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未来会議

 ユウトが想像していた通り、臣下たちが連れてきた妻や娘は、それぞの夫、父である者の意見を代弁するに過ぎなかった。

 左から一周して、全員が『ゴブリンとの全面戦争』という選択肢を口にした。

 ユウトは目を閉じて聞いていた。

 そして、そのまま左にいるハヅキに問う。

「ハヅキ、お前はどう考える」

「ゴブリンを倒す選択しかありません。しかし、ルコールで戦闘をしてはいけません。人質の命が危険に晒されるからです。人質を全面に出されたら、軍も一方的に攻撃を受ける可能性があります」

 黙って聞いていたユウトは、目を開いた。

「ルコールを見捨て、こちらから侵略するとでも言うのか」

「いいえ。ドラゴンを操り、首都ダウンチューブにいるゴブリンの王を直接空爆します」

「な……」

 ユウトは言葉に詰まった。

 今はケント王が国を収めていてドラゴンを統べる者(ドラゴンマスター)である『水晶の女王』はいない。

 すぐに出発できるドラゴンが国いないのだ。

 ドラゴンを呼び、ドラゴンを操れるものは……

 臣下たちが言う。

「ドラゴンを探しだすだけでも、時間が掛かってしまう」

「確かにスズミヤ家は、ドラゴンを扱えるかもしれませんが」

「ダウンチューブは広い。ゴブリンの王が城にいるとも限りませんぞ」

「ドラゴンを扱える、スズミヤ家の家長(かちょう)はすでに亡くなっています」

 ユウトは手を広げて臣下たちの言葉を遮る。

「……それで君は『ドラゴン石(ドラゴンズコード)』のことを調べていたのか」

「はい」

 ユウトは考えた。

 戦争を始めるにあたり、一番の懸念点がルコールにいる『人質』だった。

 奴らはゴブリンであって『人道』は存在しない。

 民間人も戦闘員の区別もない。奴らとの戦争は、ルール自体がないのだ。

「で、ドラゴン石は?」

「……」

 臣下たちが笑い始める。

「ダメだ、所詮女の浅知恵」

「これは重大な国の未来を決める会議。女が夢物語を語る場では」

「おい、お前たち、やめろ!」

 ハヅキ机の上で拳を握りしめていた。

 ユウトはその拳にそっと手を乗せ、ハヅキの目を見た。

「我慢しろハヅキ。お前の意見を実行するには、まずドラゴン石が必要なのだ。なければ叩かれるのも仕方ない」

「……」

 グラスの奥の瞳に、涙を溜めていた。

 ユウトは右にいるサクラを見た。

 目があったサクラは、頷いた。

「サクラ、君の意見を聞こう」

国中(くにじゅう)の『(きん)』を集めて、ゴブリンに渡し、ルコールの人質を救います」

 議場が一瞬、固まったように静かになる。

 ゴブリンたちは『金属』が好きだ。

 鉱石も好きだが、人の国がある側ではあまり鉱石が取れない。

 唯一取れるのが、南方の島にある『金』だ。

 ゴブリンが手に入る『鉱石』『金属』の中には『金』がないため、奴らの間では貴重なものであり、取引の材料としては理にかなっている。

「しかしゴブリンに金と人質を交換する交渉は誰が……」

「シロガネ家がゴブリンとの交渉ルートを探ります。彼らにも言語はあります。ルコールの近くには、通訳が出来る者も……」

 ユウトが頷いていると、臣下たちが挙手をする。

「なんだ」

 とユウトが促すと、臣下は立ち上がって言う。

「人が『強欲』である事の例えに『その強欲はゴブリンの如し』と言う表現が使われるほど、ゴブリンは強欲なのです。金を与えたら、一時的にはルコールを返還するかもしれないが、今度はアシドの街を取りに来るかもしれない。その時は金を倍、いや三倍要求してくる」

「王が、人質の命を取り返すのに『(きん)』を惜しむとしたらどう思うのだ」

 臣下はしばらく考えていたが、言った。

「国を治めるものの決断としては、それで正しい場合もあります」

 別の者が静かに立ち上がる。

「ゴブリンが金を要求し続けるならいいですが、交換条件に『鉄』や『銅』を要求されると国力に影響します」

「……」

 ユウトはルコールを奪還したのちは、鉄と銅の採掘を強化してゴブリンのいる北方の防衛を強化しようと考えていた。

 鉄と銅を奪われ出したら、その防衛も出来ない。防衛が出来なくなれば、ただ言いなりに資源を失っていくだけの国になってしまう。

「当然、ルコールを奪還した暁には北の防衛を強化する」

「防衛と言っても簡単ではないのですぞ」

「今攻めて、人質を救いながらルコールを奪還する方が難しいのではないか?」

 臣下は言葉に詰まって椅子に座るが、別のものが立ち上がる。

「ゴブリンに人質に屈しない姿勢を見せることが重要なのです。人質を取れば戦況が有利になるのなら、何度でも繰り返してきます。ルコール地方の人間には悪いが、割り切りが必要です」

「結果として人質を犠牲にすることになる」

「ルコール地方は、元々流刑の地で……」

 ユウトから一番離れた席の臣下が、机を叩いた。

「それは言うでない。王子は民の命を平等に考えておられる」

 サクラが祈るように手を合わせ、指を絡ませた。

 そしてユウトに懇願する。

「私に一週間の猶予をください。ゴブリンと交渉出来る場を用意します」

 ユウトが黙っていると、テーブルの端から声がする。

「はっ! 一週間だと! 長すぎる。一週間もあれば新兵が戦場で戦える」

「で、では、三日。三日の猶予をください」

 ユウトは彼女の真剣な顔を見て、立ち上がった。

「この場の会議では策を決定せず、四日後に、ここで会議を行うこととする」

 テーブルに座っている臣下たちはどよめいた。

 全員が、今日、この場で国策を決めると思っていたからだ。

「王子、悪いが軍はその三日の間も、ルコールでの戦闘を想定して兵力を集め続ける。いきなり翌日戦争を始めることは出来ないからだ」

「承知した」

 座ったまま、ハヅキが言った。

「サクラという者がいう、(きん)を使ったゴブリンとの交渉、私は反対です。私は私で、この三日でドラゴン石(ドラゴンズコード)を探します。その結果はここで報告します」

 近くにいた臣下が言う。

「待て待て、次の会議も会議に参加するつもりか?」

 ユウトがその臣下に対して言った。

「サクラもハヅキも参加させる。当然、今日来ている女性たちももう一度集まってもらう。本日は閉会する」

 議場がどよめき、そのどよめきを保ったまま、各々が議場を出て行った。




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