プロローグ(1) 終わりで、始まり
西暦4000年某日、文明が崩壊した。
人類は700年前突如として空気中に現れたエネルギー”魔力”の永久機関に完全に依存していた。
環境を管理し、身の回りの世話を行い、人類の”無駄”を魔力で消し去ってくれる仕組みはいつしかこう呼ばれるようになった。「魔導機構」と。
「もしもこれが止まったら」
人々の会話──無論全ての考えを魔導機構が読み取り代弁してくれるが──でよく聞くテーマだった。それに対し人々は口を揃えてこう言った「全てを魔導機構に任せて能力が衰えた人類はなすすべもなく絶滅するだろう」と。
しかしみなどこか危機感がなく,むしろそのことを誇っているかのようにすら感じられる。何故ならば魔導機構の核となるものこそかのファウスト博士の発明した永久機関だったからであり、彼らはそれに強い自信を持っていたからである。
しかし、その「もしも」が起こったのである。
皮肉にも事は彼らの予想通りに進み、ものの一か月で世界人口ほとんどが死滅した。生き残ったごくわずかな人たちもシェルターに籠り、食料が尽きるのを待つばかりだった─
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閑散とした町を一人歩く少女がいた。彼女はグレイス、17歳である。端的に説明するといじめられっ子だった。彼女は昔から感情が高ぶると冷気をまとってしまう。周りが寒くなるくらいならともかく、教室中を凍らせることさえあった。その特異体質から周囲には忌み嫌われ、次第に学校からも足が遠のいた。そんな彼女の見つけた暇つぶし、それは「体を鍛えること」であった。歴史書を読み人類は昔魔同機構に頼らず生活していたと知ったとき、彼女は嬉しかった。何もかも魔導機構がやってくれるこの時代ならともかく、自分たちの力だけで生きていくならば自分のこの能力だって役に立つのではないか。彼女は強く憧れ、同時に強い不安を感じた。
「もし、本当にあり得ない、それでも魔導機構がストップしたら人類はどうなってしまうのか」
人々が相手にしなかったことを、彼女は本気で考えたのである。
彼女とて永久機関に絶対の信頼を置いていた。しかしそれ以上に他人を信用していなかった。それはファウスト博士に対しても例外ではなく、「万が一」機構が止まった時のために体を鍛え始めたのである。鍛えると不思議なこともあった。あれほど苦しんでいた特異体質がコントロールできる様になったのである。初めは手のひらサイズの氷を作り出すのが関の山だったが、今ではかなりの冷気を自在に操ることができる。
そんなことを楽しみながら彼女は鍛えていた。
「鍛える」と言っても日常生活を機構に頼らなくても暮らしていける程度であるが、故に文明崩壊後も動ける数少ない人間だった。
これは彼女による文明の復興を記した物語である。
初めまして。十時間睡眠です。
読んでくださった方、ありがとうございます。
一日一話更新を目指していますので、駄文ですが今後ともよろしくお願いします