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取り巻き

 サクラは元の服に着替えると、城を出て自宅へと戻って行った。

 ユウトも旅の支度をするため、自室へ戻ろうとした。

 城の中で、女性が七名ほど集まって話しているところに出会(でくわ)した。

 ハヅキを中心に、臣下の娘たちとハヅキの従者が立ち話をしている。

「あらユウト様。今日は女性がが入った会議があったとか」

「クミ、それはハヅキから聞いたのか?」

 ハヅキは首を横に振っている。

 近くにいるミミが言う。

「まあ、ハヅキ様もご存知だったのですね」

「ユウト様、シロガネ家の娘を『妃候補』などにするのはどうかと思いますわ」

 とメイが言う。

「おい、それもハヅキが話したのか?」

 グラスの奥で、ハヅキは目を閉じた。

 彼女は言っていない。ユウトはそう感じた。

 また別の女性、ハナが言う。

「ユウト様は、ハヅキ様を悪者にしようとしていませんか?」

「許嫁を悪者にして何の得になる。それよりお前らはなぜハヅキの周りに……」

 クミ、ミミ、メイ、ハナ、リサ。

 全員、同じ年頃、長い髪、流行りの髪飾り。

 双子のように遺伝子が同じと言うわけではないが、ハヅキ以外、凡庸で似た感じの印象を受ける。

 リサが言った。

「私たち、ハヅキ様のためにここでドラゴン石(ドラゴンズコード)について話し合っていたんです」

 ユウトはハヅキの手をとり、五人と距離を取った。

 背が合わないため、腕を引き下げ、頭を下げさせる。

 耳に小さい声で言った。

「なぜ『ドラゴン石(ドラゴンズコード)』について話してしまったんだ」

 首を横に振って否定し、ユウトを睨みつけた。

 再び腕を引っ張る。

「では、話してないのに、なぜ彼女たちが知っている?」

「……」

 ただ首を横に振るだけのハヅキ。

 彼女も知らないところで、会議の状況が知れ渡っているのかもしれない。

「あまり多くの人間に知られないようにするんだ。水晶の女王がいなくともドラゴンを操れるものがいるとわかれば、警戒される」

 口元は木製のマスクで見えないが、グラスの奥の目を見ればわかる。

 ハヅキは半ば泣きそうになっていた。

 ユウトは娘たちに向かって言った。

「ドラゴン石については国の機密事項だ。これ以上吹聴するな」

「今日は、これから五人でスズミヤ家に伺って『ドラゴン石』にまつわる書を読んだり、探査をしたりするつもりでしたの」

「ハヅキ様一人ではとても三日では探せないですわ」

「それも禁じられるのですか?」

「ハヅキ様もお望みだと思います」

 ユウトは後ろを振り返る。

 ハヅキは肩をすくめて項垂れていた。

「……」

 確かに三日しかない。

 ゴブリンとの交渉がうまく行かないなら、対案はハヅキの『ドラゴンによる空爆』になる。

 早く見つけ出してもらうことは、悪いことではない。

 ユウトは女性たちに向き直って言った。

「わかった。君たち、ハヅキがドラゴン石を探すのを手伝ってくれ。ただ、これ以上口外するな。絶対にだ」

『はい』

 と女性たちは、明るく、大きな声で返事をした。


 ユウトは、ハヅキたちを見送った後、急いで旅の準備をした。

 だが、ケント王には出かけることを伝えなかった。

 今、ユウトがゴブリンが併合したルコール地方へ行くと言えば、反対されるに決まっているからだ。

 ユウトは、ハヅキと同じように木製で出来た、鼻と口を隠すマスクをつけ『歩いて』城を抜け出した。

 国の北の境界にあるルコールへと旅をするのに、馬を使わなかったのだ。

 馬を使えば城の人間にも、街の人間にもユウトが外出したとわかってしまう。

 だが、ルコールは遠い。

 ユウトには馬以外の移動手段が必要だった。

 街外れまで来ると、ユウトは多足虫(ゲジゲジ)を買った。

 それは大型の虫で、一匹で大人二人ぐらい乗って走れるものだった。

 頭から三つ目の節にある足を落として、その節に綱をつける金具が付けられている。

 四つめ以降の節には足場用の木の板を乗せていた。

 多足虫の背中は比較的平たいのだが、直接乗ると滑りやすいからだ。

 馬に比べ短命だが、増やすのも減らすのも簡単で、餌が簡単で維持が簡単な為、庶民の移動手段として重宝していた。

 ユウトは多足虫が苦手だった為、多足虫に繋がる綱を手渡された時、気持ち悪さで震えてしまった。

「どうした? しっかり持たないと逃げられるぞ」

「……な、なんでもない」

 多足虫の背に乗ると、綱を通じて命令が伝わり、虫は突然速度を上げ、走り始めた。

「!」

 多足虫を売った店主は慌てて叫んだ。

「おい君! 大丈夫か!?」

「大丈夫です!」

 多足虫が気持ちが悪いだけで、馬を乗りこなすユウトにとって、この程度のスピードには慣れていた。

 多足虫は軽快な速度で『北の監視塔』へ向かって行った。




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