕はそれが知りたくてたまらないのだ。



夜、ひどく綺麗な月を撮った。



空に焼き付けられた噴煙のような夕焼け。襲い来る郷愁。



金の切れ目が縁の切れ目とは言ったものだが、月半ばに差し掛かるたび、僕はそれがこの世の真理であると理解する。金は天下の回りもの。なければ土俵にすら上がれないのだ。フラフラと身一つで歩いていたって金がなければ劣情が溜まるばかりでなんの気晴らしにもなりはしない。

友達は自力でなんとかしますから、人並みに暮らせる金をください。いえ、人並み程度では足りんのです。実を言えば、浪費こそ僕の趣味でして、故に今日もひもじい気持ちで生きているのです。だから金という慈悲をくれ。さもなくば、金なんてこの世から無くしてくれ。ちょいとばかし賢かったせいで生まれたこの概念はあまりに人を殺してきた、そして今また、一人の男を殺そうとしている。それは、はたして許されるのか?



毅然としてただある彼女にあたる無数のスポットライトは、おそらく常人であれば空気中に霧散してしまうほどの熱狂である。しかし彼女はその熱さに身をよじることもなく、凛と前を見据え、微動だにしないのだ。その時、僕は心の底から彼女を美しいと思い、そして、恋をしたのだ。



これは遠い昔のようでつい二年ほど前の話なのだが、僕は羊水に溺れていた。

いや、もちろん比喩だ。本気で溺れていたなら余程の変態か人造人間だろう。

そういうことではなく、僕はあまりの心細さと寂しさに耐えきれず、毎夜布団に潜り込んでは一番母の温もりを感じていたであろう子宮の中で胎児のようにうずくまり、妄想の羊水に溺れていた。 どうしてそこまで追い詰められていたのか、今となってはまるでわからないんだがね。まあ、ともかくそんな時代があったのだ。



人の影を踏むのが苦手だし、自分の影を踏まれるのが嫌いだった。うっかり人の影の頭を踏んでしまったなら人殺しのような気分になった。だれも気にならないのだろうか。



同じ日同じ時刻に失恋した男たちは同時に空を見上げ、奇跡を目撃した。未確認飛行物体。大学生になり夢もなく漫然と生きていた彼らにとってそれは少年時代を想起させるに足る重大な出来事であった。日本各地から集まった男達はかの飛行物体の正体を突き止めるために様々な活動を行うが次第にエスカレートしていき、それは一個のカルト教団と化す。モテない俺たちの持て余したエネルギーはその夜、一つの奇跡を生み出す。


「今や世界の共通語は英語とされているが、それは近代の話。過去、超文明と交流があった古代文明は独自の言語を用いていたつまり!それは未知なる超文明が授けたキーとなるのでは」

「言語なんてうつろうものあてになるか。宇宙レベルで考えた時共通語となりうるのは英語でもラテン語でもヘブライ語でもなく!数字、数式、そういった定数を持ったもので」

「そ、それはどうかな、やはり星間飛行を可能とする飛行物体を製造するような文明では我々の数学はもはや意味をなさない低レベルなものであるという可能性は十二分に考えられると思うよ。であれば我々は無数に存在する言語を複数使用して彼らの言語体系に最も近い言語で対話を試みるべきだと思うのだが。」

「えぇーーい!うるさい!しつこい!静粛に!!」


めかし込んだ男達が指輪や花束を持ちながら大股で彼女達へ近づいていく。跪き告白をする男達。彼女はみなに向かって頭を下げた。

「ごめんなさい」

ショックを隠し得ない男達。走り去る女。呆然とし空を見上げる男達。綺麗な夜空。目を細め、かっぴらく。流れ星。スローでもう一度。真ん中にきてストップ。アップ。UFO。目を見開く。

叫ぶ男達「ユーーーーフォーーー!!!!」



連日の猛暑など素知らぬ顔で、夜風は心地よい温度で私の髪をもてあそぶ。ふと、夜空を見上げる。月が、欠けていた。

(あぁ、そういえば今日は、月食だったか。)

歪に、ひどくゆっくりと、しかし確実に、月は欠けていた。なるほど、仕組みを理解しようとしないならば、あれはひどく恐ろしい事象だ。唯一この夜を照らす偽りの太陽が徐々に光を失って行くとき、過去、人々は何を思ったのだろう。

左下の赤く輝く星は火星か。あれは見れば見るほど不思議なものだ。半径三尺で手一杯である僕だが、今日はあの星のせいで夜空に奥行きを感じてしまう。光でさえ4分28秒かかるあの星。だのに、いつもより大きく見えるものだから、もしかしたら、あの星に、手が届くかもしれないと、妙な希望を抱いてしまう。

もう一度月に目をやると、先ほどよりも倍以上欠けていた。恐ろしいと、素直に思った。

(ああいうのって何時間もかかるもんじゃないのか?)

