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ヒドインってどこの世界で生きているのかしら?

作者: 千子

わたくし、前世で散々やり込んだゲームの悪役令嬢としてこの世界に存在しております。

何故転生したのかは分かりませんけれど、よくある転生物にも特に理由はないからわたくしの転生にも理由なんてないんでしょうね。

だからといってゲームの悪役令嬢の言動はしてきませんでした。

ヒロインである聖女様から断罪されるなんて真っ平ごめんですもの。


まずは父が亡くなった親友の息子を養子にとり、義弟を不義の子と母が勘違いしているのを正し、本来母やわたくしからの嫌がらせがあった義弟もわたくしの教育の甲斐があり素直ないい子に育ちました。

もちろん義弟も攻略対象者です。

攻略の鍵は悪役令嬢であるわたくしを除く家族との和解。


わたくしの婚約者である第二王子と第一王子の確執も、兄に劣等感拗らせた婚約者を蹴り飛ばして……失礼、叱咤激励して想いをお兄様にお伝えするよう進言致しました。

第一王子は第二王子をあれほど可愛がっているのに劣等感拗らせた第二王子が嫌っていたせいで兄弟仲は拗れに拗れて冷え切ったものになるはずがすっかりブラコン同士ですわ。

度が過ぎてわたくしの入る隙間が時々ないのが難点ですわね。

もちろん第一王子と第二王子も攻略対象者です。

攻略の鍵は二人のすれ違いを直すこと。


騎士団長のご子息は立派なお父上に憧れ騎士を目指すもお母様に似てらして生まれつき体が弱く、日常生活にも支障をきたしてベッドの上の方がいいくらい。

憧れと現実との差に絶望している騎士団長のご子息を励まして出来うる限り体に良いものを差し入れし、基礎体力を付けるよう進言しました。

おかげさまで騎士団長の地位を目指すほどでは無いですがそれなりの騎士として活躍なさっております。

この方も攻略対象者です。

攻略の鍵はお父様への憧れを捨てさせて得意な絵描きで暮らしていくのを勧めること。


魔術師団長のご子息はその有り余る才覚と魔力で天狗になってらっしゃいます。

ですからその鼻っ柱をへし折るためにわたくしも最強の部類に入る魔法を習得し披露させていただきました。

そこまでの魔法はまだ覚えていなかったらしく、わたくしに畏怖と尊敬の念を抱くようになりました。

もちろん攻略対象者ですわ。

攻略の鍵はご子息を褒め称えること。


あと三人程おりますが、皆様似たり寄ったりで、わたくしはなんでこのゲームに夢中になっていたんでしょう……。

とりあえず攻略対象者は隠しキャラを含めて全員コンプレックスなどを直させていただきました。

これでヒロインの付け入る隙はないはずですわ。

もちろん、わたくしが婚約者以外の男性と親しくなり過ぎないように節度を保って距離は取っておりました。

二人っきりでお会いするなんてもってのほか。

節度を守って参りました。


そして迎えたヒロイン登場の学園生活が始まりました。

入学式に遅刻してきたヒロインが殿下にぶつかってしまい知り合うのですが、普通その前に護衛兵が殿下を庇いませんこと?

暗殺者だったらどうするおつもりかしら?

そう思い、事前に護衛兵にはもしもに備えて学園内だからと油断せず完璧に殿下をお護りするよう進言しました。

おかげで突進してきたヒロインは護衛兵に受け止められました。

殿下は全速力で走り込んできた女生徒に驚かれたご様子です。

わたくしは殿下の婚約者という人の上に立つ立場として一応ヒロインに「廊下を走るのはおやめください」と申しました。

するとヒロインは涙を見せて叫びました。

「ひどい!私が平民だからってそんな差別をするんですね!?」

あ、これはヒロインも転生者のヒドインパターンですわね。

これは困りましたわ。

早々に潰してしまうのがよろしいかしら?

