プロローグ(2) 一人より、二人
気分が乗ったので1日2回更新しました。
街を歩きながらグレイスは考えていた。
「魔導機構がそう簡単に壊れるだろうか」
私は学校に行かない代わりに家でそれなりの勉強をしていた。
永久機関とその周辺機構の仕組みもよく知っているつもりだ。
そんな私にしてみればあれほど安定した構造となっている永久機関が壊れるとは思えない。
「あり得るとしたら…でも…」
そう、あり得ない。あり得るわけがない。あの魔導兵の警備を破るなんて。
今までだって侵入しようとした不届きものはいた。しかしことごとく魔導兵に撃退された。全ては400年前の”あの事件”からだ。
魔導機構中核部数名が侵入、爆発により数週間魔導機構が停止し世界人口の1/10が死亡した。
人類全体の益となる魔導機構を狙うなんてあり得なかったが、起きたことは起きたのである。
それ以降プライドを傷つけられた技術者達は兵器開発に注力し、ものの数ヶ月で最低限の警備から過剰と言えるまでの警備体制を築き上げた。
その様な経歴で開発された魔導兵は恐ろしい強さを誇り、突破どころか一機も破壊されたことはなかった。
それでも機構がストップしたということはやはり侵入されたと見て間違い無いだろう…
ガタガタっ
「っ!何者!」
建物に影から音がする。手のひらを向けて近づく。いざとなれば氷の槍を放てる。
すると
「ご、ごめんなさっ…って人間?」
現れたのは可愛らしい少女。見たところグレイスより数歳下といったところだ。
「人、まだ生きていたんですね!私はルース!あなたは?」
「わ、私の名はグ、グレイス、だ」
人と話したのなど何ヶ月ぶりだろうか。
そもそも崩壊前からグレイスは人と関わるのが苦手だった。唐突に話しかけられパニックになってしまう
(お,落ち着け私。ただの人間、ただの人間…)
「どうしたんですか?そんなに緊張して」
「い、いやまぁ人と話すのが久しぶりでな。ところで君はさっき人間であることに驚いていたな。もしかして人以外もいたりするのか?なんちゃって…」
グレイスが冗談混じりで話題を振る。
しかし、
「そうなんです!」
「うんうんそうだな、まさかそんな奴がいるわけ…って?今なんと?」
「だから、この街を人以外がうろついているんです!魔導兵が!」
「え?」
魔導兵はどこまで行っても人工の兵器。作り手たる人間に逆らうなどあるはずがない。
しかしここにいるという事はやはりそういう事なのだろう。
なるほど、魔導兵の突破ばかり考えてしまっていたが、味方につけていたか。
それならば機構を落とすのも容易かもしれない。…どうやって魔導兵を味方につけるのかは置いておいて。
「ルースと言ったな。良い情報をありがとう。それでは。」
「はい!それで…ってせっかくの生存者ですよ?一緒に行動しないんですか?」
「私は人を信用しない。情報をくれたことには感謝する。お互いに頑張って生きよう」
「ちょっとぉ…」
グレイスは歩き出し、考えを整理する。
魔導兵が敵、もしかするとこの度のことは魔導兵の誤作動かもしれない。だとしたら魔導兵を全て片付ければ方がつく。魔導兵の戦闘を見たことがあるが私の能力があれば一対一ならまず負けない。最大3体程までなら対応できる。よし、魔導兵を探すか。
グレイスは考えた。しかし考えることに熱中しすぎた。
ギシギシッ
「危ないっ」
傷ついた建物が崩落してきた
危ない、間一髪のところだった…
そう思いながら起き上がると、
「嘘っ!」
足元には片足から血を流すルースの姿があった
どうやら私を庇ってくれたようだ。
幸い傷は浅いようだが、これでは動けない。
「痛っ!あ、グレイスさん、無事でよかったです!」
「あ、あぁ。ありがとう。」
「お礼はいいですよ。それより早く行ってください。今の音でじきに魔導兵が集まってきます。逃げ遅れると殺されますよ…」