空は私が思っている以上の速度で回っているのだ。いや、正確に言えば動いているのは地球なのか? 

ともかくらもしかすると、僕はここに立ち尽くしていればあれがすべて欠ける瞬間を目撃できるのではないか。ひどく魅惑的な思いつきだった。まるで、十四歳のころに見上げた皆既日食のような高揚だった。当然だろう。今、きっと、多くの人は寝静まっているだろうが、でも、それでも多くの人がこの月を見上げている。それはとても素敵な事だと、昔も今も信じている。

ただ月が欠けただけ。それでも私はこの月をいつまでも思い出すだろう。一人で見上げたあの月を。気づかぬうちに早まった秒針の早さを。



人はたった六年ほどで変わるって言ったら君は信じるだろうか?

僕もこれはどこぞの誰かが囁いた言の葉が不意に耳に挟まったのをうっかり海馬の中に沈めたと、そういう程度の噂なんだがね。まあ聞いてくれ。人というのは小さな細胞の集合体で、それは分裂と消滅を繰り返しているわけだが、これが骨や脳も含む全ての細胞がそうして入れ替わるのに六年ぐらいかかるらしい。逆に言ってしまえばたった六年で僕は六年前の僕ではないんだ。こうして話している一分一秒、油断もならない瞬間、僕は別人に変貌していて、おそらく君も、そう。

僕なんて昨日の夕食、いや今朝のトーストに何を塗ったのかさえ思い出せないのだけれど、いわんや六年前をや、ってやつさ。君は思い出せるかい?そりゃ、断片的に、かすかに、幼少期の記憶はあるにはあるが、それはいわば僕や君の体に蔓延ったり立て篭もったりしているレジスタンスであるわけで、もしくは六年経っても僕の中の奇異な細胞が永遠に継承してしまうような衝撃を与えられたのか。

ともかく、僕も君も順繰りに、僕でさえ海馬の中のあの言の葉をうっかり思い出さなければ忘れていたこの事実を元に一つ質問をさせていただきたい。

君は誰なんだい?



例えば、雑草を刈った後の匂いだとか。

例えば、砂利道を走る車の音だとか。

例えば、青く霞んだ山と緑の畑だとか。

そんなありふれたような風景や五感が僕の郷愁を呼び、それこそが故郷であるという気分になる。僕を形成した町は多くあり、故に一つを故郷と呼びたくはない。全てが故郷であり、同時にそうではない。最近ではどれが夢でどれが本当だかもわからないので、ただ信じることしか出来ないのは歯痒いことだ。



僕には向上心がなかった。それは僕の愛すべき両親の教育不行届きというわけではなく、生まれついての怠惰が、僕をそうあらしめたと言っておこう。明日の僕が昨日の僕よりも優れている必要はない。むしろ光陰矢の如し、こう語っている僕はこの瞬間も老いへ死へ向かっているのだから一瞬前の僕よりも今の僕は劣っており、もはや生きているだけで素晴らしい。だからこそ僕は今日も万年床の上で天井の染みの数を数え挙げている。ちなみに現状を報告するならば染みはない。言っておくが天井に染みができる、というのは、よほど築年数の古い住居であるか、想像を絶するほど不衛生な暮らしを送るか、上の階の住人が死に誰にも気づかれないまま放置されているか、そんな極端な状況でなければ確認されないだろう。

まあつまり、なにもしていない。風邪でもないのに、休日でもないのに。僕は日がな一日布団にくるまりぬくぬくとしていたのであった。

なにもしていない僕であるが一応人間であると信じたいので、眠らない限り思考は続けている。偉いぞ、僕。しかし考えていることと言ったら、なけなしの金で買った週間漫画誌の未来を憂うくらいなのだけれど。



私はなにも変わらないで欲しいの。いつまでも今日という日が続くことを願ってる。変化は恐ろしいことよ。昨日の私と今日の私、今日の私と明日の私、全て違う。私は私の屍の上に立ち、また屍になるのだとしたら。とことん嫌。なぜ夢を見続けてはいけないの? なぜ朝が来るの? 私はただ微睡んでいたいだけなのに、何をも為さないことだけを望んでいるのに、それがあまりにも難しい。生きることは理不尽だ。

産み落とされたことを恨んでいるのではなく、また産声を上げたことを後悔しているのでもなく、私の望むあり方を許さない世界を心底嫌っているのだわ。


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