第32話「買い物に出かける(4)」
「な、なにがおこったんだ!? なんだこれ!? どうして!?」
魔術具を手にしていた男性が、叫んだ。
「これは結界を張る魔術具だろ!? なんで人が消える!? なんで魔物が現れるんだよ!? 話が違うじゃないか!!」
『『『グルゥウウアアアアアアア!!』』』
フードコートの隅に集まっていた人々は、消えた。
親子連れも、学生たちも──バイト中だったみのり先輩も。
代わりに現れたのは、十数匹の魔物たち。
翼を持つ彫像──大量の『ガーゴイル』だ。
「……イーザン!!」
俺は限界まで身体強化。
鉄パイプで『ガーゴイル』の首をたたき折り、腕をへし折る。突き技で、別の『ガーゴイル』の胸を貫き、コアを引きずり出す。
「レーナ! 状況を! 人々はどこに消えたの!?」
『おそらく……魔界にあるショッピングモールでしょう』
蛍火とアルティノの声が聞こえた。
『あのウサギは、魔界化したショッピングモールのマスコットキャラでした。「ガーゴイル」と一緒に現れた椅子やテーブルも、その場所のものでしょう』
「この場所と、魔界にあるショッピングモールを入れ替えたってこと!?」
『「空間入れ替え」の魔術は、似たものを入れ替える性質があります。あの魔術の異名はご存じですね?』
「『チェンジリング』──取り替えっこの魔術ね」
『そうです。人間の子と妖精の子を入れ替えるという伝説をもとに生み出された魔術です』
アルティノは説明を続ける。
『空間を操る魔術は難しいものです。ですが「似たような場所をつないで、入れ替える」なら、難易度は下がります。おそらくは魔界内のショッピングモールにも、魔術具が仕掛けられていたのでしょう』
「ちょっと待って……魔界のショッピングモールって……」
『……ランクC+の危険地帯です』
ランクC+。
魔界の中心に近く、強力な魔物が多い場所です、と、アルティノは言った。
「すぐに助けに行きましょう!!」
蛍火が雷撃の魔術を放つ。
大出力の雷撃を受けた『ガーゴイル』たちが吹き飛び、砕ける。
その中に俺は突っ込んでいく。
片っ端から鉄パイプでぶん殴り、『お邪魔ナイフ』で動きを止める。
みのり先輩は、俺の目の前で消えた。
あの人は……いい人だった。7年前の記憶だからあやふやだけど、覚えてる。
みのり先輩は、俺がバイトを始めたばかりのころ、繰り返し指導してくれてた。
あの人は……ゴールデンウィークの後、変わってしまった俺のことを心配していた。俺を元気づけるために、『魔界攻略』の動画を見せてくれたんだ。
助けたい。
あの人を、魔界なんかで死なせたくない。
「どっか行け! 『ガーゴイル』!!」
「雷撃!!」
俺の鉄パイプが『ガーゴイル』の頭を砕き、蛍火の雷撃がまわりの『ガーゴイル』を吹き飛ばす。
残りは数体。
さっさと片付けて、転移させられた人たちの救助に行こう。
見知らぬ場所で放置される不安は、俺が一番よく知ってる。
放ってなんかおけない。
そうして俺と蛍火は、魔物と戦い続けて──
数分後には、すべての『ガーゴイル』を破壊し尽くしていた。
「……ひ、ひぃぃぃ」
「……ち、違う! こんなはずじゃ……」
残ったのは、魔導具を手にした自称異能者たち。
彼らは床に座り込み、ガタガタと震えている。
「……あんたたちは、なにを、した」
「ブラッド=トキシン!? ブラッド=トキシンがしゃべったあああっ!?」
「怒りで、会話能力に覚醒、した」
そういうことにした。
「答えろ。あんたたちは、ここで、なにをした!」
「わたしの仲間が、この場で起きたことをすべて記録しています。まもなく『配信者ギルド』の人も来ます。逃げ場はありませんよ」
俺の言葉を、蛍火が引き継いだ。
「さっき『結界を張る』と言いましたね。あなたたちは人々を守ろうとしたのでしょう? でも、あなたたちが持っていたのは転移用の魔導具でした。あんなものをどこで手に入れたのですか!?」
「…………ぐ」
「答えなさい! 人々を助け出すためには情報が必要なんです。万が一犠牲が出たら、あなたたちの罪は重くなります。責任を感じているなら、すべてを話してください!!」
蛍火は叫んだ。
自称異能者たちは、震えていた。
しばらくして……彼らは観念したように、事情を話し始めたのだった。




