表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/33

サクラの出発

 議場の椅子に、ユウトは座り込んだ。

 長時間の会議ではなかったが、緊張感による疲労を強く感じていた。

「サクラ?」

 呼ぶが、答えはない。

 ユウトが知らぬ間にサクラは議場を出て行ったらしい。

 ハヅキもいなかったが、ハヅキがこんな感じなのはいつものことだった。

 予想通り、まともな対抗意見はハヅキとサクラからしか出なかった。

 臣下の妻や娘は、自分の意見を話さない。

 だが、今回のサクラやハヅキの言動を見れば、もしかしたら次の会議では自分の意見を言うかもしれない。意見はなくとも、多数決を取る段になって、自らの意思を示すかもしれない。

 ユウトは、そんな三日後の変化に期待していた。

 今日採決したら完全に戦争一択だったはずだからだ。

「それと……」

 議場でサクラのことを『妃候補』と説明してしまった。

 それは全くサクラの意思を無視した、勝手な発言だった。

 サクラが『妃候補』だとしたら、ハヅキと許嫁の関係であることを破棄しなければならないだろう。

 次回、同じ説明で二人を議会に参加させられるだろうか。

「いや、その前に」

 ユウトは考えていた。

 サクラになんの説明もせず、議場にいる全員の前で、『妃候補』と説明しても良かったのだろうか。

 ユウトしかいない議場の扉が開いた。

「ユウト様」

「サクラ、ちょうどいい。話がある」

 ドレスに施された細工が、サクラが歩いた後に花が飛ぶような残像を残す。

 その様子を見ていると何か、ユウトの記憶をくすぐるものがあった。

「あの、どうなされました?」

「ああ、すまん。サクラ、まずはそこに座ってくれ」

 サクラが椅子を整え、ユウトと向き合って座る。

「今日は大変だったろう。君のおかげで、戦争一辺倒だった状況を変えてくれた」

「いいえ、そんなことは」

「それと、いきなり説明もせず『妃候補』などと言ってしまったことを許してくれ。君にも許嫁や恋人がいるのだろう?」

 サクラは顔を赤くして、俯いた。

「いいえ、そのようなものはおりません。ただ、私などを妃候補などするのは、ユウト様は迷惑なのではないですか」

「臣下たちの言ったことか。そんなもの気にするな。シロガネ家がどうであれ、お前は違う」

 ユウトは更に言葉を続けた。

「サクラ、ゴブリンとの交渉ルートを探るというが、これからどうするのだ」

「今日の内にルコール地方へ出発します。移動に一日取られてしまうので……」

 ユウトは厳しい顔になった。 

「危険すぎる」

「ルコール地域すべてが危険ではありません」

「だが、サクラまで人質になったらどうする」

 サクラの曲げた指が軽く彼女の唇に触れた。

「……王子の後ろ盾があると説明すれば、私を人質には取らないでしょう。そのように説明してもよろしいでしょうか」

「もちろんだ。だが、議会の承認が得られるまで本当の交渉は出来んのだぞ。決裂した場合、君の交渉ルートに立っている人物が危ういことにならんか」

「その点はご心配なく」

 ユウトはその言葉にも安心したという表情にはならない。

 より厳しい顔つきになっていた。

「俺も行こう」

「えっ?」

「もし邪魔だと言うなら行かないが」

 サクラは首を横に振った。

「い、いいえ。ユウト様に来ていただけるなら、心強いです」

「よし、そうと決まったら支度を始めるぞ」

「私は自宅へ戻ります。では、二つほど後、北の見張り塔の下で待ち合わせいたしましょう」

 ユウトは力強く頷くと、サクラの手を握りしめた。

 サクラは再び頬を赤くして頷いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