わたくしがあまりのことに呆然としているという風に見せ掛けてこれからの算段をつけていると、殿下が庇ってくださいました。

「彼女は正しいことしか申していない」

「殿下……」

殿下がわたくしを見て頷くと、ヒロインに向き返ります。

「平民だからといって、廊下を走るのは幼子くらいだ。気を付けたまえ」

「もうよろしいではありませんか、殿下。この方も反省したと思われますわ。入学式に遅れてしまいます。行きましょう」

にこりと微笑めば微笑み返される。

長年の信頼と愛情が確かにあると確信が持てますわ。

しかし、そんな空気をも壊すのがヒドイン。

「あの!第二王子様なんですよね!そんな方とお知り合いになれるなんて、私、恐れ多いです!」

……今の流れでどこがお知り合いになれたというのかしら?

騒ぎに集まってきた生徒達も殿下も困惑気味です。

「私と君は知り合いではない」

殿下がはっきり申し上げても「じゃあ、これから知り合っていきましょう!」と護衛兵をすり抜けようとして思いっきり腕を跳ね上げられます。

まあ、許可なくむやみやたらに王族に近付こうとすればそうなりますわよね。

「痛いじゃない!離してよ!私はそのうち聖女として能力を顕現させるんだから!」

ヒロインは暴れ、やがて殿下から引き離すためどこかへ連れて行かれます。

これで終わればいいのですが…そうならないのが乙女ゲー転生時のvsヒドインですわよね。

わたくしも心して掛からねばなりません。

とりあえず、殿下のヒロインへの好感度はマイナスのご様子で、少し不機嫌そうに眉根に皺を寄せております。

「殿下。眉間に皺が」

「ああ、すまない。……あのような非常識な者が入学するとは、これから平民クラスは大変だな」

そうなのです。

貴族と平民とはそもそも学舎が違うのです。

原作の乙女ゲーでは貴族の学舎と平民の学舎を隔てる秘密の扉を見付けて攻略対象者と知り合っていくのですが、そこはもう絶対に開かないように学園長に申し上げて工事済みですし、どうやって知り合う気でしょうか?

あのヒロインなら壁すら乗り越えて来そうですが……。


その心配が現実のものとなりましたわ。

ヒロインが三度も学舎を隔てる壁をよじ登って注意されたとか。

登下校も馬車で通っているので声も掛けられずにいらっしゃるみたい。

平民クラスでは「私は次期聖女で王妃なのよ!」と仰って呆れられているとか。

次期王妃ということは第一王子狙いでしょうか?

第一王子にも婚約者がいらっしゃるのに?

しかも他国の王女でこんな事が知られれば国際問題ですわ。

大事になる前に処される可能性すらあるのに恐ろしくはないのかしら?

そもそも私の殿下が狙われたのも入学式だけでしたし、いえ、でも第一王子と知り合うのに第二王子の好感度を一定数上げるのは必須。

ヒロインは第二王子と知り合うべく行動をするはずですわ。


そう思ったら、見事にしてくれましたわ。

学園が無理なら王城に訪ねるという荒技をして。

もちろん門前払い。

「私は王子とは学友なんです!」

そう何度も叫んでいたようですが、殿下に先に進言してヒロインが城に突撃してくるかもしれないから門番にきつく言っておくといいと申し上げたことを信じてくださった殿下が不審者が学友を名乗って来るかもしれないが決して通さず、また自身への報告も不要だと申し上げたので、殿下はヒロインが殿下の元へ訪ねて来たことすら知りません。

わたくしと中庭でお茶会をしておりました。

わたくしだけヒロインに付けていた影に一部始終を聞いて頭を抱えておりました。


他の攻略者からも軒並み嫌われてしまい、殿下達には近付けず、妄言と周囲に迷惑を掛けていることから敬遠されているにも関わらず未だ彼女は「世界は私のためにあるのに」と呟きます。


世界は世界のものですのに。

彼女はどこの世界で生きているのかしら?


そう思っていたら彼女はこの世からいなくなってしまいました。

やはり、ヒドインってひどいからヒドインっていうんですわねぇ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポが良くて面白かったです。 [気になる点] ヒドインが王子を王子呼びなのは平民だしまだ分かるのですが、主人公は殿下と呼ぶべきではないでしょうか?
[一言] ヒドインが聖女やら次期王妃を自称・声高々に宣言するって まともな貴族やその姉弟、商人などの有力者は相手しなくても まともじゃ無い連中や何も知らない連中がヒドインに乗っかってなんかやらかす危険…
[良い点] ヒドインさんたちは、一体なぜ、ああいう思考回路なのだろうね…。
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