「どうして…」
「はい?」
「私は君を放置して行った。それなのにどうして助けててくれたんだ?」
「当たり前じゃないですか。久し振りに会えた人ですよ?助けないと後悔します。さぁ、早く。」
人間は信用できない。しかしルースはここまでして私を助けてくれた。それに…
「私はお互い頑張って生きようと言った。それなのに見捨てて逃げるなんてできない!」
「でもどうやって戦うんですか!武器も何もありませんよ!」
「私は命をなげうってまで私を助けてくれた君を信じている。だからこそ教えよう。私は氷を操る特異体質なんだ。」
「氷を操る…ってどんな感じですか?」
「周りを凍らせたり、氷を作り出せたりする…って驚かないのか?」
「もちろんです!すごい能力ですね!でもそれでもの魔導兵には敵わないんじゃ…」
「私の能力は感情によって左右される。人を信じることが出来たことで能力も出力が上がってるはずだ。」
「そうですか!では、よろしくお願いします。」
■■■
崩落現場に魔導兵が集まる。
グレイス達はそれぞれ別の建物の陰に隠れていた。
〜数分前〜
「今の私なら10体ほどの魔導兵なら相手にできるだろう。しかし何体来るかはわからない。それに一撃で仕留めねば他の魔導兵もやってくるだろう。何か策はないか?」
「ではこんなのはどうですか?私とグレイスさんが別の建物の陰に隠れ、私が音を出します。魔導兵がそちらを向いた瞬間にグレイスさんの氷の槍で仕留めるんです。」
「それでは君を囮に使うことになってしまう。いいのか?」
「もちろんです!」
「ならそうさせてもらおう。無事に生きて倒そう!」
「はい!」
(本当にこれでよかったのか…?)
ルースが手を振る。作戦開始の合図だ。
グレイスは槍を精製し始める。人間ほどの大きさの槍だ。今までなら同時に3つが限界だったが、今では10個も出せる。これを魔導兵の核、擬似永久機関に刺せば一撃で倒せる。
(しかし、折角の擬似永久機関を壊してしまうのももったいないな…そうだ!)
精製が終わり、グレイスが手を振る。
「ドカァン」
ルースが瓦礫を投げる。魔導兵がそちらへ向かう。そして
「氷柱槍!」
今まで能力に名前などつけたことはなかったが、頭の中にこのワードが浮かんできたので名をつけた。我ながら良いネーミングだと思う。
ドサッ
魔導兵が倒れる。
しかし、1機だけ残っていた。
「グレイスさん!撃ち漏らしがあります!逃げてくだ…あれ?」
魔導兵は攻撃してこない。
「大丈夫だ!折角の擬似永久機関だから1機だけ残しておいた。全身を氷漬けにしているから問題ない!」
「そ、そうですか…でもそれをどうやって使うんですか?」
「世界中でパニックが起こっているということは、魔導機構本部だけではなく支部にも何らかの問題があったということだ。」
そう。世界には魔導機構本部を中心に4つの支部がある。
それぞれの場所で本部からのエネルギーを増幅し、万が一の時はそちらでもエネルギーを作れるようになっている。
「どうせ行かなければいけないんだ。移動手段ぐらい欲しいだろ?」
「なるほど!それもそうですね。でも、グレイスさんは分解して組み立てるなんてできるんですか?」
「実物でやるのは初めてだが…多分いけるだろう。」
「ホントですか?移動が楽になりますね!」
「それに君にも戦ってもらうために武器も作るからな?」
「ふぇぇぇ〜!勘弁してください…」
「ハハハハハハ」
「それと、これから私たちは一緒に行動するんでしょ?お互いに名前で呼び合いましょうよ!」
「そうだな。よろしく!ルース」
「はい!よろしくお願いします!グレイス!」
ルースを出すのはもう少し後にしようかと思っていたんですが、1人だと盛り上がらないな〜と思い急遽予定を変更しました。
今後も読んでいただけると幸いです。
十時間睡眠でした。